第5話 飛躍の予感
「いや、違うんだ。
……聞くならく、二年目以降はレアルBを出る契約になっているそうだ。実際は一年目から出てしまったが。
この条件が久保にとって大きかったようだ。でも、レアルと契約したことでマイナス面だってある。
例えばシティと契約した板倉を見てみる。オランダに
6月、日本代表で南米選手権に出場して活躍。『なんだこいつ使えるのか』とダニー・バイス監督が翻意、今シーズンになってスタメン。
だがフットボーラーにとってベンチに座り続けた半年は短い時間ではない。
まだまだ先は長い。シティは世界最高峰。シティを出るかシティに必要な選手になるまでローンを繰り返すことになる。
ローン先のチームにしてみれば、いずれ移籍元に返却する選手を育てなければならない意義に乏しい。実力で明らかに上回っていないと、使われない。
もちろんレアルと契約することにメリットがないわけではない。雇い主の資金力が高いほど給料は増える。
また、他のチームに移籍し力を付けステップアップ、また移籍するとなると、クラブは高い移籍金を取ろうとする。久保のレアルマドリーへの移籍の場合は移籍金がかかっていない。そうなると、望むクラブに入り易くなる。
でも。本当に力があれば移籍金を払ってでも取ってくれるはずだ。レアルに所属するのが目標ではないはずだ。個人的には、自分の能力に合ったクラブに移籍したほうが成長につながると考える。久保は、すぐにレアルでトップデビューを狙っていたのかもしれない。
久保の向上心は非常に高い。顔立ちはまだ幼いが野心家だ。だから努力するのだ。
今夏、シティはガンバの食野を獲った。ハーツにローン。お得意の青田買い。シティ所属でローンに出した選手は30名を超える。シティはガチャ感覚で選手を獲る。宝箱を開けるのに年単位の時間がかかるのがこのゲームの困ったところだ。
井手口も同様。スペイン語、ドイツ語、英語に苦しむローン選手はどうしたって優先順位が下がる。
というか井手口は海外に向いてないきらいがある。俺は昔、井手口は海外に出るべきだと言ったが、環境適応能力の低い人間というのは存在する。無理だったらさっさと日本に帰ればいい。
ガンバに戻った。ただし右膝後十字靱帯断裂と半月板損傷の影響で身体能力を損なっている。
逆のパターンもある。伊東純也は実にスムーズにベルギーに順応した。個人的にいい意味で予想を裏切られた。むしろ柏にいるときより活躍している。
だが日本代表では見劣りして見える。現状、堂安久保に水をあけられている。
永井謙佑はベルギーで失敗しあっさり日本に戻り、六年を経ると
本田や長友はとにかく海外に出ろと言う。
困難は人を成長させる。海外の難しさを経験したことは、間違いなく選手の
久保は2011~2015年をスペインで過ごしており、必死の勉強の甲斐あってスペイン語が堪能。スペインで1年過ごせばスペイン国籍を得られるかもしれない。レアルの政治力なら、後押しが可能だろう。EU圏外選手枠を使わずに済むのは大きい。
そして久保に声を上げてほしい。
『二重国籍を認めてくれ』
日本は二重国籍を認めていない。このせいで日本人は不利を被っている。このせいで久保がレアルに留まれなくなったら。そして今後の選手たちも。日本人だけがハンデを負うなんて間違ってる。
個人的には、バルサでもレアルでもなく、スペイン2部上位辺り、もしくは1部下位辺り、試合にコンスタントに出られそうなチームに直接移籍して欲しかった。若者には試合経験が必要だ。給料は安いが本気で育ててもらえる。2部上位のチームなら久保の特長が出せるだろう。1部であれば悪質なタックルが減る。
三好はバルサからオファーを受けたが断り、ベルギーのアントワープに移籍した。こちらの方が堅実だ。欧州の水に慣れ、力を付けてからステップアップを狙ってもいい。
久保建英は釜本邦茂や小野伸二と並ぶ日本最高の才能。それでもレアルのトップチームに上がるのは難しいだろう。慎重になるべきだったかもしれない。
今度こそ、きっちり成長させたい。
レアルは久保を賞賛する記事を書かせる。騒げば騒ぐほど日本から報道陣と金がやってくる。スペイン紙の額面通りに受け取るべきではない。
