第50話 妄想と結果とカマかけと

「っぷはぁ~。あー……恥ずかしかったぁっ!」


瀬理はそう言って身体を起こして僕の上に馬乗りに座った。


「ねぇ、良彦くん、ちょこっと本気にした?ここ、こんなふうになってるし」


「あ!ちょっ!ばっ!」


思春期なんだ。仕方ないじゃないか。それに太ももでさわさわされたら余計に!


「瀬理さん?それは……だね?」


「分かってるって。でも嬉しかったかな」


「何が?」


「良彦くん、ちゃんと僕のこと、女の子として見てくれた証拠だもの」


瀬理はそういいながらベッドを抜け出して乱れた寝間着を整えている。僕はベッドに座ってその姿を見ていたが、シャツを直す時に見えたものは素直にご褒美として受け取ることにした。ピンク。


「ゴメンね。こんなことして。でもちょっと不安だったんだ。僕、こんなんだから良彦くんが僕をちゃんと女の子として見てくれるのかどうか、って。でも本当に良かった。これで女としても佳奈ちゃんに負けないよ」


「この辺は負けてるけどな」


僕は胸のあたりを指さして瀬理をからかう。


「良彦くん……それは流石にセクハラだよ……でも大丈夫。小さい方がび・ん・か・んっていうから」


「こ。この……スケベ女め……」


「あはは。あ、一応言っておくけど、こんなの、良彦くん以外には絶対に出来ないからね。それじゃ、おやすみなさい」


瀬理は笑いながらそう言うと後ろ手に手を振りながら部屋の外に消えていった。嵐が去るとはまさにこういうことを言うのだろうか。


「あんなことをしなくても瀬理は十分に女の子なのに。ってか、まさかこの後に佳奈までここに来るんじゃないだろうな……」


僕は気持ちを落ち着かせるために洗面所に向かって顔を洗おうと何も考えずにドアを開けた。


「あ。こんばんは」


「こんばんはっ!」


バンッ!


僕が洗面所に入るタイミングで佳奈がお風呂から上がってきた。僕の顔を見たと同時にお風呂に戻って乱暴にドアを締めたわけだけど。タオルを胸のところ辺りで持っていたのでなにも見えていなかった、のはいいんだけど、半裸を見てしまったのは事実なわけで。


「佳奈?」


「なに!」


「すまん」


「なにが!」


「確認もしないで開けて」


「どこまで見えたの」


ここは正直に答えるべきか。下手に答えて怒らせる可能性。佳奈なら十二分にあり得る。素直に答えよう。


「正直に答えるぞ。その。横乳とボディーライン」


お風呂のなかで細かく足をバタバタさせる音がする。


「で!」


「で!?」


「感想の一つくらい言いなさいよ!いつもそうやってごまかすでしょ!」


確かに。でもごまかすと言うより、今回のは褒める感にになってしまう。ボディーラインはすごくきれいだったし。はみ出した胸もひと目で形の良いお椀型だと感じることが出来た。


「きれいだったよ。とっても」


「~~~んっ!!!!」


また細かく足をバタバタさせている。


「はぁ……脱衣所の鍵を掛けてなかった私も悪かったし、今回のは許してあげる。どうせ将来見られるかも知れないし?」


佳奈も突っ込んでくるな。まぁ、このままここにいたらいつまで経っても佳奈は出られないし、他の人に見られたら誤解じゃ済まない事になりそうだし。早めに退散しよう。


「それじゃ、佳奈。僕はこれで」


「あ!」


佳奈はまだなにか言いたそうだったが、スケベの烙印を押される前に退散。棚においてあった着替えは安定の水色だったのは言うまでもない。

お風呂場の中で佳奈は今の出来事を壁にもたれ掛かかって将来のことを思い浮かべていた。


「良彦が私を選んだら、一緒にお風呂とか入っちゃうのかな。裸、見られちゃうのかな。あ、でもそれは当然よね。でもあんな……」


佳奈は胸の前で組んだ手をほどき、その手を下におろして……


当然のように部屋に戻った瀬理も色々と考えていた。


「あのまま僕が押し倒しておたら、良彦くん、どうしてたのかな。あんなになってたしもしかしたら僕は……」


瀬理はくの字になって横になり、両手を太ももに挟み込んでいた。


「僕は……ん……」


(この作品は全年齢向け。作者の妄想が激しいので自重します(笑))



翌朝。センター試験第一段階選抜の結果発表。僕と瀬理の一大イベントだ。朝食を取って健司と麻里が来るのを待つ。


「よぉし。全員揃ったな。いざ!」


HPを開いて結果を確認する。こんなにドキドキしたのは初めてのような気がする。あ、昨日のほうがドキドキしたかも知れない。


「うぉっしゃぁぁっぁっ!!!」


「あ!僕も大丈夫だ!」


「おめでとう、と言いたいところだけど、嫉妬心のほうがデカイな。ふざけんな良彦!何だこれは!神様は差別しかしないのか!」


「うるせぇ。これは僕の実力だ!瀬理、良かったな!1つ目の壁はクリアしたぞ!」


「うん!これで一緒の大学に通える可能性が広がったね!」


「あー。そうね佳奈。このまま良彦と瀬理が東大に合格したら1年間は瀬理がお試しになるわよ。あんた慶応落ちたし」


「そうだな。約束は約束だからな」


「あ……」


佳奈は助けを乞うように紗織を見るが、紗織は仕方ないんじゃない?とばかりに両手を脇の横で上に開いている。


「次に分かるのは誰だっけ?」


「私。学習院の合格発表が2月17日。明後日かな」


「その後に僕たちの本試験が2月25日だな」


「このあと、みんなはどうするの?私の本試験は2月28日だけど。合格発表は3月8日。瀬理ちゃんと良彦くんの合格発表は3月10日だっけ?」


「そうだな。それじゃ、明日は僕たちは最顎の悪あがきしてる。佳奈の合格発表を見に行ってその後、みんなでどこかに遊びに行こうか」


大学受験終了まで後少し。僕と瀬理、紗織がまだ本番を控えているけど、ここまで来たらなるようにしかならない。なんにしても東大一本槍の瀬理は不合格だったらどうするのだろうか。


「ねぇ、良彦くん。昨日の夜なんだけどさ」


「!!」


「ちょ!」


「(紗織ちゃん!!)」


紗織の横に座る瀬理も紗織に自重するように膝を軽く叩く。


「ん?ふたりもなにかあったの?あっ」


紗織がほらね?という顔で僕を見る。それに続いて瀬理と佳奈も僕を見る。これが絶体絶命ってやつか。起きた出来事をここで白日の下に晒すのか。出来るかそんなこと。


「いや。その……昨日は全員と話す機会があった。内容はプライバシーに関わるので……」


「へぇー」


「佳奈が何かを察したように言葉を挟んできた」


「そうか。佳奈は別にいいんだな?あのあと、しばらく僕はあそこに居たんだけどな?」


カマをかけてみる。


「な、なんのことかしら?」


この……


「どこで何があったのか分からないけど、言えない感じのことなんだ。へぇ~」


「瀬理、お前もな?」


「瀬理ちゃん?なにかあったの?」


すべてを知っているかのように紗織が瀬理に声を掛ける」


「ええとね。良彦くんとちょーっとだけお話を……」


話の言い出しっぺである紗織。絶対に確信犯だ。こんな雰囲気を楽しんでいる。こっちを見ながら「ふふん」という顔をしている。くっそぉ。紗織との話をここでしたら僕が窮地に追い込まれるし。女の子は本当に怖いな……。

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