第11話 同居と引越と週刊誌と

健司が週刊誌を手にあわててやってきた。見出しには早乙女の写真に「財閥令嬢の男装趣味」なんて書かれている。


「ひどい……」


「ふざけんなよ。なにも知らないくせに!ってか、おまえら!こんなの許せるかよ!」


もちろん許せる事ではないが、いち高校生に週刊誌に文句を言えるはずもなく。下手に声を上げるともっとマズい話になるかも知れない。


6月の降りしきる雨の中、いつものように進む授業。空席の早乙女の机。昼休みは5人集まるがあれから僕たちの気も沈んでいた。


「瀬里ちゃん、どうしたんだろう。屋敷に閉じこもってるのかな」


「連絡も付かないし俺たちではどうすることも出来ないしな」


「ねぇ、だれか執事さんの連絡先、知らない?」


執事の市ノ瀬さん。実は僕には市ノ瀬さんから連絡が来ていた。


「瀬戸さん。状況はテレビのとおりなのですが、このままではお嬢様は報道陣の格好の標的となってしまいます。そこでお願いがあるのですが宜しいでしょうか。」


「僕の出来ることなら」


「お嬢様を匿っていただきたいのです」


「ええと?」


「ああ、説明が足りずに申し訳ありません。瀬戸様のご自宅に一時的にお嬢様を住まわせていただけないか、ということです」


「その。このことは他のメンバーには?」


「大変恐縮ですが、秘密とさせて頂きたく」


「僕は問題ないのですが、自宅の両親と弟がどう言うか、あと、部屋をどうするかがありますので、僕の一存ではなんとも……」


「心得ております。既に瀬戸様のお母様には了解を頂いております」


「え?」


「はい。私と瀬戸様のお母様は以前から交流がこざいまして。そこで無理を言ってお願いした次第です。詳しくはお母様よりお聞きいただければと思います」


にわかには信じがたい事態が僕の知らないところで進行していたらしい。天文準備室で電話を受けてから自宅に帰ってみると、リビングには早乙女が座っていた。


「良彦おかえり。一ノ瀬さんからは聞いてると思うけど、そういうことだから」


「いや、説明が足りなすぎるでしょ。一ノ瀬さんからは母さんと交流があったからお願いした、としか聞いてないし」


「あれ?そこまでしか聞いてないの?母さんと市ノ瀬さん、先輩後輩の関係なのよ。母さん、昔、あの屋敷で働いてたから。で、今回の件では、余り近いところにいるとマスコミに捕まるから、この家に来たってわけ」


話の流れが早すぎて理解しがたい部分ばかりだけど、こうして目の前に早乙女がいるのは事実だし、受け入れるほかにはないだろう


「ま、まぁ、事情は分かったことにするけどし、部屋、どうするのさ。僕はこいつと2人部屋、もう一部屋だって父さんと母さんの部屋じゃないか」


「そこはねぇ。仕方ないから良彦は床に寝てもらう事になりました。良光はそのままね。男女二人だけの部屋だと思った?残念でした」


「良彦くん……、その、よろしくお願いします」


「お、おう。よろしく」


しかし、とんでもないことになってしまった。健司たちにはなんて言ったらいいんだ。隠しておいたほうがいいのか、言ったほうがいいのか迷ってるうちに、時間が経ってますます言い難くなってしまった。でもここまで来たら言わない訳にはいかないだろう。


「実は、さ。早乙女なんだけどウチに居るんだよね」


「は?」


「良彦、今、早乙女さんは良彦の家に居るって言った?」


「ああ。そうだ。簡単に説明すると一ノ瀬さんとうちの母親が知り合いで」


「まぁ、色々と聞きたいことはたくさんあるけど、なんで一ノ瀬は学校に来ないんだ?」


「健司、この状況で登校はやっぱり厳しんじゃない?」


「まぁ、そうか。マスコミもまだ騒いでるからなぁ」


「で、早乙女さんには会えるの?今日にでも良彦の家に行ってもいいの?」


「と言われると思って、その時が来たら連絡をくれって一ノ瀬さんに言われてる」


そんなやり取りの後に、放課後に僕の家に5人が集合したわけだけど……。


「兄貴。一ついいか。なんで男2人に女3人なんだ?」


「何か悪いことでもあるのか?それより、お前、学校で早乙女のことを喋ったりしてないだろうな」


「してねぇよ。でもこの状況は許せねぇ」


弟はそう言って部屋に戻っていった。なんであんなに機嫌が悪いのかと思っていたら、母さんが「最近、彼女にフラれたのよ」と教えてくれた。そんなのでこの再会に水を注さないで欲しいものだ。


「みなさん。お久しぶりです。僕の父が色々とご迷惑をおかけいたしまして……」


「早乙女自体が悪いわけじゃないだろ?家族とはいえ、むしろ被害者に近いんじゃないのか?」


「それよりも今後、どうするの?このまま良彦の家にずっといるわけにもいかないでしょ?」


「それなんだけどね。今度、引っ越しすることになりました」


突然、母さんが話に割り込んできたと思ったら、さらりと引っ越しするなんて言い始めた。


「早乙女が引っ越しするのか?母さん」


「違うわよ。この家丸ごと引っ越しよ」


「どこに?」


「早乙女家」


「は?」


意味がわからない。僕の家族全員で早乙女家に引っ越し??あの屋敷に住むのか?


「おい、良彦、どういうことだ?」


「ちょっとまってくれ。僕も今聞いた。母さん、ちゃんと説明してくれないか?」


「簡単に言うと、例の件があって、お屋敷のお手伝いさんが辞めちゃったのよ。それで、私が出戻りするってわけ。ついでに、この家の部屋も足りないからお引っ越し。良彦、瀬里ちゃん、ちゃんと守ってあげなさいね」


ひどく簡単に言うが、結構な出来事な気がする。気がするというよりでかすぎる。それに守るったってマスコミから?そんなこと出来るのか?


「なんかすごいことになっちゃって……ごめんね良彦くん」


健司と麻里、佳奈はあっけにとられている。無理もないことだ。しかも、引っ越しは来週だという。


「すごいことになったな」


「佳奈、早乙女さんと良彦が一緒に住むって」


「さっき聞いたわよ。でも東金さんも、このこと聞いたらびっくりするだろうね」


「ああ。なんか用事があるから残念だけど今日は来れないって言ってたけど、聞いたらびっくりだろうぜ」

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