おきゃくさま

風子

第1話帰り道

あたしは小学4年生で、傷のついたランドセルをがたがた揺らしていた。いつもどことなく暇で、つまらなくて、学校も陰気くさくて、通り道の公園の赤く錆びてぎしぎしいうブランコも、植え込みの大きすぎる糸杉も、家から見える遠くの工場も、全部が嘘に見えた。映画のような、よく出来た絵のような。それでも気に入っていたものもあった。例えば、家から少し離れた空き地に積み上げられていた機械やその他よく分からないものの山。最初は怪我をしそうだからあたしは近寄らなかったのだけど、そこは猫の住処になっていて、鳴き声を聞いて以来、暇があればおとずれた。猫たちはよく光る目を持っていて、あたしが近所で出会う、飼い慣らされた犬たちなんかみたいに甘い声を出して鳴いたりはしなかった。そこがあたしを惹き付けた。顔色を伺ったりして、近づいてくるような手段は一切取らなかった。あたしの顔をじっと見て、居たいなら居ろとばかりにふいっとそっぽを向いた。それがあたしたちの距離間で、あたしはそれ以上踏み込んだりしたくなかったし、彼らもずっと同様であった。だからあたしはいつでもそこへ行けた。でも、中には、本当に時たま近づいてきてくれる猫もいて、そっと頭を触らせてくれたりした。最近では見かけなくなってしまったけれど、白地に黒のぶちの、すんなりした尻尾の猫がそうだった。近づいてはくれたけれど、あたしに心を許してくれたわけではないと、体で言っていた。あたしにはそれも好ましかった。あたしは安心して彼らの傍にいることが出来た。

あたしは冬の間、白すぎる息を吐いて、遠くまで見渡せる広くて暗い田んぼと夜の気配に怯えながら歌を歌って帰った。知っている歌全部をごちゃまぜにして、でたらめに歌いながら駆けた。

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