第28話 前夜祭と写真と解けない約束と

「ねぇ、それはなにをやってるの?」


タブレットで学園祭の写真を2人で見ていると、瀬里から沢山質問が飛んでくる。独りだと出し物とか入りにくいもんな。


「瀬里、こんなのもあったぞ。瀬里がやってたらどっちでも大人気だったと思うぞ」


僕が見せたのは男装女装カフェ。男装は見れるものが大半だったが、女装は酷いものだった。まぁ、それを狙ったフシはあったけども。


「学園祭の管理って言ってもなぁ。そうだ。生徒会って動くのかな?そもそも学園祭の予算って生徒会も絡むんじゃないのかな」


「生徒会かぁ。僕、あそこ嫌いなんだよね」


瀬里が嫌いと断言するのは珍しい。当然のように僕は理由を聞き返す。


「僕が入学したときの生徒会長が、男装するのは如何なものか!?って異議申し立てをしてきたらしいんだ。職員会議ではOK出た後に」


「結局どうなったんだ?」


「ん?結果的には男装OKになったんだけど?」


「ああ、すまん。経過を知りたくてな」


「えーっと。あ、そうだ。副会長がLGなんだっけ?なんかハンバーガーみたいな名前のナントカカントカ言い始めて折れたって聞いてる」


「ああ、LGBTな。副会長からは瀬里が女子が好きな女子、って思われていたみたいだな」


「えー!そうなの?ところで、その写真はどこまであるの?」


「ん?これか?」


瀬里はタブレットの写真がどこまで古いものがあるのか気になったようだ。確かこれは……。


「ああ、小学校の卒業式までだな。これより先はフィルム写真とかなのかな」


「ざんねん。もっと昔の写真があれば、僕と遊んでるのも見れたかも知れないのに」


写真。そうだ写真だ。中学校に上がる前の写真を見れば紗織との約束とか色々と分かるかも知れない。


「瀬里の家には小さい頃の写真って無いのか?」


「多分あると思うんだけど。宗介の写真もあるくらいだし。


「ちょっと探してもらえないか?僕も母さんに聞いてみる」


これは核心に迫れるかも知れない。小学校の頃の僕になにが起きたのか。紗織となんの約束をしたのか。健司がなぜ佳奈と紗織のどちらかを選べって言っていたのか。


「小学校の頃の写真?あるわよ。見たいの?」


「ちょっと。昔、瀬里と遊んでたって聞いて気になって」


「えっと。私の部屋だったかな?ちょっと待ってて」


僕と瀬里はそれぞれのアルバムを持ち寄って写真を確かめていった。


「ねぇ、この子、紗織ちゃんだよね?」


「ああ。そうだな」


「すごい。美人だし、大人みたい」


「だから、女子からは妬まれていたみたいだぞ」


「そんなものなのかなぁ。美人を妬んでも、自分が美人になるわけでもないのに」


全くその通りだ。僕の場合もそうだ。僕をのけ者にしても、あいつ等が勉強が出来るようにはならなかっただろうに。


「なんか良彦くんも独りの写真が多いね」


「だから言ったろ?小学校の思いでは良くないものが多くてほとんど忘れたって。お。これは入学式だな。このときは友達なのか分かんないけど何人か一緒に写ってるな」


「ねぇ、これ、佳奈ちゃんに似てない?」


「ん?どれ?」


「この子。後ろの」


言われてみれば似ている気もする。でもピンぼけだし、10年以上前の写真だし、そもそも同じ小学校に……。


「あ!ちょっと待ってて。母さんに聞いてくる!」


「ちょっとなにを?」


「すぐ戻る~」


早乙女収賄事件があったとき、母さんに佳奈についても聞いてみたんだった。確か転校したとか何とか言っていたような事を言っていたのを思い出したのだ。


「母さん。佳奈のことなんだけど。ちょっと教えてくれ」


「前にも聞いてきたわよね。水瀬さんのことでしょ?小学校2年だったか3年だったかの時に転校したはずよ?でもそれが良彦のいう水瀬佳奈さんなのかは分からないけど」


「当時の連絡網とかないの?」


「流石にないわよ。それに、水瀬さん、隣のクラスだったから、あったとしても載ってないわよ」


「そっかぁ」


「なんでそんなこと気にしてるの?」


「ああ、小学校のクラスメイトに東金紗織って居ただろ?あいつが僕と小学校の頃になにか約束をしたらしんだよ。それで、との時、人数は3人居たような気がするっていてて。まさかって思ってさ」


