2章 孤独と自嘲
第10話 登校、再び
昼飯を食べた後僕は再び外に出ていた。
意思疎通できたことは大きな進歩かもしれない。だが、案外ささいなことで反応すると分かったので、今度は居心地が悪くなった。何も反応がなく気を使う必要がなかったからよかったのに、いつ僕の言動に反応するか気を張らなくてはいけなくなってしまった。
大体、進歩って何だ、一体どこに向かうというのだ。
それにあいつはどうしても気に障る。
今朝の事ではっきりと実感した嫌悪感は未だに残り続けていた。
どこに行こうなど何も考えていなかったので、ただ呆然と道を歩いていた。
本来ならば嫌で仕方ない道であったが、今の部屋に比べると随分と気楽な場所に思えた。
大学までの通学路。1年前まではこの道を毎日のように往復していた。
だが2年目の春から、1ヶ月、3ヶ月、7ヶ月……日を追う事にその頻度は少なくなった。
そしていつからか僕は大学に行くことはなくなった。
ため息をつく。
嫌な事を思い出してしまった。
ひとつ嫌な事があると堰を切って過去の苦い思い出が次々浮かび上がる。
目線を前に上げると前から大学生と思わしき男3人組のグループが賑やかに話しながらこちら側に向かって歩いていた。
ああいうのを見るともう僕の自尊心はズタボロにされる。
まるで僕が惨めな人間のように醸し出す空気を纏って奴らは僕に向かってくるのだ。
いや、僕だってわかっている。彼らが最初から僕を眼中に無いことを。
だがより一層その事実が自尊心を傷けるのである。
気にしなければいいだけの話なのだ、赤の他人の目線など。
そう思い込ませるものの、人の目線や言葉は一直線に僕の五感に響き、脳に不快を与えるのだ。後で気分を変えようとした所で最初の負の感情は拭えない。
集団は僕の目の前まで来ていた。
僕は集団を避けるために道路側に寄った。
どうせ僕は認められない人間なのだ。諦めに似たその開き直りは自分を守るための精一杯の護身術であった。
グループの1人目が僕の方を一瞥した。
その目は軽蔑するような目に見えた。
油のようにぬるりと肌にまとわりつく空気が僕の片側を通り抜け、離れていく。
話し声が背中から聞こえてきた。
僕のことではなかった、たわいのない会話。
ただ、人とすれ違った。それだけで、疲れる。
気がつくと大学の前まで来ていた。
無論大学に用はない。行ったところで僕の居場所はない。
バカばっかの底辺私立アホ大学、とは言わないが、ろくでもないやつが多いのは事実だ。僕がその代表であろう。
しかし、なぜこんな大学に入ってしまったのだろうか。見栄は張るもんじゃない。
いつ見ても建物だけは無駄に立派な大学であった。
講義が終わったのか、門からは続々と学生が出てきていた。
ここに長居しない方が良さそうだ。
足早に僕は近くに見つけたバス停に向かった。
もっと遠くに行こう。
時刻表を確認し、10分後のバスにのることを決めた。
バス停のベンチに座り待つ。隣に次々と学生が座り、周りを学生に包囲され、居心地が悪かった。僕も一応まだギリギリ学生ではあるのだが。
バスに揺られ15分。
着いたのは見慣れた駅前。
そして少し歩いて、これまた見慣れた店の前。
僕の居場所はまだ残っている。
「彷徨い」と書かれた看板がそこにはあった。
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