第14話 ただいま
もうすっかり暗い夜道だった。
行き交う車の数も夕方に比べると減っていた。道路の遠くから光る二つのランプが近づいては眩しい光を浴びせていく。
夜は好きな時間だ。
余計なものが見えなくなるからだ。
そして現れるのは孤独だ。
世界に取り残されたような気になった僕はセンチメンタルに浸ることがしばしばあるが、まさに今がそれだった。
今日みたいな日は世界から遠ざかりたくなる。
肌寒さを感じ手をポケットに入れた。
見慣れたドアの鍵を開け部屋に入る。
「ただいま」
と無意識のうちに意味もない言葉を発していた。
返ってくる相手もいないのに僕は一体……
「おかえり」
とたとたと玄関の前にあいつがやってきて言った。
「驚いた、ちゃんとあいさつはできるのか」
「お父さん、臭い」
「それはお父さんじゃなくてもヘコむぞ……」
「風呂入ればいいよ!」
あいつはニコッと茶目っ気たっぷりに言う。
「ハハっ……また反応した」
「まさかあいさつくらいなら普通に返せるのか?」
ちょっと試しにやってみよう。
「こんにちは」
「こんにちは」
「おはよう」
「おはよう」
「おやすみ」
「おやすみ」
「じゃあ僕が買ってきた飯でいただきますするか」
「いただきます」
「すごい、ちゃんと律儀に手を合わせてる」
「ただいま」
「おかえり」
「ただいま」
「おかえり」
「アハハっ、ほんとに返すんだな、ただいまただいま!」
「おかえりー!」
「すごい、すごい、ただいまー」
「おかえり」
「アハハ……あー飽きた、終わり!」
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