「約束ねぇ。良彦はやるって言ってやらない約束を守らない子だったからねぇ。だから忘れちゃったんでしょ」


そんなこと……あるかも知れない。実際に思い出せないし。


「お待たせ。確証は持てないけど、水瀬佳奈、という生徒が僕と同じ小学校に居たのは確からしい。2~3年の時に引っ越ししたみたいだけど」


「本人に聞いてみよっか」


瀬里はすぐに佳奈に連絡して結果はすぐに分かった。僕に電話がかかってきたのだ。


「なに?やっと思い出したの??何年かかってんのよ」


「いや、そんなの分かるわけないじゃないか。別のクラスだったんだし」


「そもそもなんで今更になって分かったのよ」


「瀬里と昔の写真を引っ張り出してて。佳奈に似てる人が写ってて。母さんに確認したら昔、水瀬って人が居たって聞いて、それで」


「そっか。で?紗織との約束は思い出したの?」


「あ、それはまだ……」


「紗織かわいそう」


「ってか、おまえは聞いてるのか?」


「上辺だけなら。聞いたのは多分違うものだと思う。あのときは”お母さんとの約束”って言ってたし。だから良彦との約束はなんなのかは分からない」


少しずつだけれど、「約束」に近づいている様な気がする。

瀬里のアルバムを見ると、僕が写っていた。これをもっと早く見ていたら瀬里との約束を思い出せていたのだろうか。約束は自分で思い出さなきゃ意味がない、か。


「なぁ、瀬里。あの時、新宿御苑で僕との約束について教えてくれたじゃん?あれって本当に思いだして欲しかった約束なのか?」


「そうだよ。なんで?」


「ああ、約束は自分で思い出さないと意味がない、って言われてた気がしてさ」


「そうだね、約束は自分で思い出さなきゃね」


「なんだよ。あるのかよ」


「知らなーい」


瀬里はそう言ってリビングから逃げ出すように出て行ったので、どこに行くんだって呼び止めたら、女の子にそう言うことは聞かないの!って怒られてしまった。


「そうか。これが宗くんか」


写真には瀬里と僕が宗くんと3人で遊ぶ姿が写っていた。瀬里の両親も写っていたから撮影したのは母さんかもしれないな。結局、それ以上の手がかりはアルバムから見つけけることは出来なかったけど、昔のことが分かってちょっと嬉しかった。小学校の頃の思い出も思い出せば嬉しいことがあったのかな……。


「今日は予備校だから、お前ら、頼んだぜ」


学祭実行委員会は放課後に開催。予備校組は参加できないので、3年生は僕と瀬里紗織の3人。今日の議題は前夜祭の出し物。昨年は中央ステージで発表をしたい部活の連中があれやこれややっていた。今年も同じ様なことでも良いけど、3年連続で同じものはどうなのか、と思ったりもする。自分で自分の首を絞めるようなことになるけども。


「なんか意見あるか?」


「芸人さんとか呼べないですか?」


予算的にどうなんだろう。と、検索してみたけど、無名の芸人で15万円程度……無理だろ。売れてる芸人だと300万円とか書いてある。アーティストなんかも同じ様なものなんだろうなぁ。大学の学園祭って予算はいくらなんだろう。


「入場料なんて流石に取れないだろうしなぁ」


「大学の学園祭では聞いたことがありますけど、高校では聞いたことがないですね」


初期の瀬里も調べてくれたみたいだが、やはりそうか。結局、お金のかからない方法になるのか。そもそも全体の予算はいくらなんだ。会計の紗織に聞いてみる。


「生徒会からは生徒1人×2,000円、学校から各クラスに10万円、って聞いてます。なので全体240万円位でしょうか」


「結構あるんだな」


「でも、各クラスの出し物もあるので、実行委員会の予算は各クラスから3万円の計36万円です」


「すっくな!中央舞台とか照明とか音響ってレンタルするんだろ?無理じゃないか?」


「あの辺、学校にあるみたいですよ。体育部連合棟の裏にある学祭倉庫にあるらしいです」


この前の2年生の女の子だ。彼女が2年生代表になったそうだ。


「よし、まずはそこの倉庫になにがあるのか確認してリストアップするか。ってか、そういうの、ないのかよ」


先生にも聞いてみたが、生徒会に聞いてみてくれと言われ、生徒会には先生に聞いてくれと言われて堂々巡りだったので、自分たちでリストアップすることにした。

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