第4話 中島翔哉を代表から外せ?
「3月の親善試合、中島が復帰。さっそくコロンビア戦で左サイドから好機を演出。
秀逸だったのはカルロス・ケイロス監督の対応だ。コロンビアは後半、右サイドからの攻撃一辺倒にした。対して中島は下がって守備に従事。ボールを奪っても中島は低い位置からスタート。どうしたって攻めは遅くなる。
カルロス・ケイロスは見事に中島を封じ、勝利した。
試合後、おそらく森保監督は中島に話をしている。
『守備に戻り過ぎるな。できるだけ攻撃に専念しろ』
王様。
たぶん、俺でも同じことを言ったと思う。中島は日本の
ボリビア戦、日本はほぼ2軍でグダグダな試合。後半途中から
南米選手権を十三日後に控え、親善試合トリニダード・トバコ戦。南米選手権には選手の拘束権がない。加えて、
この中で最も重要なのはどれか。
Jリーグだ。
人気のある選手がいないと、観客は減る。クラブの収入に直結する。
ただし、日本ではナショナリズムに訴え、衆目を集めるのは国際試合だ。Jより代表戦の人気が高い。
もう違う。当たり負けない。
そして、思う。
今まで、『体は大きいけど技術がね……』と、どれだけ多くの選手が落とされてきたんだろう。もちろん、指導者達がフィジカルトレーニングの研鑽を積んだ背景も大きい。
ここで結果を出しても別にこのメンバーで南米選手権に出るわけではない。つまり、意義の乏しい試合だ。
森保監督はこの試合に意味を持たせるために、3バックに挑戦した。
トリニダード・トバコはリトリートからのロングカウンター狙い。プレスは鈍重だったが体格があり、それなりの守備力があった。そもそもシーズンオフからロクに体を動かしていない。所詮、キリンカップは小銭稼ぎと日本観光と体慣らし。
昔、こんな親善試合を繰り返し、1998年にFIFAランク9位になって日本は強いと錯覚した人々がいた。相手を本気にさせるには相手国のホームでの試合か、今回の南米選手権のような試合に出る必要がある。
まあ、無失点で終えるのが目標だったのだが、余りにトリニダード・トバコは準備ができていなかった。一方、日本の両
中島も堂安も足元でボールを受けたがるため低い位置で待機。おかげで大迫は孤立。
よく、ワントップツーシャドーという言葉を耳にすると思う。今回の3-4-2-1でよく使われる構えで、3トップとはちょっと異なり、シャドーがゴール前に顔を出してWBの上がるスペースをつくる。最終ラインに3人いるのでWBは積極的に上がるべきだ。1トップだけでは攻撃を完結させるのは難しい。だからシャドーがゴール前に進出する。
以前、ハリルは岡崎と香川を縦に並べて使った。2人とも、本質的にはシャドーだ。距離が近い二人は、持ち味を殺しまくった。光がなければ影はできない。
1トップ2シャドーの場合はシャドーに比較的、自由が与えられている。サイドに開いて、ワンタッチゴールを狙ってスプリント、下がってゲームメイク、ドリブルで斬り込む、ワンツーで崩す。何でもござれだ。様々な選択肢を見せて相手を混乱させる。捉えどころがないという意味で影だと言える。一応2シャドーの間には1トップを挟んで距離があり、補完関係にある。
ただ、この試合ではシャドーの動きがあまり見られなかった。2人とも持ち味をみせたかった、つまりドリブルしたかったのかもしれない。3-4-2-1の経験値がなさすぎる。更にWBも上がりが少なかった。まあ、シャドーがペナ角前に居座っていたら上がる気も失せるだろう。それでも0-0で終わってはいけない試合だったので攻めに出て、勝ちに行って欲しかったが。
続いてエルサルバドル戦。能力的にはタイと似ている。体格的に劣っているが敏捷。
森保監督は大いに反省し、点を取ってやろうと両WBを伊東と原口に変更。アタッカー気質なので、攻撃圧力は改善。永井の2ゴールで勝利。
そして七月、南米選手権が終わった。ブラジルが横綱相撲で勝つだけの大会だった。
冬にアジア杯を戦ったJFAは南米選手権に対する選手拘束権を持たず、所属クラブが拒否できる。また、同時期のJリーグも休まず開催される。森保監督は、この大会を東京五輪へ向けての強化を兼ねることにした。東京五輪の出場資格を有する22歳以下の選手を各クラブにお願いして供出してもらう。また、海外のクラブに所属する選手も一部、参加した。選手の休養よりも選手売却を願うクラブもある。選手の力を見せ、価値を高めるいい機会。
