第31話 誕生日と結婚と18歳と
「なんであいつ、昨日のことは聞いてこないのよ!結婚よ?結婚!お友達になりましょうとかじゃなくて結婚よ!?」
「結婚?」
心の声が漏れてい瀬里ちゃんに聞かれてしまった。
「瀬里ちゃん。私はね?良彦と結婚したいくらいに好きなの。だから、お願い」
「ダメ」
「即答なのぉ」
「ダメ。紗織ちゃんも同じ事言うと思うよ?泣き落としはダメです」
何とかごまかせたかな。ってごまかしてなくてストレートに言っちゃってるじゃん。今になって考えてみるとすごく恥ずかしい。瀬里ちゃんにも伝わったらどうしよう……。
「結婚かぁ。僕はどうなんだろうなぁ。結婚かぁ」
「誰と?」
「え?」
「なんか結婚って言ってたから、誰とかなって」
「良彦くんと?」
「なんで疑問系なのよ。結婚したくないの?」
「したいけど、今はまだそういうんじゃなくて……あ!でもダメ。譲らないよ!」
「そっかぁ、結婚かぁ。何歳から結婚できるんだっけ?」
「確か女の子が16歳で男の子が18歳?」
「今はな。今後は男女ともに18歳になるはずだ。ほら!ホームルームだ。教室に入れ」
担任の教師に押されて瀬里も紗織も教室に押し込まれた。
結婚、かぁ。良彦くんが18歳になるのはいつだっけ?そういえば誕生日聞いたことがない。後で聞いてみよう。
「良彦くんの誕生日っていつなの?」
「なんだ急に。11月22日だぞ。良い夫婦の日だ。縁起がいいだろ」
「そうなんだ。佳奈たちの誕生日パーティーには行けなかったから、今度こそ参加するね!」
「そうだな。そのときは頼む」
健司はそんなやりとりを見て不思議そうに見つめながら、俺の誕生日は聞かれないのな、と少しふてくされていた。
「ねぇ、良彦くん、誕生日っていつ?」
「なんだお前ら。さっきは紗織が聞きに来たぞ。情報共有を頼む。11月22日の良い夫婦の日だ」
「だからなんでお前だけ……ああ、もういいや」
「お前なんでふてくされてるんだ?麻里に祝ってもらえ」
「お前、今日がなんの日か知ってんのか!?」
「誕生日だろ?健司の」
「分かってんのなら祝え!くそ!」
「はいはい。おたんじょーびおめでとー。ぱちぱちぱちぱち」
麻里が面倒くさそうにお祝いの言葉を述べた。流石に可哀想になってきたので、昼飯をおごるから元気を出せ、と肩を叩いてあげた。
「なぁ、麻里。あいつなんであんなに鈍いと言うか思い出さないんだと思う??」
「例の件?本当に忘れてるか、記憶消失でもしてるんじゃないの?あんなに印象的なものなら普通覚えてるでしょ」
「だよなぁ。俺も気になってるんだよ」
「なによ。あんたも忘れてるんじゃない」
「さて。今日は学祭実行委会があるぞ。今日は麻里も参加するんだろ?行こうぜ」
学祭準備室では、各クラス、部活から集めた出し物の一覧表を作っているところだった。
「あ。先輩。お疲れ様です。で、ちょっとこれ見てくださいよ。どうします?」
2年生代表の依子ちゃんが見せてきたのは、男装・女装カフェそれが1学年に1クラスづつある。1学年3クラスしかないのに。
「この学校は性別転換が好きなのか?」
「いやだなぁ。僕が流行らせちゃったのかなぁ」
瀬理がくねくねしながら自慢気に話す。まんざらそうでもないかも知れない。瀬理は有名人だし。
「もうめんどうくせぇから、全部やらせちゃえばいいんじゃぇのか?」
「そんなに入れる教室ないだろ」
「いや、喫茶店ってなにも室内じゃないとダメって決まりないだろ。オープンカフェだってあるし。例えばだな。1クラスは普通に教室、別のクラスはメインステージ前で座って見てる人たちに。最後は体育館でのイベントを見ている人たちに。ってのはどうだ」
「それ、素敵。体育館のイベントは片隅にテーブル出してディナーコンサートみたいにするの!」
