第14話 あっちの告白とこっちの告白と確認と

「行ってしまった。どうする?」


まさかこんな展開になるなんて思っても見なかったので、完全ノープランだ。


「学校、行ってみる?天文台」


「この天気でか?」


「いいじゃない。他に行くところ無いんだし」


確かに行くところはないけど……。あそこ、結構密室なんだよな。佳奈はいいのかな

。それで。

僕は天文台に行ってなにをするわけでもなくポケットに手を入れて大きな望遠鏡を見上げる。夜には雨もやんで雲も晴れるだろうか。久しぶりに屋上に行ってみたい気もしたが、水たまりができてるだろうか。


「ねぇ、良彦」


「ん?なんだ」


「良彦はいいの?本当に」


「正直、分からない。でも佳奈のことは嫌いじゃない。でもこの嫌いじゃないは好きの嫌いじゃないなのかどうか、正直自分でも分からない」


「そう……」


佳奈はそう言うと、僕の背中に両手と頬を寄せてきた。


「暖かい。私はずっとこうしたかったの。本当はこのまま抱きついちゃいたいけど、良彦からまだハッキリ言われたわけじゃないから、ここで我慢する」


僕はどうしたら良いのだろう。このまま望遠鏡を見上げたままがいいのか、振り向いて抱きしめてあげればいいのか。そもそも僕はどう思っているのだろうか。

どのくらいの時間が経っただろうか。佳奈の方から離れて帰ろう、と呟いて出口に向かって行った。ここで何か言わないと全てが終わってしまう気がして僕はこう言った。


「佳奈。僕はこれでいいと思ってる。だから……」


出口に歩いていた佳奈は振り向いて僕に向かって駆け出して、僕のことを真正面から強く抱きしめてきた。こういうのは男からやるような気がしたけど、これはこれで。

晴れて恋人同士になった僕たちは駅まで一緒に向かった。佳奈はそわそわしながら手をこっちに出したり引っ込めたりしている。


「ここまで来て佳奈が照れるのかよ」


さっきは佳奈に抱きつかれたから、これはお返し。僕の方から佳奈の手を握った。


「っっっ!!」


佳奈の方を見ると顔を伏せて真っ赤になっているのが見えた。そもそも相合傘で帰っている時点で手を繋いでいるようなものの気がしたけど。そんな2人を一人の視線が追う。


「そうだったんだ。そうならそうって言ってくれればいいのに」


月曜日。上機嫌の佳奈。それを呆れ顔で見る麻里。羨ましそうに見る健司。なにか諦め顔の早乙女。東金はおめでとう、と言ったあとずっと雨の上がった外を見ている。


「どうしたの?東金さん」


「え?うん。ちょっとぼーっとしてた。でもいつからなの?ずっと前から?どっちからだったの?」


「ん?気になるの?紗織ぃ」


「ん、ちょっとだけ」


「いやな、昨日いつものファミレスでな、早乙女が2人は付き合ってるのか?って聞いたら良彦が認めたってわけよ。んで、コレがその後に撮影したプリクラ。東金も写ってるのが欲しかったなぁ」


「健司は私と瀬里と紗織の誰が本命なのよ」


「なに?選んだらOKしてくれちゃうわけ?それに今、私と、って言ったか?うんうん、仕方ないな。俺は麻里を指名しよう。もう付き合ってるけど、麻里、俺と付き合ってくれ!」


いつもの健司だ。で、いつも麻里はふざけんなって……。


「別にいいけど」


「は?」


「別にいいけど、って言ったの!」


「麻里?」


あっけにとられる僕と佳奈。早乙女と東金は話に付いてこれない、という感じだ。


「麻里さん?俺、じゃなくて、私なんかで本当に良いんですか?麻里さーん」


頬杖をついてしかめっ面で窓の外を眺める麻里を健司は覗き込むように麻里を呼ぶ。


「おらぁ、おまえらいつまで遊んでんだ。ホームルーム始めるぞ」


担任の先生がやってきて健司と麻里のやり取りも中断してしまった。


「(なぁ、健司。あれ、麻里は本気だと思うか?)」


「(多分本気だろうな。あれは麻里の本気の時の顔だ)」


「(なんだ随分分かり合ってるじゃないか。で、健司はOKでいいのか?)」


「ここまで来たらな。俺も男だしな」


「そこ。お前は確かに男だな。で、今日、ホームルームの後に何があるか言ってみろ」


「えっと。じゅ、授業でしょうか」


「避難訓練だ!」


避難訓練。正直これになんの意味があるのかよくわからない。教室から指示に従って校庭に並ぶ。全校朝礼と何が違うんだ。まぁ、授業より早く終わって、次の授業まで自習時間になるのは有り難い。


