雪女(7)

 椅子に坐ると、ママが私の長い髪に櫛を入れはじめたので、いつもと同じお願いをした。


「セミロングぐらいに切りたいんだけど、やっぱりダメ?」


「ダメよ。雪女の髪は長いものと決まっているの」


 いつもと同じ回答であったが、今日はパパも参戦してくれた。


「ウイッグじゃだめなのかな」


 ママが発言者の方を一瞥して、「そういうことじゃないのよ」と言い放つと、部屋の温度が数度下がった。


 比喩表現ではなく、実際に。


 パパは身震いを一つしてから、「そうだね」とうなづいた。


   〇


 読んでいたパンフレットを閉じたパパと視線が合った。


「それにしても、今日はずいぶんと早いね」


「暑いからタクシーで帰って来たの」


 私はママにお礼を言って立ち上がり、椅子に腰かけているパパに後ろから抱きついた。


「溶けては困るから仕方がないけど、無駄遣いはしないでよ。……ところで、きみも高校二年生なんだから、そろそろ将来のことを考えておいてくれよ」


 私とパパが「まだ早いよ」「早くない」と言い合いをはじめたところ、ママが微笑みながら「吉岡さんのところへお嫁にいけばいいじゃない」となかなか素晴らしい提案をしてくれた。


 パパが「年が離れすぎている」と口答えをしてきたので、私が「雪女をお嫁にした人に言われたくない」と反論すると、パパは黙り込んでしまった。

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