第40話 それでも僕は永遠を望む
秋良からの電話を切り、僕は大きく息をついた。
やっと、彼女がいた証拠を掴めた。彼女は演劇部にいて秋良は完全には覚えてないものの、彼女にあたる人物がいたことは確かだ。
僕の記憶は間違っていない、そうわかっただけで錯乱しそうな心情が落ち着きを取り戻した。
僕は彼女の方を改めて見た。相変わらず面白いのか面白くないのかわからないように文庫本を読んでいる。
静かな部屋、暖かい日差しが窓から注ぐ。
2人だけのこの空間は永遠のようでいて必ず終わりが訪れる。
僕たちが生を受けた以上必ず死が存在するのだ。
なぜそれが当たり前だと言えるのだろうか。ふと疑問に思う。
誰も死んだことがないのにどうして自分に死が訪れると確信してやまないのだろう。僕も他の人も必ず死ぬとは決めつけられないじゃないか。
人は死を恐れる以上に死を無自覚に望んでいるのかもしれない。死という解放があるから生きることができる。終わりが来るから生きることに執着する。人が死に直面すると生きることに執着するのは、終わりが来ることに安堵し、この安堵した感情を手放したくないからかもしれない。
僕は永遠を望む。
死によって僕という人間が解放されるとは思えないのだ。この世が天国であろうと地獄であろうと終わりはない。
彼女だってそうだ。
未だに彼女は過去の記憶から解放されていないじゃないか。同じ時間に生きることはなく過去の時間をもう一度繰り返して生きている。きっとこれからもずっと。
彼女が証明してくれたじゃないか。永遠は存在すると。
これからのことを考える。
僕は不登校の大学生。自立する気もない引きこもり。親はいずれこんな僕を見捨てるだろう。僕は彼女とともに無職のまま家を放り出され、ホームレス生活か。ゴミ箱漁りが日課になるんだろうか。人の目を避けて川の土手の下に段ボールの家を建ててひっそりとその日暮らしをするのだろうか。
…いいや、そんな未来は来ない。
なぜならこの時間が永遠に続くからだ。揺らぎもない平坦な今の日常がこれからも終わりなく続くからだ。僕は引きこもりの大学生のまま、彼女は相変わらず頭がおかしいことを言いながら、ずっと同じ日常が過ぎていくんだ。
僕はベッドに仰向けに寝転がり目を瞑った。
目を瞑ったところで真っ暗な世界は見えない。砂嵐のような薄いノイズが視界を遮るだけだ。
いずれ視界は夢の世界を映し、無機質なノイズは姿を消す。眠りにつき、夢との境界線が無くなれば永遠を実感できる。
だが突如僕の夢を中断させる音が鳴り響いた。
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