この苦境が日本の新陳代謝を増進する結果になった。
南米を苦手とする日本はボロ負けするだろう。NHKは手を引いた。DAZNのみの放映になり、体験加入する者が激増。
チリ戦は主導権を握られる戦いになった。理由はほとんどの能力でチリが日本を上回っているというシンプルなものだ。
日本人の武器は敏捷性と技術だ。しかしそこはチリに対して武器にならなかった。チリも同様の特長を持っているからだ。
日本の大学サッカーのレベルは世界随一、環境が整っている。ユースチームをJ3に送り込んでいるような資金力のあるJリーグのチームは問題ないが、そうできないチームの選手は試合経験を得られず、伸びづらい。
大学サッカーはそういう意味では恵まれている。
上田は酷評されたが、それでもシュートを打っていたからそこまで叩かれるようなものでもないと思う。これをいい糧とすべきだ。スペースに対する感覚、オフザボールは目を見張るものがあった。
シュートをまったく打てないより決定機をつくって外した方が叩かれるのでは問題だ。決定機はストライカー以外で生み出すものではない。適切なプレーをしたストライカーとのコラボでつくるものだ。
日本人はアシストをよく褒める傾向にあるが、シュートを決めることの方が重要だ。日本人に良質なストライカーが少なかった遠因がここにある。ストライカーは、もっともっと称えられるべきだ。そしてストライカーを生む土壌をつくるべきだ。
中山がセットプレーで競り負けてヘッドを決められると、カウンターを浴びて失点を重ねた。
4-0の敗北は、決定力の差だ。上田のせいだと叩いて溜飲を下げても前向きな未来にはつながらない。日本は中盤の文化は優れているがゴール前の文化は劣っている。
貴重な経験を得て、上田は鹿島で類い
久保建英はスタメンでデビュー。インパクトを残した。
久保は寄せられたとき、ボールを自分を挟んで相手の反対側に置き、ボールキープする。その基礎的な所作がなめらかで、視野を広く持てる。技術はレアルにあっても図抜けており知性も高い。特に洞察力に優れ、相手の動きをよく見ている。もちろん肉体的な弱さは課題だが。
ベストのポジションはセカンドトップ。香川とタイプが似ている。速さは劣るが、知性と技術がより高い。
ジダンは久保に持久力の改善を要求した。これには完全同意。DFに寄せられたとき、フィジカルのない選手はパスの受け手になれない。トラップの瞬間に体を当てられるからだ。だから相手から離れた位置でボールを受けるためにフリーランし続ける必要がある。ワンタッチゴールを狙うようなオフザボールの動きも必要だろう。クラブのレベルにも依るが現状、スーパーサブが適正。
日本人のトップ下に多いのが点を取ることよりパスをつなぐことが好きな選手。香川や本田は下がってくるのが好きな選手だ。パスを足下で受けたがり、無駄走りになることも多い、
これで大部、損をしている。日本の土壌がそうなのだが、立ち止まって足下でボールを受けるよりボックスに潜り込んでスルーパスをもらう方が相手には嫌がられる。つまり、フリーランし続ける運動量が必要だ。幸い、久保はバルサの
メディアはちょっと大きいものをすごく大きいと言う。何でも大げさ。衆目を集めないと
久保は記者に『ピッチ内でのプレッシャーはないけど、たくさん人が来たり、試合前にこっちばっかりにカメラ向いてると、結構、周りからもいい目でみられないと思うので。自分がもっとビッグな選手になれるまで、ちょっと控えてもらえたらうれしいなと思います』と苦言を呈した。日本伝統の報道陣大挙が中田英寿級に行われた。
岡崎は『海外で普通にあのレベルはもっと出てきてもおかしくない』と、コメント。
これに対して、出番がなかった岡崎の嫉妬だと言う書き込みが目に付いた。
おそらく、そう叩かれることも承知で岡崎は言っている。それより前に長谷部も同様の発言をしている。
また、『あの年齢であれだけのプレーができるのは、もちろん注目を浴びると思う』とも言い、『ただ、それは日本だからだと思う』とも言う。
二人は、無責任な日本のマスコミに天才だなんだとおだてられて、努力を怠り衰えた選手をたくさん見てきている。マスコミに釘を刺し、警鐘を鳴らしているのだろう。宇佐美貴史を見よ。柿谷曜一朗を見よ。
そして何より、海外のフットボールネーションには、トップリーグで活躍する18歳なんてゴロゴロいる。Jは悪い意味での年功序列がはびこっていて、年上に遠慮しがちな若手がいる。中田英寿はベルマーレに加入した理由として、上下関係に厳しくない点を挙げている。
