第30話 2つの強敵
「それじゃ、アリーシュさん、準備はいいですか?こちらの準備は整ってます。いつでもいいですよ」
「それじゃ始るわね。ターゲットにするプレーヤーはこれ。UGWとの戦闘経験のないプレーヤーだといいけど。ウィルさんも準備はいいかしら?再度確認だけど、基本的に攻撃はすべて私が行うから、ウィルさんは周辺監視、応援が来ないかどうかだけを集中して確認して。もし何らかの異変があれば新海さん達に応援を要請して。それじゃ、攻略スタート!」
「おいおいおい!こりゃどういうことだよ!次から次に警備ロボがやってくるぞ!」
「新海さん!警備ロボ1台をハッキングしました!現場の映像が見れます!」
UGWの特設攻略コンソール画面に警備ロボからの映像がウィンドウポップアップする。
「なんだよこれ。コイツ、警備ロボのメンテナンス担当管じゃないか!ここに見えてる警備ロボ全部相手にするのかよ!」
「おい!ウィル!俺だガルだ!そこにうちの連中が無駄に沢山居るだろ!そいつ等を応援に回せ!理由は俺のデカい山につき合えとかなんとか言っておけ!」
ガルはなんとかなった後に自分の財産を解放すればいいだけだ、と簡潔に説明し、ホログラム通信機ヴェリントンメンバーの陣頭指揮を執る。
「落ちたやつが出たら随時外から補充要請だ!いままでないくらい稼げる案件だ!気合い入れていけ!!」
ヴェリントンメンバーの協力により、なんとか教師とその周囲の警備ロボを攻略し、カウントをダッシュすることが出来た。
「ガル、何人墜ちた?」
「10人、だな。アリーシュがセキュリティーホールを見つけておいてくれなかったら何人墜ちてたのか想像もつかねぇ」
「なにはともあれ、教師アカウント攻略の他に、校内にいる大半の警備ロボは排除出来たのは偶然とはいえ良かったのかも知れないわ。ことある毎に襲撃されたのではたまったものではなかったもの」
雫は犠牲になったプレーヤーのことは気にすることもなく、事が良い方向に向かってると全体の志気を高めようとしている。
「それじゃ、私は対象の教室に急ぐわ。柏木くん、案内をお願い」
柏木くんの案内で教師と入れ替わったアリーシュさんは誰もいなくなった教室まで誰とも出会うことなく到着することが出来た。
「対象教室からの接続を確認、これより空間偽装を行います」
「なぁ、柏木くん。教室のコンソールを奪取したのはいいんだが、その場所に俺たちはどうやって行けばいいんだ?まさかさっきみたいに誰かを攻略して入れ替わるのか?」
「いえ、その必要はありません。教師は転移権限も持ってます。教卓のコンソールに接続すればここから転移が可能になります」
柏木くんの操作により、俺、雫、セルシス、ローライン、ガル、ヘルエス、サラ、ロザリオは対象の教室に転移した。そして転移先に待っていたアリーシュと合流した。
「ここは……。補習教室だな。次の試験結果が発表されるまで2週間だ。それまではここには誰も来ないだろう。攻略コンソールは10台だ。今ここには9人いるから問題ないだろう。
まずはレベルの低いメンバーをseven keys worldの正規環境でレベル上げを行って貰いたい。レベル100のメンバーが同行すれば難易度の高いクエストをこなして短時間でレベル上げが出来るはずだ。ただ、基本的には正規プレーヤーはパーティー制を取っていない。単独での行動が基本だ。あくまでも他人の体で同行をお願いしたい。会話は一切禁止だ」
ここまで来て運営に目を付けられるわけには行かない。単独行動が基本のこっちの世界では、低レベルプレーヤーが起こしたクエストをハイレベルプレーヤーが奪うのは自由だ。よく言えば救援。獲得できる経験値は減るが低レベルクエストをこなすよりは格段に効率がよい。通常時は誰も救援に来なければゲームオーバー、クエスト開始アイテムが無駄になるだけだ。
レベル上げ、という作業は単純だ。ただ高報酬クエストを周回すればよい。レベル100が複数救援に入れば最高難易度クエストの周回が可能だ。結果、レベル1だったヘルエス、72だったサラは100に、レベルキャップに引っかかっていた俺、セルシス、ローラインは120、ロザリオは140、雫、ガル、アリーシュの3人は……相変わらず不明だ。
「なぁ、新海。こちらのコンソールはUGWと違って一人1台使えるんだろ?全員でブラックドックに接続できるか試してみないか?」
ガルの発案で、ヴェリントンUGWプレーヤーを通じてブラックドックのシステムにアクセスを試みた。
結果は成功。9人同時にアクセスが出来た。
「状況を整理するぞ。前回の作戦時より、俺たちの攻略レベルは格段にあがっている。加えてイエロードッグ、ブラックドックの攻略コンソールに加えて、こちらの正規コンソールからの攻撃も可能と確認した」
「となると、後は頭数、ね」
雫の言うとおりだ。今回の作戦においての主要メンバーは全員こちらに来ている。UGWで計画を知るものはウィルのみだ。UGWのコンソールは14台。2名1組で動くのでウィル以外にあと27人、墜ちることを考えるとそれ以上のメンバーが必要になる。
「どうする……。ドッグシステムそのものの攻略はブラックマネーは手には入らない。ヴェリントンメンバーの手を借りるにしても説明が……」
「そんなのマニピュレートスキル使っちゃえばいいじゃない」
雫はさも簡単そうに言い切った。マニピュレートスキルで操って攻略作業をさせる、ということだ。虚無に墜ちる可能性のある作戦に操って参加させる……恐ろしい考え方だ。倫理的に考えて到底受け入れがたい方法だ。しかし、他に方法はあるのか……。
「ガル、あなた遠隔スキル持ってたわよね?通常のコード攻略可能範囲を無視して、見える範囲全てを攻略可能範囲にするスキル。あれでヴェリントンメンバーを召集して全員にマニピュレートスキル使えば楽なんじゃない?」
雫は正しい。この状況を打破するのはその方法位しか思いつかない。それにしても冷酷過ぎやしないか。仮にも命を掛ける作戦だ。しかし、恐らくは誰かがはっきりと言わないと躊躇する内容だから雫は毅然として、そういっているのだろう。
ガルは教卓のコンソールからウィルを入れ替わり、ヴェリントンメンバーを召集してマニピュレートスキルを発動させた。
「悪いがマニピュレートスキルは俺の見えてる範囲だけの効果しかねぇ。これでブラックドッグに向かうが、イエロードッグはどうする」
「私が行くわ」
雫は自分も同じスキルが使えると言い、UGWへ降りると申し出てきた。
「誰を操るんだ?」
「レッドエリアの闘技場に集まっているID持ちを適当に見繕うわ。あそこ、強者が集まってるでしょ」
「よし、任せた」
雫はガルの操ったプレーヤー1人と入れ替わってUGWに降りていった。
「準備はいいか!雫!ガル!みんな!!」
事実上の最終決戦だ。ブラックドッグとイエロードッグを同時に攻略してゴールドキー2本を手に入れる。
「作戦、スタート!!」
俺の合図とともに作戦は開始された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます