サキュバス(1)

 九月。


 快適だった夏休みは終わり、苦しみながら学校に通う日々がまた始まった。


 太陽を憎みながら自宅からバス停までの道を歩いていると、休みの間に家族で行ったグリーンランドのことをよく思い出した。


 氷と雪に覆われた島なのに、緑の島とはこれいかに。


 パパの話によると、島への入植希望者をだますためだったらしいけど、本当かな。


 根っからのビジネスマンのパパからすれば、お仕事の参考になる話らしいけど、私はどうかと思う。


   〇


 夏休み中は、ほとんど自分の部屋か会社の倉庫で過ごした。


 そのためもあり、ひと月の間、私の周りは平穏無事に過ぎて行った記憶がある。


 世間的には、日本各地で水不足が問題になったが、私の住む玉枝市は地下水が豊富なので、水が止まることはなかった。


 パパから頼まれたアルバイトをしたり、吉岡さんをいじめたりしていたら、あっという間に時間が過ぎていった。


 その吉岡さんとは、夏休み中に一度だけ遊んだ。


 花火を見に行ったのだけど、私は暑くて外には出られなかったので、吉岡さんのおごってくれたかき氷を食べながら、車の中から花火を眺めた。


 勉強ですか?


 うちの学校では、夏休みの宿題などは出さないので、まったく勉強をしなくてもよかったのだけれど、幼馴染の路美が家によく来たので、勉強を見てもらった。


 持つべきものは、勉強大好き眼鏡少女。


   〇


 楽しい夏休みだったけれど、時おり、何かが足りないと思うことがあった。


 暑さのせいで、何かを忘れている気がする。

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