雪女(3)
近隣住民の苦情がうるさいらしく、学校から表立って言われたことはないが、車での送迎は禁止されていた。
私はバスで通学をしていたが、今日はバス停から家まで歩く気力がなかった。
そのため、学校から少しだけ離れたところからタクシーに乗り、家へ帰った。
運転手さんに頼んで、体に溜まった熱気を取り除くため、タクシーの冷房を最大にしてもらった。
しばらく走ると、タクシーの前方に、見飽きた白い倉庫が現れた。
側面には青字で、白川冷蔵倉庫株式会社と記されている。
私のパパの会社であった。
そう、私はいちおう、社長令嬢なのである。
タクシーは倉庫の周りを少し走ると、正面入り口から会社の敷地へ入り、事務所の前で止まった。
体を震わせながら、タクシーの運転手さんが「着きましたよ」と私に降車を促す。
タクシーのエアコンに、私の体から出ている冷気が加わり、車内はキンキンに冷え込んでいた。
私は窓から黒いアスファルトを見下ろしながら、心中で独白した。
あなたは早く私に降りてもらって体を温めたいのでしょうが、私の方はドアを開けて自ら灼熱地獄に飛び込まなければならないのです。
それには勇気がいるのです。
少し待ってください、と。
パパが昔話で教えてくれたけど、昔のテレビには、熱湯コマーシャルというのがあったらしい。
熱湯風呂を前にしたアイドルは、私のような気持ちだったのだろうね。
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