どうのつるぎしか持たずにりゅうおうのしろに乗り込んでも勝ち目はない。レアルBの一員として練習試合。練習試合にも関わらずがっつり削られる。久保は環境を変えるべきと判断した。
昇格組のマヨルカにローン。創造性に特化した選手が、戦力的に劣るチームでどう使われるか。守備に追われる展開になれば、持ち味は殺される。
逆に言えば、マヨルカの戦力が劣るからこそ、久保は試合に出なければならない。
マヨルカはオファーをしていた。最初からマヨルカに移籍すべきだったと俺は考える。その方が間違いなく久保の出場時間は増えていただろう。
美と勝利の狭間を
バルサは久保が戻ると思い込んでいた。膨大な人件費。これ以上増やすわけにはいかず、例外をつくるわけにも行かず、バルサBの限度額、年俸3070万円しか提示しなかった。バルサBの選手はトップチームに上がる日を夢見て努力を続け、一方で他クラブへの流出も増えている。
対してレアルは久保建英に2億4千万円を支払う。レアルはトップチームに上がれなくても、付加価値の高い日本人にレアルマドリーのシールを貼ってショーケースに置いておけば高く売れることを知っている。何より、この強奪がバルサに痛打を与えることも。
NHKが12月に放映した、『ロストフの死闘 日本vs.ベルギー 知られざる物語』という番組が話題になった。
今まで、ここまで1シーンに焦点を当てた番組はないはずだ。いろいろと勉強になった。
番組に協力してくれた吉田麻也を、NHKは責めにくかったはずだ。代わりに俺が言っておく。
本田はコロンビア戦、CKをニアに蹴り込み大迫がヘディングを決めている。
ベルギーはもちろん、その映像を観て対策してきた。ニアサイドが警戒されていることを吉田と昌子は悟った。おそらく、事前から吉田がターゲットに決められている。吉田は困って、本田が他のコースに蹴ってくれること、もしくはキックミスでニアから外れることを願った。その可能性に懸けて後ろに下がる。吉田は本田に合図すべきだったかもしれない。
味方は吉田の為、マーカーを引き連れ、左サイドに寄ってニアを空ける。飛んできたボールはコロンビア戦とまったく同じ軌道を描く。急激に落ちて。GKクルトワの手に収まった。
吉田は下を向いて、悔やんだ。
みんなが自分のためにニアを空けてくれていた。走り込んで跳躍していれば、可能性はあった。
千載一遇の好機を――逃した!
吉田が競りに行かなかったので、クルトワは何の障害もなくボールを捕れた。ボールは鋭く落ちてきたのでジャンプすらしていない。流れるように駆けて、デ・ブライネにスローイング。
吉田はペナルティースポット辺りにいたので、クルトワを止めるチャンスがあった。カードをもらわないまでも、少し体をぶつけるだけでスローイングを遅らせられる。しかし、吉田はカウンターを防ぐことなど考えが及ばなかった。
下を向いてしまった、そのせいで情報が入らず、これから起こる危機に気づかなかった。
吉田を責めてしまったが、そもそも吉田がいなければロストフに来れなかっただろう。
もう一つ。そもそもセットプレーの準備でまたニアを狙う手はずをしていたことに、多少の疑問は残る。
ただし、高さで上回るベルギー相手には、やっぱりニアで勝負したいという気持ちはわかる。
長谷部はルカクがスルーすることも想定していた。スルーされたボールに右足を伸ばす。しかしかすった程度。ボールの勢いは弱まり……むしろ待ち構えていたシャドリにいいアシストになってしまった。まあ、これは仕方ない。
スピードスターを一人考えておくべきだ。バルサの轍を踏まないように。2点リードしたとき勝てるように。
鈴木武蔵か前田大然が現状の候補か。前者はフィジカルが強く、後者は初速も最高速度も速く、スタミナがある。前田の若さに成長を期待したい。マリティモにローン移籍。南米選手権ではかつてのW杯アジア予選の岡野雅行を想起させる空回りっぷりだったが、スピードは先天的なものだ。才能だ。技術や判断力は、努力で向上しうる。
中島を批判する人達は、日本代表から外れて欲しいのだ。10番を付けているのも気に入らない。きっと日本代表を弱体化させようとしているのだ。いや、皮肉はよそう。
日本人だから。やはりサッカーはパスが中心だと考えているのだろう。俺だってパスサッカーは好きだ。