岡崎は、本当に久保にいい選手になって欲しいのだ。
ウルグアイとは昨年10月に親善試合で戦って4-3勝利。この試合も中盤では優位に立った。チリと異なり日本の敏捷性に対抗する力を持たず、日本のパスワークが冴える。
パスサッカーと敏捷性は相性がいい。きびきびしたパスワーク、状況に応じた方向転換は相乗効果をもたらす。昨シーズン、パスサッカーに舵を切ったレアルマドリーでベイルが力を出せなくなったのはこのためだ。ジダンはロナウドに冷たく当たり、出て行くように仕向けた。これでジダンはやりたいサッカーができる。
パスワークに定評のある横浜
名古屋は比較的大きな選手が多い割にパスサッカーを志向する。いまいち噛み合っていない。
スペイン代表のポゼッションとドイツ代表のポゼッションは方法論が異なる。おそらくドイツの遅攻は得点力が極端に落ちる。単純にその体格を活かしてサイドからクロスを入れてヘッドを決める方が点を取れるだろう。まあ、得点力がフットボールのすべてではないが。
この試合、三好は幸運に恵まれた。ゴール前でパスをもらった際、対峙したラクサールは足に違和感を覚え動けなかった。先制ゴールを見事に決める。直後、ラクサールは倒れて交代。
一般的な尺度で言えばいいサッカーをしていたのは日本だ。しかしウルグアイはスアレスとカバーニという世界屈指の2トップを擁する。ボールが入れば無理くり好機をつくった。
前半、植田がカバーニにPKを取られる。微妙な判定だったが
後半、中島がルーレットでボックスに侵入を試みる。対するゴンザレスは左足を出し、すぐに引っ込めた。かすった程度でPKではない。これもマリーシアだ。PKをもらいに行くべきではなかった。
岡崎と川島が起用されたが、流石の出来だった。岡崎は腹を決めシャドーの動きを捨て、コンタクトをいとわない、今まであまり見せなかった激しい側面を見せた。プレミアで揉まれるとこんな強さを身につけるのだろう。ピークは過ぎただろうがこういったガチの試合では頼もしい。川島はカバーニとの1対1を制し、ミドルの反応も素晴らしかった。川島がいなければこの試合負けていただろう。二人をチリ戦で見たかった。
中島は日本人離れした突破力を持つ。ドリブルを始め少し時間を与えるとウルグアイは3人で進路をふさいだ。構わず中島は突破しようとする。
ネット上ではかなり中島が叩かれた。『ドリブルにこだわりすぎ』『俺が俺が』『周りが見えていない』
違う。
ウルグアイは『3人で来ました。ドリブルをやめて下さい』と言っている。言いなりにパスするのが最善か?
3人来たからパスを出す。それは余りに平凡だ。
点を奪うためには相手の裏をかくべきだ。平凡な選手は怖くない。それでも突破を試みる選手が怖い。ウルグアイは怖いからまた3人で阻む。
横を向いて、パスコースを探して、横や後ろにバックパス。その1秒の間に相手は体勢を整えようとする。チャンスがあると思ったならチャレンジすべきだ。チャンスには時間を掛けずゴールに向かう。
日本人には輪からはみ出る者を叩く文化がある。集団行動を乱す者は非難される。この場面、横パスしてもさして良くなる状況でもない。
58分、中島がまたもボックス侵入をうかがう。左SB杉岡がオーバーラップして追い越す。そこに中島はパス。杉岡へのマークが甘く、速く低いクロスを蹴れた。GKムスレラはダイブしながらキャッチできず、ボールを前にこぼす。キャッチが難しそうならきちんと弾くべきだった。そこに走り込んでいたのは本日のラッキーボーイ三好、ごちそうを頂く。
この場面。また中島はドリブルを仕掛けてくるだろう。だってさっきは3人来ようが突破しようとしたのだから。そう、ウルグアイに
メッシを止めるのが難しいのはこの点だ。
メッシはドリブルはもちろんパスも世界屈指、シュートもある。タックルに行けばかわされる危険が、ゴール方向をふさいでシュートコースを消しながら、パスもどこに出されるやら。
鈍重な選手がボールを持っていれば、遠慮なく寄せられる。パスを出さない選手が相手なら他の選手へのマークを緩めてもいい。一方、何でもできる選手につくのは大変だ。
ウルグアイは中島に騙された。中島がいなければ3連敗だったと思う。3試合共、中島はマークを厳にされ、他の味方は自由を得た。
中島は五輪での活躍の割に、FC東京ではなかなか結果が残せなかった。中島にとって幸運だったのはFC東京