「佳奈、さっきのどう思う?」


「麻里と健司?うーん。あの顔は本気に見えたなぁ」


「健司も同じようなこと言ってたな。ま、俺達が囃し立てるようなものでもないし、放課後に図書室に行ったときにでも聞いてみるか」


放課後、今日は予備校がない日ということで図書室で勉強。今日は6人全員がいる。なんか八ヶ岳の別荘に行くことが決まった日を思い出した。


「そういえば、来月の期末試験が終わったら夏休みだけど、みんな受験勉強詰めになるのか?健司、予備校の合宿とかあるのか?」


「あるんだよぉ。しかも1週間も!」


「佳奈と麻里もか?」


「そうよ。私と1週間会えなくて残念かしら?」


「それはそうと健司と麻里は一緒に合宿になるのか」


「ちょっと。無視しないでよ」


「そうなるわね。で、健司、今朝の答えはどうなの?」


「どうなのって、お前がOKって言ったんだろ?」


「ええと、健司くん、健司くんからはちゃんと告白してないです」


早乙女が健司に言うと、東金もそうそう、と頷いている。健司が麻里に告白する空気になってきた。他人のことだとこんなに楽しいのか。佳奈もワクワクしてるようだ。


「それじゃ。麻里、俺と付き合ってくれ」


「おー……」


男らしいストレートに小さな歓声が上がる。図書室じゃなかったら大騒ぎだろう。続いて


麻里の返事。みんなの視線が麻里に集まる。


「その……。よろしくお願い……しま……す」


あんなに照れる麻里は初めて見た。冷やかしちゃいけないと思ってもコレは冷やかしたくなる。


「健司さん、今のお気持ちは?」


「感無量であります」


「ちょっと健司。まさか冗談じゃないでしょうね?」


さっきまでうつむき加減だった麻里が顔を挙げて健司を睨みつける。


「それはない。そんなところで俺は遊ばない。今度こそ俺を信じろ」


「おー……」


本日二回目の歓声。健司かっこいいな。俺もあれくらいハッキリ佳奈に言ったほうが良いのだろうか。


「なんか、僕達、お邪魔虫になっちゃったね東金さん」


「んー……なんかね」


「そうだ。僕がまた男装して付き合っちゃおうか」


その言葉に健司が鋭く反応した。コイツ、百合が好きだもんなぁ。案の定、麻里に頭を叩かれている。

帰り道で早乙女に色々と聞かれた。昔のことについて聞かれることが多かった。佳奈とはいつから知り合いになったのか、東金さんはどうなのか。


「佳奈は高校からだな。佳奈と麻里はもっと前から友達だったみたいだけど。東金は小学校の同級生だな。中学からは二人とも別の私立に行ったから。あ、でも通学は同じバスだったけど」


「その時、なにか話さなかったの?」


「なんか話しづらくてな。ほら、東金、喋らないとあんな雰囲気じゃん?」


「そっか。そういえば、なんだけどさ。僕のことはいつから?」


「なんだ?早乙女のことか?高校1年生の頃からだろ。ずっと同じクラスじゃん」


「あ、気がついていてくれたんだ」


「そりゃな。でもまさか女の子だとは思わなかったよ」


期末試験が終わって無事に夏休み。健司達の予備校夏季合宿は8月の初週。場所はなんと八ヶ岳のホテル。丁度よいので僕達も例の別荘で勉強会合宿。女の子2人と一緒に男は僕一人、しかも彼女以外となんて!と弟はまた癇癪を起こしていたけれど、知った事か。今回は執事の一ノ瀬さんが車で送ってくれた。まではよいのだが、本邸での仕事がある、ということで別荘には僕達3人だけとなってしまった。


「ご飯……どうしよう」

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