おそらく日本人の一部は、中島をどう評価すべきか理解していない。相手から見ればどんなに怖い存在か理解していない。だから叩いた。彼らはどうして中島に40億円の価値があるのかわからない。彼らは相手チームの監督が口を開けば中島が嫌だったと言う理由がわからない。マスコミは『久保が凄かった』と言われるのを期待している。仕事だから嫌だけど『久保はどうでしたか?』と尋ねる。
乾よりも宇佐美よりも前園よりもレベルが高い。日本歴代で最も優れたドリブラー。長友は中島を『ドリブルお化け』と呼んだ。
中島と堂安は時折センターゾーンに現れパラグアイを混乱させようとする。
中島だって叩かれているのは知っている。そして少しは気にしている。パラグアイ戦序盤、二人に目の前を阻まれボールを奪われるとカシマに中島を揶揄する口笛が鳴り響く。
守備にも奔走。SBを追っかけ自陣ゴール前まで戻る場面も。
中島アンチおめでとう。守備に中島を走らせれば、日本の攻撃力は大きく減衰する。
パラグアイから日本への直行便はない。24時間以上の移動に苦しんだパラグアイはコンディション不良と暑さに苦しんでいた。そして日ごとクオリティーを上げる日本に攻められっぱなし。後半には冨安をSBで試す余裕も。
それにしても欧州勢はネーションズリーグのおかげで忙しくなってしまった。しばらく戦っていないが欧州選手権予選も始まってしまう。日本からすると対戦相手の選択肢が減って困ったものだ。アジア2次予選で当たる国々とはハーフコートゲームが目に見えている。時間の無駄。力試しできる相手がいない。南米選手権に出ておいて良かった。
論議の焦点になっているのは右サイドのアタッカーだ。
堂安と久保。
問題は久保はタフではないということだ。ジダンに指摘された通り、体力面では不安が残る。攻撃面では久保の方が上。守備面では堂安。単純に考えて強豪相手なら堂安が先発でいいだろう。
ただし久保は右サイドよりトップ下の方が活きるはず。だが南野の評価が高く、一方で右サイドは手薄。競争相手がいるのはいいことだ。層が厚いのもいいことだ。
2次予選の相手はどこも弱い。だからテーマを別にも求めるべきだ。各ポジションでの競争がいい。しかし大迫のライバルがいない。そこだけが悩ましい。
ミャンマー戦は堂安が先発だった。相手は弱い。しかし劣悪なピッチコンディションを考えれば久保は活きにくい。むしろこのピッチなら伊東が先発で良かった。シンプルにスピードで右サイドをぶち抜けばミャンマーはDFラインを更に下げざるを得ない。もっと楽に勝てたはずだ。長友は持ち前のスピードで何度もクロスを上げていた。
あとは、ミャンマーの体格を考慮して背の高いFWを連れて行きクロスを放り込む手もあっただろう。
前半は雨が降っていてパス回しが難しく。ミャンマーに対してフィジカルで優位な大迫が下がって昔の本田のようにバイタルでポストをこなす。中島のミドルと南野のヘッドが決まる。
後半の日本はショートカウンターを狙う。これでミャンマーは上がりにくくなり、試合は停滞。ロスタイムには2点差付けられているにも関わらずミャンマーのGKが胸を痛がるふりをして時間稼ぎ。敗北を認め、その上でこれ以上失点をしたくない。わずかでも予選突破の可能性を上げたい。日本をリスペクトした上で、そんな気持ちが見られた。フランスW杯で交代枠を使い切っていたため、中山雅史が足を骨折しても試合に出続けていたのを思い出す。
W杯に出たい、執念。それは低レベルのアジアにあっては日本が忘れかけている感覚だ。
若手の質が非常に高い。JFAの努力が実って指導者の質が上がったことも大きいだろう。
今夏、日本は予想以上に良く戦った。NHKは後悔しているかもしれない。
南米選手権がDAZNのみの放映になり、サッカーファンとDAZNとの距離が縮まった。2018年度のDAZNの損失額は約666億円。日本サッカーのために非常に良くやっている。長い付き合いにするためにも黒字化を果たして欲しい。
前にカタールW杯は厳しい戦いになるという話をした。
面白いことになってきた。2026年カナダ・メキシコ・アメリカW杯が楽しみだ」
ちょっとサッカーの話 2019 夏が終わって 幼卒DQN @zap
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