第27話 呼び出しと学園祭と僕の約束と
「おーい、お前ら。全員放課後にちょっと職員室に来い」
ホームルームの後に担任の教師にそう言われて、怒られるようなことをしたのか、とか、あれをやったからじゃ、とか特に健司の言わなくてもいい懺悔で麻里と佳奈にボコボコにされていたのを横目で見ていたら、僕のパンツばかり見てみるのもどうなのか、と飛び火してきたけど、それは教師に怒られることじゃないし、知ってるわけがないし。
放課後に職員室に集まったら、有無を言わさずいきなり学園祭実行委員に指名されてしまって一同顔を見合わせてしまった。
「学園祭実行委員ですか?今からですか?だってあれ、11月じゃないですか。まだ9月ですよ?」
「何言ってるんだ。11月の2~4日だぞ。出し物を今月中に決めて、10月に準備だ。今からでも遅いくらいだ。というわけで出し物の案をいくつか考えておいてくれ。最終的には委員会での投票になるが、成功の確信があればおまえ達の希望のままでもいいぞ」
また、面倒くさい役回りになってしまった。でもまぁ、受験勉強漬けになるよりはマシかも知れない。
「良彦くん。学園祭実行委員なんて初めてなんだけど、何をすればいいの?」
「僕も初めてだから詳しくは分からないな。佳奈は高校1年の時にやってたよな?どんな仕事になるのか説明してくれないか」
放課後の食堂で職員室で言い渡されたミッションの作戦会議を早速始めたのだが、みんな素人で唯一の経験者が佳奈だけという不安しかない状況である。しかし、まずは経験者に意見を仰ぐしかない。
「佳奈。学祭実行委員って何をやるんだ?」
「まず。勘違いしてたらマズいから大前提を一つ。まさか”クラスの出し物を決める係”って思ってる人は居ないわよね?」
「あれ?違うのか?」
「違うわよ。あれは学祭委員。今回のは実行委員なのよ。つまり、学校全体のイベント企画管理、当日の運営を行うのです」
「うえ、なんだそれ。めっちゃ大変じゃん。高校3年生の受験を控えた人間のやる事じゃねぇだろ」
「でも楽しそう」
意外に食いついたのは紗織だった。瀬里もワクワクした顔をしている。一番面倒くさそうな顔をしいてるのは健司。麻里はため息をついているが、決まったものは仕方がない、と諦め気味だ。僕は正直、このメンバーで高校生活の思い出が作れるならやりたいと思った。
「ってかさぁ、学祭実行委員ってクラスで2人位なんじゃないの?なんで俺たちのクラス、俺たち6人もやるんだよ」
「健司、聞いて来いよ」
「そうするわ。ちょっと流石にキツいわ」
健司はそう言うと大きなため息をつきながら職員室に向かった。
「健司くん、あんなこと言ってるけど、もしやらなくていいってなったらどうするの?」
やっぱり瀬里はやりたいようだ。
「私たちだけでやる?」
紗織がそれに続く。流石にこの2人に任せるのは不安だったので、僕もやると言ったら佳奈もそれに続いた。まぁ、状況的にそうなるだろうな。
「麻里はどうするんだ?」
「私?うーん……正直迷ってる。面白そうだけど、受験勉強もあるし……」
「お。健司が帰ってきたぞ。どうだった?」
「最悪だ。代わりに人員確保出来るのならいいぞって言われた。おまえ達、やりたいのか?」
「麻里が迷っている意外はな」
「うーん……自分がちょっと嫌だなって思ってるものを、誰かに押しつけるのは嫌だから私もやる」
「おお。5人。後は健司の答えだが……」
「あー!もう!やるよ!でも折角やるんなら徹底的に楽しもうぜ!!」
かくして6人は学祭実行委員になったわけだけど……。
「あー。やられたな。普通は1クラス2名じゃないか。3年の3クラス分、全部が俺たちに回ってきたって訳か」
学祭実行委員の初の会合には1年2年の12人、僕たち6人の総勢18人だった。
「よかった。3年生の皆さんが怖い人たちだったらどうしようかと思っていたんです」
2年生代表の女の子はそう言った後に「よろしくお願いします」と頭を下げてきた。しかし、学祭実行委員って役職を決めるのか?思いつく役職って、代表、副代表、会計、書記、物資調達……他に何かあるかな。
「えーっと。まずは代表を決めた方が良いと思うんだけど、誰か指名者とかいるか?」
場の雰囲気が和んだところで僕がそう言った途端、2年生から僕が代表じゃないんですか?と言われてしまった。それに乗って3年生連中も賛成!とか言い始めた。完全に押しつけて来やがる……。
「それじゃ、副代表は僕が決めてもいいかな?」
全員を見回してそう言うと異存はないといった反応だったので、経験者である佳奈を指名した。佳奈だけ役職にするのもアレだなぁと思って、会計に紗織、書記に瀬里、物資調達に健司を充ててみた。各人が1~2年生が付いてフォローという流れにしてみたけど、これで良かったのだろうか。
「良彦、やる気満々じゃねーか」
「初会合が終わって僕たちだけになった委員会室で健司が突っ伏したまま恨めしそうに声を出す」
「諦めろ。それに物資調達って予算を使う人だぞ。おまえの好きなイベントが作れるんだぞ。いわばプロデューサーだ」
健司はとりあえずおだてておけば大概解決する。今回も案の定の結果になって、逆に麻里が若干引き気味になるほどだった。
帰宅後、去年の学園祭の写真を引っ張り出して、何をやっていたのか思い出す作業をする。
「前夜祭、初日、最終日、の2日半って感じだな。お。ここにいるのは瀬里か?」
「僕だねぇ。独りでしょ。去年は独りで学園祭の会場を歩いてた」
ソファー背もたれの後ろから僕の横に両腕をとその上に顎を乗せて話しかけられた。ほんと、最初に印象からかなり変わったものだ。こんなにフランクなやつだとは思ってもみなかったな。
「独りで学園祭って微妙だな……」
「仕方ないよ。今年のゴールデンウイークまであんなのだったから。下手にばれると面倒くさそうで。だから友達も作らないようにしてた」
「じゃあ、なんであのとき、僕たちの会話の輪に入ってきたんだ?」
「だから言ったじゃないか。僕の約束だって。良彦とまた遊ぶって約束したんだからそれを果たすためだよ。そっちからは絶対に気が付かないと思ったから」
「ああ、すまん。そうだったな」
そういえば、瀬里はあの新宿御苑での出来事の後、僕のことはどう思っているのだろうか。柿本人麻呂の返し歌、とか言ってたし、やっぱり待ってくれているのだろうか。それならいっそのこと、今聞いてしまえばいいんじゃないか?なんて?まだ僕のことを好きでいてくれてるのか、とか?いやいや、流石にそれは……。
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