第55話 別れと暖炉とオトナの女と

「星がきれい」


「約束だからな。そういえば、この季節なら見えるぞ。あれが乙女座だ。北斗七星は知ってるだろ?あの柄杓の持ち手のカーブに沿って南に伸ばして、オレンジ色に見えるのがアークトゥルス、更に伸ばした先の白い星がスピカだ。そのスピカからYの字に星を結んだのが乙女座だ。北斗七星からスピカまでのカーブを春の大曲線って言うんだ」


「約束、叶った」


「そうだな。これ、ノート。返事が書いてある」


「ありがと。でも、この星空が一番の返事かな」


僕たちは卒業旅行で瀬里の別荘に来ていた。結局、どこに行くのか決まらなくて、瀬里の別荘。この1年間で3回目だ。今回は一ノ瀬さんも居るし、フルサービスだ。卒業旅行という事もあって更に豪勢な気がする。母さんも手伝いに来るとか言い出したのは困ったが大旦那が私も行きたいのを我慢するんだ!とか言ってくれてなんとか本邸にとどまってくれた。母親付きの卒業旅行は勘弁願いたい。


「ちょっと!紗織、いつまでデレデレしてるのよ!ご飯って言ってるでしょ!」


バルコニーで星を見てい僕達を麻里が呼びに来た。


「もう少しくらいゆっくりさせろよ」


「あんたねぇ。そんなのを見せつけられる私の身にもなってよ!」


「良いじゃねぇか。紗織、いきなり海外留学だぞ。ちょっとは別れの時間をくれ」


あれだけ大丈夫だと思っていた健司と麻里、卒業式の翌日に大喧嘩して一旦別れることになったそうだ。この卒業旅行には2人とも来てるし、そんなに大きな問題にはならないような気もするけど。

ご飯が終わってリビングで休憩。今年1年を振り返って話題が弾む。佳奈が大泣きで山道を走ってここまで来たこと、紗織が倒れて大変なことになったこと。瀬里が大金持ちでびっくりしたこと。そしてそんな邸宅に僕が住むことになったこと。たくさんのことがありすぎて話は尽きなかった。


「それにしてもこんなことになるとはねぇ」


「びっくりだわ」


「なんだ、健司、麻里、息ピッタリじゃないか。早く復縁しろ。そして爆発しろ」


「お前に言われたくねぇよ。さって。風呂行くぞ、風呂!」


「行くか」


「おっと待て。お前らはここで暫しまて。そして、俺達より風呂を遅く出てこい。いいな」


ここでそんなネタばらししたらサプライズにもならんだろうに。僕たちはわかったよ、と返事をしてリビングに2人残った。


「私ね。正直なところ、選んでもらえると思ってなかった」


「なんで?」


「全然、自信なかったもん」


「そうか?一番自信があるように見えたぞ?」


「そう?」


「まぁ、これは僕が独断と偏見で、僕が幸せになれるように決めた答えだからな。相手のことなんて二の次にしたんだ。愛想が尽きたら言ってくれ。他の2人に助けを求めるからさ」


「浮気宣言?させないから。そんなこと」


八ヶ岳はまた寒い。2人毛布にくるまって暖炉の前で肩を寄せ合う。


「手、温かいね」


「ああ。あの時以来か?」


「そっか。手を繋いだのはあの時以来だ。んー……えい」


2人は強く手を握りしめてお互いの感触を確かめ合う。


「そろそろお風呂、行こうか」


「うん」


2人より早くお風呂を上がった4人は急ピッチで準備を進める。一ノ瀬さんたちも手伝ってくれて準備はなんとか間に合いそう。


「それにしてもすごいケーキだな。ウェディングケーキかよ」


「いいんじゃない?一足先にってことで」


「結婚するのかな。あの2人」


「多分」


「お~~~。それで?敗者となった気持ちは?」


「嫌いになってもいい?」


「すまんすまん。冗談だ。冗談。でもま、バラバラになっちゃんじゃないかって思っていたんだよ。正直。でも良かった。こうしてまたみんなでこうやって集まって騒いで。大人になってもこんな感じでいられたら良いな」


「あ。2人が戻ってきそう」


「よぉっし。いくぞぉ!」


「カップル成立おめでとぉぉぉぉっっっ!」


「なんだなんだ。大げさだな」


「そりゃ大げさにもなるって。何ヶ月かかったんだよ。超大作映画かよ」


「みんなありがとう!」


「おおっと。主賓はここだ」


僕たちはまるで結婚式の新郎新婦の様な配置にされて恥ずかしかったが、一番恥ずかしかったのは当然のようにコールがかかったキスコールだった。


「良彦もうちょっとこっち」


「届かないんだよ!もっと牛乳飲め。そして成長させろ」


「セクハラっ!」


「いてっ!ったく、そんなところ似なくて良いんだよ」


「うるさい。ほら、はやく」


僕は腰をかがめて小さな恋人に口づけをした。


「ひゅー!!!」


「瀬里!おめでとう!」


「ありがとう佳奈ちゃん!紗織ちゃん!」


「それにしてもなんで“僕”が“私”に変わったんだ?」


「それはねぇ。えっとねぇ。オ・ト・ナになったから」


「良彦、てめぇ!」



僕たちは来月から同じ大学に通う。あの日、天文台で答えを告げた時、佳奈からありがとう、って言われたのが意外だったけど、心が救われた気がした。

この空に輝く星の時間と比べたら僕たちは、舞い散る桜の花びらのように一瞬の出来事なんだろう。でも僕たちはその一瞬を生きる。生きて最高に輝く。この小さな恋人と共に。



あとがき



まず。最後まで読んでいただきました、読者様に心より御礼申し上げます。おおよそ5時間もの時間を頂いたことになります。足を向けて寝れません。どちらにお住まいかわかりませんが。


この小説は2018年10月から書き始めて22作品目となります。一応すべて完結させているので、個人的にはそこそこ頑張ったつもりではいますが、まだまだ、といったところでしょうか。


私の小説にはプロットがありません。キャラを先に考えて、そのキャラならどんな風に生きるのか、行動を取るのか、言葉を話すのか、を積み重ねて物語にしております。以前はプロット書いていたのですが、全然違う話になってしまうので、書くのを諦めた、とも言います(笑)


この作品は私の中でも一番のお気に入りの瀬理を独断と偏見で選びましたが、皆様の推しは佳奈、紗織、瀬理の誰だったのでしょうか?気になるのでコメントいただけると作者が喜びます。


それでは、次作品でまたお会いできる日を楽しみにしております。

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それはまるで桜のはなびらのように PeDaLu @PeDaLu

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