第32話 急降下

俺たちは全員が支配の塔、1階に立っていた。


「ゲームはどうなったの?ここは?」


セルシさんが俺に質問してくる。それはそうだ。セルシスさんはここに来るのは初めてだろうからな。かく言う自分も2回目だ。他のメンバーもなぜ支配の塔に自分たちが居るのか分からずに互いに理由を確認している。とりあえずリーダーは俺ということになっている。この場を仕切る義務がある。


「みんな!とりあえず今起きたことを整理しよう。俺たちはOPW、ミストラルエリアにあった塔の中でコンソールに鍵を差し込みseven keys worldを起動、ゲームスタートした。その後が今の状況だ。この場所はUGW中央にそびえ立つ支配の塔1階だ」


セルシスさん以外は、それは分かっている、という顔をしている。俺は続けてメンバーに話しかける。


「正直なところ、ここが本当に支配の塔1階なのか分からない。あのゲームをオールド・マスターが作ったものだとしたら、スタート地点が支配の塔1階を模したものである可能性も否定できない。そこで、皆にはあのコンソールで設定した自信の種族や得意武器についての特徴が自身にあるか確認して欲しい」


各自、コンソールで設定したキャラクターの状況を確認し始めるヒューマンはそのままだろうが、ドラフなんて角が生えてるはずだ。見たところドラフを選択したはずのガルに角が生えているようには見えない。俺はヒューマンの格闘を選んだが、今までと特段の変わりはない。


「なにも……ないですね」


エルーンを選んだアリーシュさんは自分の耳を触りながら皆を見回して同意を求めた。

確かになんの変化もない。得意武器といっても特段の武器を持っている訳でもない。見た目もなにも変わっていない一旦、外に出てみるか?しかし、再度入れる保証はない。この扉は普段、封印されている。


「アリーシュさん、そのエレベーターコンソール、手をかざして反応するか確認して頂いてよろしいでしょうか?」


アリーシュさんはイエローエリアのマスターだ。ブルーエリアのマスターだった雫はエレベーターを動かすことが出来た。同じエリアマスターなら動かせる可能性が高い。


「パスワード??反応はしたけどもパスワードを求められたわ」


パスワード……。仮に他のメンバーも手をかざしたがなんの反応もなかった。エリアマスターのみに反応するように出来ているのだろうか。雫とこのエレベーターに乗ったとき、なにかパスワード入力をしていたか?


「アリーシュさん、パスワードは何文字とか分かりますか?」


「なにもないです。入力エリアと入力用のキーボードだけです」


自分もエレベーターコンソールをのぞき込むが、その通りで他にはなにもなかった。


「ねぇ、seven keys world、ゲームスタートした後に選択した設定をギルドで申告してください、って出てたじゃない?ここがそのギルドで、設定をしたら見た目とかなにかが変わるんじゃない?」


なるほど……と思ったが、その場合は自分たちがゲームの中に入っていることになる。フルダイブ型ゲームだったとでもいうのだろうか。まぁ、手だてがなにもない状況だ。試してみる価値はあると思える。


「それじゃ、自分から入力申請してみよう」


俺は自分の名前、種族、属性、得意武器をコンソールに入力し、確定を行ってみた。


【I do not have permission】


「権限がない、か。合っているのか?特段の入力フォームもないが」


「待って、私のIDパスワードを入力してみるわ」


アリーシュさんは自身のIDパスワードを入力した。


【Next person】


「合っているようね」


【May I finalize with these six people?Y/N】


「この6人で確定して良いか?か。どうする?なにが起きるか分からんが確定してみるぞ?」


俺はIDを持たない。俺以外のメンバーの同意を確認し、入力確定を実行した。


「開いた、な」

「開きましたね」


ガルとヘルエスさんが同時に口する。中央のエレベーターの扉が開いた。このまま上がればseven keys worldが始まるのだろうか。やはりここは始まりのギルドなのだろうか。


「よし……みんな、行くぞ……!」


皆、エレベーターに乗り込み行き先階を……ない。行き先階指定ボタンがない!


「しまった!罠か!?」


俺が叫ぶと同時に扉は閉まった。一体、どこに連れて行かれるのだ。


「きゃあっ!」


ローラインが声を上げるのも無理はない。エレベーターは上昇するのではなく、急速に下降を始めたのだ。強烈な下降速度だ。身体が宙に浮きそうだ。このまま急停止されたらマズい!


「セルシスさん!皆の手を繋いで転移が可能か試してくれ!このまま急停止されたらマズい!転送先はどこでもいい!安全なところと念じてくれ!」


「はい!やってみます!」


互いに必死に手を伸ばし、円陣を組む。


「おい!なにも起きないぞ!転移するんじゃないのかよ!まさかこのエレベーター、スキルが使えない空間ってことはないよな!?」


「転移先が遠すぎる可能性もある!ローラインさん!リフレクトを展開して、万が一激突した場合の衝撃を跳ね返してくれ!」


次の瞬間、エレベーターはもの凄い音を立てて急ブレーキをかけ始めた。浮いた身体が今度は強烈な重力に襲われる。


「なにが起きてるんだ……みんな!大丈夫か!?」


俺は周囲を見回し、皆の無事を確認する。強烈な重力に抗うように必死に耐えている顔が見える。


「止まった……な」


「はい……」


「いったい、どこまで下降したんだ……みんな無事か!?」


皆の無事を確認した後に扉が開くのか試してみようとしたが、手が掛かる場所がない。扉も隙間なくぴったりと閉じている。どうするか思案死ようとした瞬間、扉はゆっくりと開いた。


「ここは……」


俺たちは支配の塔1階と同じ様なフロアに出た。窓はない。ここが地上なのか地下なのか分からない。ただ、違うのは外に出る扉の場所に何かがある。

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