邪馬台国のような女性

ヒガシカド

邪馬台国のような女性

 邪馬台国のようだ、それが第一印象だった。

 卑弥呼ではなく、邪馬台国そのもの。皆がその存在を知っているのに、いつまでたってもどこにあるのか、その本質とは何か、わからない。

 彼女の話は至る所で耳にした。学部時代からの友人、サークルの先輩後輩、先生、アルバイト先の上司、そして進学先の大学院でも。彼らの話から組み立てられる『彼女』は、どれも違った形をしていた。

 私は一度だけ、面と向かって彼女と話したことがある。私はかねてから抱えていた思いを吐き出した。

「貴女は邪馬台国に似ています。卑弥呼ではなく、邪馬台国に」

 彼女は微笑んで答えた。

「どのように?」

「皆に知られているのに、誰にも正体が掴めない」

「それで、あなたはどう思うの?」

「何がです」

「その邪馬台国のようなわたしを、どう思うかってこと」

 私は返答に窮した。しばらく考えて、私は素直に言った。

「すみません、考えたこともありませんでした。無意識のうちに主観を排除していたのかもしれません」

「あら、そう」

 彼女は驚いた顔をして私をまじまじと見つめた。

「わたしは好き、あなたのそういう所」

 私の顔には訝しげな表情が浮かんでいたと思われる。

「わたしにはもっと自分の心情を向けて良いのよ。わかった?」


 こうして、私は邪馬台国の話を広める一員となった。『彼女』像に付け加えるに相応しい言葉を、たった今から熟考しよう。

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邪馬台国のような女性 ヒガシカド @nskadomsk

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