第22話 攻略
ロザリオさんは先頭に立ってダンジョンを進む。パーティーの他メンバーはどこにいるのか聞いてみたところ、エリアマスター攻略に向かうまでは各自でエリアマスターのいる場所を探索しているとのことだった。
外の猛吹雪とは打って変わって、ダンジョン内部は快適な気温で保たれていた。全員が入った後に雫が扉を閉めたのも効いているのだろう。それに天井部がほのかに光っていて、真っ暗闇でもない。
「うーん……不味いわね。ここ、恐らく氷結エリアのエリアマスターが居ると思うわ。でももう5人で入っちゃったし……」
エリアマスターのいるポイントに5人で入ると攻略が前提となり、エリアマスターを倒さないと外に出れないという。念のため入り口に戻って雫が扉を開こうとしたがダメだった。
「ちょっと確認するわね。あなた達のレベルはいくつかしら?」
ロザリオさんはそう言うと俺たちをスキャンし始めた。
「新海くんは82、セルシスさんは98、ローラインさんは……1、雫さんはUnmeasurablesannte……計測不能?」
計測不能……。聞いたことがない。私のレベルスキャンは自分のレベルまでの数値なら計測可能なはず。ということは彼女は私のレベル以上なのか、何らかの理由でレベルが計測できないのか。それにあれだけの魔術が使えるローラインさんがレベル1ってどういうことなの?
「雫、おまえのレベルが計測不能ってのはどういうことだ?ローラインはレベル1、おまえもUGWから来たのにレベル1ではない。しかも計測不能だ。なにか隠しているだろう。ここまで来て隠し事は困るな」
俺とセルシスのレベルは上がっていない。それに初めて来たローラインは予想通りレベル1だ。ということはUGWでの経験はOPWでのレベルには影響がないということだ。ロザリオさんが驚いているところを見ると、雫の計測不能は異常値に違いない
「隠し事……。なにかしら。まだあなたに伝えていないこと……」
雫は左手で右腕の肘を持ち、右手の人差し指を頬に当てて思案している。
「あっ!あるわね。隠し事。でもそれは絶対に言わないわよ」
「いい加減、そういうのは無しにしてくれよ。年齢以外に言えないことってなんだよ?」
「分かってるじゃない。それよそれ。絶対に教えないんだから」
年齢……。雫の年齢を知ったところでなんになるとも思えない。でも気になるな。アリーシュさんに確認したら分かるのかな。一大反攻作戦に参加しているはずだ。きっと知っているだろう。
「言っておくけど、アリーシュに確認しても彼女、言わないわよ。自分の年齢もバレるから」
くそ。先手を打たれた。それならガルに聞いてみ、、ダメだ。今の俺に報酬条件の提示は出来ない。なんたって一文無しだからな。雫はなんか隠している気がするのだが、現状予想がつかない。それにしても計測不能とは一体……。
「それにしても困ったわね。セルシスさんは元々ヒリアスに居たくらいだから問題ないにしても、新海くんの82ってのはちょっと不安ね。エリアボスは最低でもレベル100以上だから。それにローラインさんのレベル1って言うのと、雫さんの計測不能というのが気掛かりね。レベルスキャンは自分のレベルまでしか計測出来ないから、雫さんが私のレベル、120以上であれば心強いのだけれど……」
エリアボスは最低でもレベル100以上……。ブラックドッグで攻略を試みていたプレーヤーあレベル90以上だった。半年やっても攻略がままならなかった状況だ。レベル100の相手を攻略するなんて、そんなこと出来るのだろうか。
「不安なことは山ほどあるけど、とりあえずエリアボスの攻略方法を説明するわね。
基本的にエリアボスは5人同時にアクセスして攻略が可能なの。でも現実的には2~3人は物理的な妨害を防ぐ役回りにしないとろくにシステム攻略が出来ないの。なので、ハイレベルプレーヤーがシステム攻略に回って、魔術が得意なプレーヤーが支援に回るような感じ」