力を付けた中島はトップチームでも活躍。すぐにポルティモネンセのスカウトの目に留まり、今日に至る。
数ヶ月前までJ3でプレーしていた選手がポルトガルに渡り、瞬く間に40億円の値札が掛けられる。選手の能力を測るのは本当に難しい。
人間関係もあるだろう。サッカーは集団競技だ。戦術の幅が広い。選手に合っていないといけない。
自分の力が発揮されていないと感じたら、環境を変えるべきだ。そしてそれはサッカーに限らない。Jリーガーはもっと頻繁に移籍すべきだ。
ウルグアイは中三日、日本は中二日の試合だった。だんだん日本の動きが鈍ると日本がリードする時間が長かったこともありウルグアイがボールを保持する展開に。両者ともに速攻の応酬でアップダウン激しく壮絶な戦い。
個人的に注目していたのは板倉。低重心でガツンと当たってボールをかっさらう。
……こんな日本人のアンカー、見たことない。すげえなと思っていたらそこから出したパスはあっさりと奪われた。ただ、少なくとも相手の攻撃を遅らせる意味では悪くない。
カバーニやスアレスがミドルを打てば何度もバーを叩く。正直に言って日本は幸運だった。2-2で勝ち点を得る。
エクアドル戦。エクアドルは日本の最終ラインにボールを持たせ、黒人特有のしなやかなスピードでショートカウンターを狙う。さっき話したバルサが苦戦した形。さあ大変だと思ってみていると、日本はリトリートしてロングカウンターを狙う形になった。中島がバイタルからシュートを3本打ち、1本決める。中島もネイマールほどではないが加速性能と最高速度を兼ね備える。
エクアドルがラインを上げてきたら、その裏を狙う。常套手段だが余り日本は見せてこなかったプレーだ。この得点によりエクアドルはラインを上げづらくなった。また、エクアドルは中二日だったこともあって、後半は日本のペース。
決定機はつくるものの決めきれず、引き分けに終わった。
難を言えば。
森保監督の辞書には緩急という言葉がない。ああやって上下動が激しい試合を続けていると、体力面でキツくなってくる。試合間隔の短い大会では不利に働く。W杯を見据えると不安。アジアカップではそれに加えて決勝でターンオーバーしてこなかったツケが回った。
ブラジルを見てみるといい。可能なときにペースダウンする。相手だけを走らせてボールを追わせる。それだってマリーシアだ。そうやって相手がハイプレスに来たら擬似カウンター。そんなオプションがあってもいいじゃないか。
ウルグアイ戦に続き先発した岡崎はぴりっとしなかった。おそらくウルグアイ戦の疲れが抜けていない。一方、若い板倉は素晴らしかった。難度の高いパスは封印し散らすプレーに終始、フィジカルは抜けている。攻の柴崎、守の板倉。日本のセンターハーフは当分この2人でいい。格下相手なら橋本の巧さを活用できるが。
南米選手権、柴崎は輝いた。理由の一つとして安部や三好、上田が
ネット上ではやはり中島が叩かれた。
難を言えばセンターゾーンに入りすぎた。右サイドに潜り込む場面もあって空いたスペースに杉岡が入ってこず、左サイドががら空き、幅の狭い攻撃になる場面も。そっちじゃなくてゴール前に顔を出したり縦に走りDFを引っ張って欲しかった。自分が活きるだけでなく他人を活かすプレーを考えるべき。この辺は整理と時間が必要。
ポルティモネンセは移籍に大金を要求した。中島はポルティモネンセを脱出するためにアルドゥハイルに40億円を支払わせ、半年レベルの低いサッカーを楽しみ、ポルトに移籍。本来はPSGに移籍する予定だったが、SDが変わってしまい後任のレオナルドに引き継ぎが行われなかった。
今夏、多数の日本人が欧州に移籍した。
中島のおかげでもある。大儲けしたポルティモネンセを見れば二匹目のドジョウも狙いたくなるだろう。
一方、Jリーグのクラブは欧州のクラブからロクな移籍金を取っていない。選手が移籍しやすいようにして、我慢している。そうしないと選手は契約してくれない。欧州のクラブから見れば日本人は非常においしい物件だ。
久保に関しては。日本の光だと思う。
ただし、レアルに行くのはどうだったか」
みんなが俺を見る目が少し、曇る。みんな、俺がバルサが好きなのを知っている。『そりゃ、嫌でしょ』と、顔に書いてある。
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