第13話 あじさいと交際とプリクラと
「井の頭公園??あじさいあるのか?」
「そう。井の頭公園だけじゃなくて、井の頭線沿線にもたくさんあるの。そこなら学校からも近いし」
まぁ、確かに去年の夏休みに佳奈と麻里、健司でディズニーランドに行った時、散々な目にあった。ネットで調べても鎌倉はすごい混雑してると書いてある。
「そうだな。なんだかんだで学校の近くって散策したこと無いし。雨が降ったら僕の家、というか早乙女の家で遊ぼう」
とまぁ、ここまで計画したのはいいんだが……。
「雨だね」
「ああ。雨だ。鎌倉に行って無くて良かった……のかな?でもあじさいって雨の中でも見てもキレイって言うし……」
「勘弁しろよ。ただでさえ混雑してるところでみんな傘なんて差してみろよ。最悪だぜ」
「そうかなぁ」
そんなことを話しながら三鷹台から井の頭公園を抜けて吉祥寺を目指していた。晴れていたらこの辺の芝生なんて寝転がったら気持ちよさそうだ。
「しかし、信じられないよなぁ。井の頭公園の池が神田川の源流だなんて。この小川がなぁ」
「ねぇ、なんでそんなにしんみりしてるのよ。東金さん、病み上がりなんだから仕方ないでしょ」
「そうよ。私達まで病人みたいになってどうするのよ」
「それにしてもこうしてみんなでお出かけって5月に僕の別荘に行って以来になるね」
「そういえばそうだな。そうだ。この後、みんなで東金さんの家に御見舞にでも行く?」
「この人数で?迷惑にならないかしら」
「んー。事前に連絡して了解貰えばいいんじゃない?」
そう言うと佳奈は東金さんにLINEを送る。
「あ、返事あったよ。伝染るといけないから遠慮しておくって。インフルエンザなのかな」
お大事に、とだけ返していつものファミレスでお昼をとることにした。
「6月ってさ。休日もないしジメジメしてるし、なんか滅入るよなぁ。なんかこう、パァッとことやりたくない?」
「あの。僕、やってみたいことがあって」
珍しく早乙女が小さく手を上げて提案する。なんだろうな。お嬢様がやってみたいこと。一般人には普通なことをやってみたいとか?
「その。ゲームセンターに行ってプリクラってやつをやりたい」
プリクラ……。聞いたことはあるけど、そんなのスマホの自撮りでよくないか?と思ったけど、早乙女がわざわざやりたいっていうものを否定するのはアレだし。みんなの反応を見てみるか。
「プリクラ?なにそれ」
健司は知らないようだ。一応、僕はなんとなくは知ってるけど、実際に行ったことはない。
「健司知らないの?プリント倶楽部っていう証明写真撮影機みたいので面白おかしく撮影するの」
「証明写真で遊ぶのか?あんな狭いところで?」
「いや、証明写真のところでやるわけじゃないから。専用の機械があって、もっと広いわよ」
「プリクラかぁ。懐かしいなぁ良彦、覚えてる?」
「何を?」
佳奈は懐かしそうな顔をして何気なく僕に聞いてきたけど、思い当たるフシがない。
「ん?なんだ?良彦と佳奈、プリクラ経験組か?」
「え?そうなの?佳奈、いつの間にぃ~」
「あれ?佳奈さんと良彦くんってそういう?」
なんか早乙女に勘違いされているみたいだ。否定するのは簡単だけど、ここは佳奈と示しを併せてドッキリ的なことをやってみよう。
「実はね。みんなには隠してたのに分かっちゃった?」
僕は佳奈の方を見て、話を合わせろ、と目配せをする。
「え?マジかよ!麻里、知ってたか?」
「知らなかった。佳奈、おめでとう。念願叶ったじゃん」
「え?あ、うん?(ちょっと麻里!)」
「(あ、ごめん。つい)」
あれ?なんか変なことになってきたぞ?念願?つまり……、佳奈は前から俺のこと?んん?どうしよう。
「なんだよ、良彦。選んだのならそう言ってくれればいいのに」
「健司、選ぶってなに?」
「ん?ああ、こっちの話だ。気にすんな」
「そう、なんだ」
早乙女は少し残念そうな笑顔でそう返事をした。誤解、どうやって解こう。ってか、この話の流れで「はい、嘘でした~」って言えない雰囲気だぞ?