佳奈が勝手にイメージを膨らませているが、やるなら現実的かも知れない。軽音のライブなんで見ながらお茶なんてできないだろうからな。
「よし。それじゃ、そういう感じの条件は可能なのか麻里は先生に聞いてきてくれ。それ次第で各クラスにやりたい場所を決めてもらおう」
「その場合はテーブルが必要だな。野外ステージ前だと、映画館で使ってるような片手で持てるトレーが必要か?」
健司が腕組みしてブツブツ言っているが、嫌がっていた割に結構乗り気じゃないか。紗織も健司に、それはいくら位なのかな?とか聞いているし、瀬理はそれをノートに競りしているようだった。副会長の佳奈は言うだけ言って妄想を膨らまして上機嫌だ。一番何もやっていない気がする。
麻里が戻ってきて確認の結果、問題ないとの返答を得たとのことで、本格的に開催範囲の検討を始める。単純にOKとだすと各クラスで企画が暴走しかねない。
「他のクラスは何を出してきてるんだ?」
「後は結構普通ですよ。中庭で焼きそばとか、運動部ではやる気なさそうにカップ麺の販売とか。定番のお化け屋敷とか。あ、これすごいですね。クラスで演劇やるところありますよ」
「演劇部と勝負でもするのか?題目はなんで書いてある?」
「オリジナルみたいです。題名と想定時間しか書いてないです。題名は「あの日見た光景を僕たちは忘れない」だそうです。演劇時間は40分」
「なんか聞いたことあるような題名だな。タイムテーブルに入れてみて日時を検討してみよう。そこまで気合入ってるのなら実現してやりたいし」
部活関係の出し物は毎年同じようなものだが、結構人気なのが柔道部の柔道体験だ。投げ飛ばされるのが人気らしいけど、変な奴らが多いんだな。あとは毎年恒例のダンス部演目。アイドルみたいに歌って踊るんだ。なんでも作詞作曲も自分たちでやっているらしい。まぁ、名物になるわけだよ。
「あの、代表、こんなのがあるんですけど、大丈夫なんですかね……」
「ボルダリング。第二体育館の肋木に板を付けてそこでやるらしんですけど、学校から許可出ますかね?危険とか言われたりして」
「ろくぼく?」
「ああ、あの第二体育館にある木製の梯子みたいなやつです。あれ、肋木っていうんです」
「始めてきたな。それも先生に聞いてくるしかないかな。最低限、下に分厚いマットとかヘルメットとか必要になるだろうけど」
「良彦、そういえば第二体育館、他に使う連中いるのか?」
「ああ。バスケ部が3on3、剣道部が剣道体験、だな」
「剣道部……あの防具を来場者に貸すのか?ファブリーズってそんなに強力だっけか」
概ね出揃って被っているのは男装・女装カフェくらいだ。個人的にはどこか1クラスはメイドカフェとかやって欲しいものだが。
「ところで、ウチのクラスは何をやるって書いてあるの?」
「その男装・女装カフェだ。瀬理の影響じゃないか?ってか、この学園祭、毎年、メインステージで男装女装コンテストがあるだろうに」
「あ。今年の優勝者は僕で決まりだね!」
それは間違いなさそうだ。参加者は戦意喪失しそうだな。
「依子ちゃん、タイムテーブル、収まりそう?」
「多分大丈夫です。ただ、各出し物のの撤退開始準備時間がどれくらいかかるのかわからないので、それを確認しないとですね」
「それの確認、2年生に頼めるか?」
なんだ。学園祭実行委員、結構楽しいじゃないか。最初はため息が出たが、やってみると結構楽しい。当日は仕切りで色々と大変そうだけれど。
学園祭実行委会の後は昔の4人で例のファミレスに向かった。瀬理は家の用事、紗織は病院に戻った。瀬理に家の用事なら手伝うと言ったら「僕の部屋の模様替えだから見られたくない」とのことだった。
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