第33話 問いかけ

「人?」


近づいてみると、氷かクリスタルのようなものに閉じこめられている女性。触ってみるとクリスタルのようだ。


「ようこそ。待っておりました。ここは支配の塔地下大聖堂。早速ですが、あなたはここに何のためにやってきたのですか?」


「何のために?そんなのこっ……」


「新海さん!待ってください!答えないでください!」


セルシスは俺を何かに気がついたような表情で咄嗟に制止した。


「この声、この質問、恐らく支配の塔、いえ支配の塔でIDをくれる声の主だと思います。さっきの質問はIDを与えるための試練だと思います」


「この中でIDを持っていないのは……新海さんだけですね。私はUGWの各カラーエリアコンソールシステムを攻略するときに、この支配の塔でIDを取得してます」


ロザリオさんがそう言うと、他のメンバーも自分達は確かにIDを持っていると確認し合っている。

ここにいるのはセルシス、ローライン、ガル、ヘルエス、アリーシュ、ロザリオ、そして俺の7人だ。確かに俺だけIDを持っていない。


「新海さん、ここは慎重に答えて下さい。これは何かあると思います。絶対にIDをもらって下さい」


アリーシュさんにプレッシャーをかけられる。俺がここ来た理由……。UGWに来た理由……、出はないな。今は……そうだ。


「オールド・マスターを……倒すためだ!」


そう答えると、満足そうに微笑み、俺の腕へIDブレスレットを浮かべ巻いた。


「ふぅー……正解だったようだな、新海。だが、何で今更そん……」


ガルが俺の方を向き、疑問を口にしようとした瞬間、クリスタルの女性は次の言葉を口にした。


「私の名前はDrops……7つの鍵が使われる瞬間を待っておりました。オールド・マスターの作り出したseven keys worldが起動するには必ず鍵を使うと思っておりました。そしてゲーム世界に転送される前にあなた方をこの支配の塔へお招きいたしました。オールド・マスターの感知から逃れるために少々手荒なご招待となり、申し訳ありませんでした」


まて、思考が追いつかない。彼女はオールド・マスターを知っている?オールド・マスターから自分たちから逃すためにここに呼び寄せた?


「ちょっと待て!どういうことだ!ここはseven keys worldのゲーム内じゃないのか?オールド・マスターからの感知とはどういうことだ!?」


「ここはseven keys worldではありません。ここはColor world、色の世界です。4つの色に支配された世界です。そして、オールド・マスターは常にあなた方を監視していました。私はオールド・マスターがあなた達から離れる時を待っていたのです」


「監視……。まてdrops、監視の目が離れる瞬間を待っていたということは、オールド・マスターがどこにいるのか知っているのか?どうすれば戦える?」


「ブルードッグに向かって下さい。そして、ブルードッグのシステムを破壊して下さい。Color worldが破壊されたとき、オールド・マスターは自らが作り出した世界の修復のために姿を現すでしょう」


ブルードッグに向かってこの7人でコンソールシステムを破壊する、か。しかし、あのコンソールは2人1組で動かすものではなかったか。人数が足りない。事情を知る残りのメンバーはシュガー、ウィル、セス、ボーゲン……3人も足りない。攻略組はもうこれ以上いない。ブルードッグにいる他のプレーヤーお誘うか?しかし、どうやって事情を説明する?日々の生活費を稼ぐコンソールシステムを破壊するから手伝ってくれ、とでも言うのか?他のカラードッグを破壊したのは俺たちなのに?到底協力を仰げる状況ではない。


「人数が足りません」


セルシスは冷静にdropsに問いかけた。そうだ。思案するなら聞けばいい。


「問題ありません。2名1組というルールははじめからありません。単純に2名でコントロール出来る、というだけです。IDさえ持っていればドッグ内にはいることは可能です。このあと、あなた達のID以外ではブルードッグの扉が開かないように致します。必ずオールド・マスターを倒して世界を取り戻して下さ……い……」


「どうした!?」


dropsの様子がおかしい。それにクリスタルの色が透明から徐々に赤に変化してゆく。


「オールド・マスターに気づかれました……。私がお手伝い出来るのはここまでです……。エレベーターに乗ってColor worldに戻って下さい……。かなら……」


クリスタルは完全に赤色に染まり、dropsは完全に沈黙してしまった。


「行くしかないな。UGW、Color worldに戻ってブルードッグを攻略しよう」


俺は皆の顔を見回し決意を新たにした。そしてエレベーターに再び乗り込み地上を……。


「おい。どうする。完全に閉じこめられたぞ」


「どうしましょう……」


俺たちがエレベーターに乗り込んだ瞬間に扉は閉まった。しかし、このエレベーターには行き先階指定ボタンがない。


「出口か。無いなら作るまで……さっ!」


俺はエレベーターの壁面を蹴り飛ばし、天井を右手で殴り飛ばした。吹き飛ぶ天井、そして落下する天井……。


「ふざけんな!なにも考えずに行動するなぁっ!」


どうする!?俺が粉々になるまで殴り続ければ良いのか!?しかし、破片はどうする!?


「リフレクトっ!」


ローラインはそう叫び、防御フィールドを展開、エレベーターの天井は俺たちの横に崩れ落ちた。


「危機一髪だったなって顔してるんじゃねぇよ。ローラインがリフレクト使わなかったらどうなってたか分からなかったんだぞ」


「まぁ……すまなかった。すまないついでにガルにはお願いがあるんだが。エアステップでセルシスを連れて上に登ってくれないか?」


本来ならdropsがエレベーターを動かし、俺たちをColor worldへ向かわせる算段だったのだろう。しかし、それが出来ないなら今あるスキルを使って登るしかない。エレベーターの落下中にセルシスの転移が使えなかったのは「転移元が移動していたから」だと思ったからだ。だから、一度ガルのエアステップでセルシスを上まで連れて行って貰えば、転移でここに戻り、再び転移で地上に出れるはずだ。


「ったく!人使いが荒すぎなんだよ!テメェは!」


「まぁまぁ、成功したんだから良いじゃないか」


俺たちは支配の塔、1階に戻ってきた。扉を押し開けるとそこは見慣れたUGWだった。


「それじゃあ、ブルードッグを目指すぞ」


ガルは先頭に立ち、ブルードッグへ歩き出す。他のメンバーもそれに続く。道中は特に何もなくブルードッグの前までやってきた。


「いよいよだな」


皆真剣な眼差しだ。


「ああ。いくぞ!」

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