第42話 受験と既成事実と猫かぶりと
「しっかし、なんでこんな受験なんて制度があるんだろうな。行きたいところに行かせてくれればいいのに」
「そんなことしたら人気大学がパンクしちゃうわよ。それにそうなったらきっと卒業試験が激しくなるわよ」
「なんだよ結局テストから逃げられないのかよ」
学校に行った佳奈たちは一応行われる受験対策用の授業に出ていたものイマイチ身が入っていない。理由は佳奈の様子がおかしかったからだ。
「佳奈。そんなに気になるんなら瀬理のところで勉強すればいいじゃない」
「そうなんだけど、多分そっちに行ったほうがアレな気がするのよね」
「お前たち、ホント意味がわからねぇよな。なんでさっさと見切りをつけるとかしないんだ?あんな優柔不断のやつよりもっとマシなのがいるだろうよ」
「はぁ、そうなんだけどね。そうなんだけど一度好きになっちゃうと、ダメなのよ。健司だって麻里が他の人に取られそうになったら嫌でしょ」
「まぁ」
「それといっしょ。私が気にしてるのは、最近の瀬理がすごいのよ」
「なにが?」
「アタックが」
「瀬理が?マジで?」
「猛攻。何かある度に好きとか言ってるし、この前なんてお風呂に突撃してたわよ」
「それは……すごいな。麻里、俺が入ってる風呂に突撃する勇気はあるか?」
「なんで私にそんなこと聞いてくるのよ。セクハラでしょ。でも、まぁ、そういう時が来たらね」
「マジで?期待してる」
「健司の努力次第じゃないの」
「佳奈、俺はどんな努力をすれば良いんだ?」
「まずは大学に合格して人生を安定させるところからじゃないの」
「現実を突きつけるなよ」
3人は予備校に行った後も瀬理の話題で話が尽きなかった。健司は完全にネタ扱いしていたけど、私にとっては一大事なんだから。
「麻里、ちょっといい?」
「ん?」
「なになに??」
「健司はちょっと向こうに行ってて。というか先に帰ってて」
「女同士の話ってやつか。分かりましたよ。こういう時に真摯な対応するのが努力ってやつだろ?」
「それは最低限のことよ。そんなことも出来なかったら愛想尽かすわよ。シッシッ」
健司はハイハイ、といった感じで先に駅に向かった。これで本題に入れる。
「麻里。単刀直入に言うけど、麻里はもう、その……健司とね、したの?」
「ちょっと。なにを言い出すかと思えば。そんなの聞いてどうするのよ」
「いや、そういうのってお付き合い始めてからどのくらいでするものなのかなぁって」
「そういうの考えるのは気が早いかと思うけど?どうせ、そういうのが怖くて瀬理みたいにガンガン行けないとかそういうのでしょ?」
「分かる?」
「そんなことだろうと思ったけど。で、私と健司だっけ?その、まぁ。クリスマスイヴに」
「そうなの!?そうよね。あまり引っ張ると男の子ってダメって言うしね……。そうよね。うん」
「勝手に納得してるけど、良彦はそういうのすごく慎重になりそうだけど。佳奈が今からそんなに焦ることないと思うけど?」
「そうなんだけど……」
「あんたまさか、既成事実作ってやろうとそういうのじゃないでしょうね?」
「っっっ!!!そ、そんなんじゃないって!だって!そんなの!!(恥ずかしいし)」
「からかったつもりだけど、安心したらわ。良彦、多分そういうの一番嫌がると思うから。ま、私は佳奈の味方だから、また何かあれば、話、聞いてあげるわよ」
「ありがとう。それじゃ、私も帰るね」
早乙女邸に帰って呼び鈴を鳴らしたら瀬理が出て、「どちら様ですかー。新聞なら間に合ってまーす」とか言われるし。カメラで見えてるでしょうに。
「瀬理、なんで私が新聞勧誘員なのよ」
「意地悪してみた」
「はぁ。瀬理がこんな風になるなんて思いもしなかったわ。恋は人を変えるのねぇ」
「んー、どちらかと言うとこっちが素の姿かな?良彦くんに本気で向き合うなら隠しても仕方がないし。ちゃんと素の僕を見てもらいたいし」
「あんた……今まで猫かぶってたの……かなりびっくりだわ」
「そう?私から見れば佳奈だって良彦の前ではおしとやかになることが多いよ?反射的になにかするときは素になってる気がするけど。蹴ったりとか」
「そんな暴力女みたいに言わないでよ。否定はしないけど」
「しないんだ」
瀬理がクスクス笑いながら「お互いにがんばりましょう」なんて言うものだから、思わず「負けないわよ」なんて返事をしたけども、良彦はスポーツの景品じゃないわよ。
「相変わらずですね」
「一ノ瀬さん。瀬理ってあんな感じが素の瀬理なんですか?」
「そうですね。お嬢様はあのような感じがいつものお姿です。佳奈さま達とおられるときは違うのですか?」
「今までは違ったんですけど、最近はあんな感じです。随分フランクになったというか、男の子みたいになったというか」
「そうですね。宗介様と良彦様と幼いときから男の子と遊ぶことが多かったのでそのような性格になられたのかも知れないですね」
「その、幼いときの瀬理と良彦なんですけど、良彦のお嫁さんになる、とかそういうのって頻繁に言っていたんですか?」
「はい。それはもう。結婚式の練習までしておりましたよ。大旦那様も娘を取られるのが早すぎると嘆いておりました。ここだけの話、小学校こそ家が離れており同じ小学校、というわけには参りませんでしたが、中学校は良彦様がとこに行かれるのか良彦様のお母様に聞いて進学を決めたほどです」
知らなかった。瀬理がそこまでして良彦のことを想ってるなんて。私は高校に入ってからだから、年季が違う、というわけか。
「それは……すごい話ですね……」
「はい。良彦様が羨ましゅうございます」
最後に一ノ瀬さんは私はもちろんお嬢様の味方ですよ、と言い残して去っていったが、私はその場で今日のことを考えていた。
「佳奈、そんなところでなにしてるんだ?」
「びっくりした。良彦か」
「なにか考え事でもしてた?邪魔して悪い」
「別にいいんだけど、良彦は最近の瀬理についてどう思う?」
「ん?最近の瀬理か。随分積極的になったなぁ、とは思うけど、あれが瀬理の普段の性格なのかなって思うところはある。昔の写真を見てさ。一緒に遊んでる姿がそんな感じがしたから」
「良彦は昔、瀬理と遊んでた記憶ってあるの?」
「写真を見てうっすらと思い出した。母さんに小学校の頃の写真も見せてもらったけど、佳奈も写ってたぞ。後ろ姿とか見切れていたりとかピンぼけだったりだけど」
「そりゃ、その頃は良彦のことよく知らなかったし」
「ま、当然だよな」
「それにしても良彦はその頃から一緒だった紗織から告白されてなんで即答即答しなかったの?」
「んー……それ、僕自身も考えてたんだけど、佳奈はなんでだと思う?」
「良彦の気持ちが分かっていれば、こんなに苦労はしないわよ」
「それもそうか。正直自分でもよくわからないんだけど、お互いに憧れだったんじゃないかなぁって思った。紗織もそんなこと言ってただろ?クラスで一番の美人で他人を寄せ付けない雰囲気。自分も友達がほとんどいなかったから、そんな紗織が憧れの対象になっていたのかなって」
「そっか。その……聞いていい?」
「答えられることなら」
「良彦にとって私はどういう存在なの?」
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