「芹。帰ろうぜ」

「ああ。今行く」

 友人の小川麦の言葉に、神木芹はそう言った。


「どこか寄っていく?」

「駅前の喫茶店。評判いいらしいよ。食事もできるみたいだしさ」

 曇り空を見上げながら芹は言う。

「じゃあ、そこに寄ってこうか」

「うん」

 そう言って、芹と麦は、透明なビニールの傘を持って、芹たちが通っている西高から駅前の喫茶店『木枯らし』に移動をした。


 地元の高校生の間で評判になるだけあって、木枯らしは結構混んでいた。(でも、その評判の通りに、なかなかおしゃれで、食事も美味しい、いい喫茶店だった)

 芹はそのお店で、ペペロンチーノとアイスコーヒーを注文した。麦は和風パスタとオレンジジュースを注文した。

 木枯らしのスパゲティーは量が多く、(それに全部がスープスパゲティーだった)味も美味しかったので、二人は途中で、スパゲティーを交換して両方の料理を食べた。


「どう? 久しぶりの地元の味はさ。そりゃ、東京には負けると思うけど、結構美味しいだろ?」麦は言った。

「普通に美味しかったよ。それに別に東京のお店と比べてなんかいないよ」窓の外を見ながら芹は言った。


 ……この間、あったあの人。

 また、あの道を通れば偶然会えるかな?


 空は今にも雨が降り出しそうな雨模様だった。そんな暗い空を見ていると、芹と麦のいる喫茶店『木枯らし』の大きな窓際の道の前を、二人の他校(東高だ)の女子高生が並んで歩いて通った。

 その女子高生の一人の顔を見て、芹はすごく驚いた。

 ……その女子高生が、この間、雨の日に、偶然すれ違ったあの、名前を忘れてしまった(小学五年生のときに、芹が傘を手渡した、雨の中で一人で泣いていた、小学五年生の)芹がもう一度会いたいと思っていた、あの他校の女子高生だったからだ。


「お、東高の白瀬薺じゃん」

 その女子高生を見て、向かいの席にいる小川麦がそう言った。

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