ふむ、これはUGWと同じ様な攻略方法だ。唯一異なるのは、敵に同時アクセスが可能ということだ。現実的には俺とローラインが支援、ロザリオさんとセルシスさんがシステム攻略、だろう。雫はスキル……、魔術には長けているだろうがシステム攻略はどうなんだろうか。よく考えたら雫がブラックドッグでシステム攻略をしているのを見たことがない。
「雫、俺とローラインは支援役に回る。ロザリオさんとセルシスさんは攻撃だろう。おまえはどうする?」
「そうね。私はしばらく眺めてるわ。その上でどっちに回るか判断する」
「はぁ!?見てるだけっておまえ……」
俺が文句を言おうとした瞬間、ロザリオさんが俺を制止するように遮って「お願いするわ」と言い切った。
「皆さん、ここからエリアボスのホールまで、恐らく敵は少ないですが出てきます。しかし、それなりのレベルの敵が出てきます。私が皆さんの戦闘レベルを確認する意味も込めて、私を除いた4人で攻略してみてください」
異存はないが、雫はどうするのだろう。支援、攻撃、どちらに回るのだろうか。
「さ、来たわよ。あの手のやつは一人で攻略するタイプね。魔術戦がメイン。それじゃローラインさん新海くん、準備は良いかしら?」
雫はどうするのか言おうとした瞬間、大人しく見えたトカゲ型の敵は雄叫びを上げながら飛びかかってきた。
「なんだこいつ!足が6本あるぞ!昆虫なのか!?とりあえずブン殴ってみるか!」
「ウォール!!」
俺がパンチを繰り出そうとした瞬間、ローラインはウォールスキルを発動して敵の攻撃を防御した。
ズゥーーーン……
ウォールに激突する轟音とともに、敵はその場から垂直にウォールを突き破って地面に沈んでいる。
「重力系魔術だわ!気を付けて!上に乗られたらお終いよ!」
ロザリオさんは叫ぶ。重力系スキルか。飛び上がらせなければ良いわけだな。でもそれだけとは思えない。他にも何かスキルを持っていると考えるのが妥当だ。俺たちと違ってスキル名を叫ばないからなにをしてくるのか想像がつかない。
「ローラインさん!リフレクト!」
ロザリオさんに言われてローラインはリフレクトを展開する。敵の口が大きく開いていた。何かを撃ち出そうとしたのか、舌で絡め取ろうとしたのか。なにが起きるのか分からないが相手はゆっくりと口を閉じた。
「どうすりゃいいんだこれ。相手のスキルが分からない。とりあえず、石でも投げつけてみるか」
俺は足下に落ちていた石を適当に投げつけてみた。すると、その石は敵にぶつかることなく手前で砕け散った。
「砕けたな。ぶつかり落ちる訳でもなく、砕けたな。強振動系のスキルかな?」
「冷静な判断だわ、新海くん」
傍観していた雫はそういうと一気に飛び上がり、敵の頭上からかかと落としをお見舞いしようとしている。
「ちっ……よけやがった」
雫のかかと落としは振動系と思われる防御スキルを突き破って地面を大きく蹴り割っていた。
「スティール……」
ロザリオさんはそう呟くと俺とローラインにウォールを張りつつ、石を投げ続けるように指示した。投げつけた石は切り刻まれたり溶けたり跳ね返されたりと様々な様相を見せた。それに追従して雫は敵に同じ効力を持った攻撃を繰り返している。
「雫は敵のスキルをコピーしているのか?」
「そう。あれはスティール、相手の直前の魔術を盗んで発動させることが出来る魔術なの。この前に私が討伐したエリアボスが使ってきた魔術よ。あれの攻略方法は、自分に張った防御系魔術を解除させる魔術を相手に使わせるの。それを盗んで相手の防御を解除して攻撃」
「分かった!ローライン!ウォールスキルを俺だけにかけてくれ!ちょっと強力なやつを頼む!」
ローラインがウォールスキルを発動したのを確認して俺は敵に突っ込んだ。案の定、俺に向かってさっき見せてきた攻撃を仕掛けてくる。しかし、ウォールスキルがそれを防ぐ。俺の勘が正しければ、敵は俺の防御を解除するスキルを使うはずだ。それを雫が盗んで相手にお見舞いすれば、敵の防御がなくなる。そこに俺のスコーチングヒートを叩き込めばダメージを与えることが出来る!はず。
「うぉぉぉぉっ!!」
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