雪女(5)
ひんやりとした通路を渡り、指紋センサーに手をかざすと、冷蔵倉庫に入るドアのロックが外れた。
そこから先はマイナス二十度の世界であったが、見た目は普通の倉庫と変わりはない。
ただ、普通の人間が私のような軽装で中に入ると、物の数分で体がおかしくなってしまう。
あと、スマートフォンの電源を切り忘れておくと最悪。
あっと言う間に電池がなくなる。
倉庫の中には棚が並べられており、私には正体不明の電子部品が保管されている。
小さな製品ばかりだが、ずいぶんと単価が高いらしく、絶対に触るなとパパから言われている。
食品の保管は基本的に引き受けていない。
割に合わないのだそうだ。
〇
快適極まりない涼しさの中、作業員の女性たちに声をかけながら、私はずんずんと奥の方へ進んで行く。
作業員は皆、色白の美人ばかりである。
彼女たちも本当は水着ぐらいで作業をしたいのだろうが、安全面からそれは許されていない。
ロッカールームに辿り着いた私は、お気に入りの黒いビキニに着替えて、次はレクリエーション室に向かった。
レクリエーション室のドアを開けると、広い室内を照らす淡い光に、プールに浮かぶ氷が反応していた。
泳いでいるのは、休憩中や勤務外の雪女たちである。
彼女たちは、一日のほとんどを倉庫の中で過ごし、建物の中を冷やし続ける。
そのおかげで、パパの会社は他の会社よりも、かなりコストを抑えられているそうだ。
そのうえ、彼女たちは作業員としても優秀と聞いている。
私は準備運動をすることもなく、プールへ飛び込んだ。
泳ぐというよりも、お風呂に入る感覚である。
凍る寸前の水の中では、美女たちが薄い笑みを浮かべ漂っていた。
私は体の芯までよく冷やすことにした。
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