ファミレスから出てゲームセンターに向かう途中に佳奈に当然のように話しかけた。
「(おい、佳奈。どうすんだよ)」
「(どうするって。あんたが変なこと言うから)」
「(いや、簡単なジョークのつもりでさ。それにしても麻里が言ってた念願ってなんだよ)」
「(それは……。そうよ!そうなの!そのままの意味!ジョークとかもう許さないんだから)」
参った。これは参った。別に佳奈のことは嫌いじゃないけど、こんなことで付き合うことになるのか?ロマンチックの欠片もないぞ。
「コレが!プリクラ!なんかエロい感じがする!」
「健司」
「あ、心配すんな。麻里にはなにもしないぞ。というわけで佳奈、は先約済みだから、早乙女!俺と!」
「え?あ、うん。いいけど」
「え?マジで?麻里、残念だが俺は早乙女とツーショットを撮影することになった」
「なんで私が残念がる設定なのよ。瀬里ちゃん、嫌ならハッキリ断らないとコイツ、調子に乗るわよ」
健司が騒がしくしてくれるおかげで6月のどんよりした天気も楽しいものに感じてくる。
「良彦?私達も……一緒に、ね?」
「お、おう」
ひどく恥ずかしい。今まで佳奈はそういうのじゃなかったから普通に話せたのに、さっき佳奈に宣言されてからいつもの調子で会話が出来ない。
「ちょっとぉ。お二人さんはもっと引っ付きなよぉ」
麻里が面白そうに二人の肩を掴んで寄せ合う。
「ちょっ!ま!俺達が前に立ったら早乙女が消えちまう!」
早乙女はこのメンバーで一番小さい。一番前にしないとなにも写らない。というわけで早乙女を一番前にして……、とやってたら宣言通り健司が横に並ぶ。
「ちょっと。一番後ろで私、一人じゃない。前言撤回。私はここに入るから」
さっき自分で寄せた僕と佳奈の肩を引き離して、間に自分の肩をねじ込んできた。どっちなんだよ……。ここに東金が居たらどこに立っていたんだろう。健司が無理やり並んでいたのだろうか。人数的には6人だから前3人、後ろ3人でピッタリのはずだけど、後ろで遠慮がちに立っていた気がする。
「な、なぁ、本当に2人で撮影するのか?」
「当然でしょ?」
佳奈はなんでこんなに積極的なんだ。念願って言っていたくらいだから、そんなに僕のことが、す……んぁぁっぁ!言葉に出さなくても恥ずかしいわ!
各面々が撮影を終えて、プリントし終わったものを並べてハサミで切る。
「おお!これ、シールになってるのか!」
「なんか昔のパカパカケータイの頃はバッテリーの裏にカップルが貼ってたらしいよ」
「お前、本当はオバサンなんだろ。プリクラにやけに詳しかったり、そんなことも知ってるって。早乙女は知ってたか?」
首を振る早乙女。佳奈は上機嫌で僕とのツーショット写真を財布に仕舞っている。どこに貼るんだあいつ。
「ところで瀬里ちゃんはなんでプリクラなんてやろうって言ったの?」
「え?あ、えと、一ノ瀬が昔、教えてくれたの。でもゲームセンターなんて行ったことなかったし、一ノ瀬も連れて行ってくれなかったから……」
そう言いながら5人で撮影したショットを見つめながら、少し残念そうな顔をしていたような気がした。
「なんだかんだで楽しかったな」
「ああ!最高だぜ!プリクラ!スマホに転送できるって最初から知ってたらやってたのにな!どうするんだこれ!」
「健司……。瀬里ちゃんが泣いてるわよ。写真をスマホで撮影して壁紙にしなさい」
「それじゃ、自撮りでいいじゃん」
「プリクラの存在意義を破壊するな健司」
引っ越しして帰り道の方向が一緒になったので、早乙女と佳奈の3人で帰路についたが、早乙女が気を利かせて「2人はもう少し遊んできなよ」と一ノ瀬さんに電話して迎えに来てもらってしまった。
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