第2話 移籍市場閉幕
「ただ漫然とパスを回しているのがパスサッカーではない。
相手にストレスを与えなければいけない。プレスを掛けなければ得点機をつくられてしまう、そんな状況をつくり相手を走らせる。勝っていれば後ろで回して時間を潰すのも相手にとってはストレスになる。
今のバルサは、パスワークが武器になっていない。メッシ以外相手の裏をかけない。パスを回しても脅威になれない。だからポゼッションを理想と口にしながらかつてのバルサらしさはみられない、ただのメガクラブになっている。
ただ、ゲームを支配するポゼッションサッカーは選手にとって魅力的だ。哲学を近しくするアヤックスから逸材デ・ヨングを獲得。盟友デ・リフトも続きたかったが、ピケ、ラングレ、ウムティティを擁するバルサにとってCBは優先度の最も低いポジション。デ・リフトを獲得すればウムティティが出て行く状況。そうこうしてるうちにデ・リフトはユーベで活躍する自分を思い描くようになった。
ラングレよりも怪我する前のウムティティの方がフィットした。ラングレも一流の選手ではあるがピケの相棒にはスピードのある、素早くカバーリングできる選手が望ましい。このままではスピードのあるアタッカーに後手を踏む。
だが、怪我の後遺症がどうなのか。そして問題は二人とも創造性含めたパスの能力が平凡なところだ。
ハイプレスの流行によって、DFにより一層パス能力が求められるようになった。DFのパスがうまいとカウンターの危険度が増す。
パス能力が低いと、プレスに抵抗する力が弱まる。もうバルサに対してハイプレスを仕掛けないチームはなくなった。バルサのチキタカがほとんど見られなくなっている要因がここにある。かつてはダニエウアウベスやプジョルが非凡な展開力を見せていた。
デ・リフトが欲しい!
バルサは相手チームのハイプレスにリスクを与えたい。フォアチェックに対しパスであっさりと
ウムティティを欲しがるチームは多い。もし、能力の回復が望めないなら売ってデ・リフトに換えたかった。しかしそうでないなら、ラングレも市場に出すべきだ。昨期、あれだけ起用した選手だが、なればこそ高値で売れるだろう。
デ・リフトとバルサは相思相愛なのにネイマールを欲しがるバルサは余力を残そうとして、銀行から金を借りなかった。ピケの後継者としてこれほどの適任は他にないのだが。
ユーベで成長したら後で買い取り? 一体いくらで買えるのやら。
お金はいくらあっても足りないものだ。が、バルサは使い方がおかしい。864億円の収入に対し人件費が673億円。
セルジ・ロベルトはユーティリティ性があるのはいいが、バルサでレギュラーにすべきではない。ビダルやアルトゥール、ラキティッチをもっと使うべきだ。今となっては貴重な
ルイス・スアレスの運動量が落ちているのも気になる。特に守備時。そろそろか。
デ・ヨングはスピードがなく、前に出ても良さが活きない。だがブスケツのいい後釜になるだろう。
南米選手権、ネイマールを欠くブラジル。コウチーニョは玉座に就いてのびのびプレー。これはバルサにとって幸運。スカウトに『バルサでは力を出せていないが、うちに来ればいいプレーをするかもしれない』と思わせた。バイエルンに買い取りオプション付きローン。
シャドーになれれば大活躍するはずだ。
レアルマドリーはアザールを獲得。活躍できるか読めない。
アザールのピークはリール時代だった。長友を子供扱いして抜き去っていった姿は忘れられない。怪我を重ねるうち、キレが失われていった。
昨シーズン、レアルマドリーは相手に守備ブロックを築かれるとヴィニシウスにボールを渡して、ドリブル突破を試みた。ヴィニシウスはバルサの誘いを断ってレアルに加入している。まだ19歳になったばかりだがそのドリブルは世界屈指。最高速度世界一、時速36.9kmを誇り年俸21億円、1試合プレーする度に1億2千万円が支払われる
選手にチームから出て行くように仕向けるとき、監督は選手を冷遇する必要がある。結果、ベイルはチームに対する忠誠心を失っているように見えた。チームメイトが親善試合でトッテナムと戦っている同時刻、その俊足でゴルフをしている写真がパパラッチされた。
ジダン監督はベイルがチームに帯同しなかった理由を『コンディション不良』と説明していた。……のだが嘘がバレた。売り物に傷が付かないように隔離しているつもりだったのだが。ジダンは赤っ恥。
素晴らしい選手だがジダンの志向するサッカーには合っていない。プレミアならバリバリやれる。が、掛けられた値札が高く、劣化も疑われ手を出されず。
アセンシオとアザールがシーズン開幕直前に怪我をすると、あっさりとチームに呼ばれ、スタメン。ドリブル突破から先制点をアシスト。
試合後、ジダンの記者会見。『彼はここに残る』『私はガレス(ベイル)もハメスも、すべての選手たちを信じている』
もう、何が何だか。
売却先が見つからない。『じゃあ使うしかない』で、使ってみたら思いのほかいいプレーをしやがった。
レアルはベイルに合わせシンプルなサッカーに。特色なく、ふわふわした、本当はジダンのやりたくない、スペインらしくない、ただ選手の能力によって強いサッカー。
だけど今のレアルであればこれが最適解だろう。ジダンは理想を棄て現実を選択した。
ただ、突然チームに合流しても準備が出来ていて、結果を出すベイルのプロ意識には脱帽する他ない。その後も何事もなかったかのように試合に出て、第3節では2ゴール。
リーグ4位のマンチェスターシティにペップが就任したのは2016~2017シーズン。リーグ3位で終了。しかしシティは我慢した。すると翌シーズンプレミアリーグとリーグカップを征した。昨シーズンもプレミアリーグを征し、更に3冠。
リーグ6位のリヴァプールにクロップが就任したのは2015~16シーズン。リーグ8位で終了。しかしリヴァプールは我慢した。翌シーズン、翌々シーズンは4位。しかしCLで準優勝を果たす。昨シーズンはシティと勝ち点差1の2位。しかしCLで優勝。
リーグ5位のチェルシーにサッリが就任したのは昨シーズン。リーグ3位で終了。ヨーロッパリーグを征した。だが我慢ができなかった。サッリに変えてランパード。
ランパード監督は公式戦1勝2敗2引き分けと上々の船出。ただしチェルシーは補強禁止処分を受けており、加入したのはレンタルバックでの8選手のみ。仕方ない部分はあるだろう。
昨冬、チェルシーがテコ入れのためにローンで獲得したのはゴンサロ・イグアイン。彼はシュートを打つために生まれてきた男で、しかし他に寄与することはない。
優勝争いするようなチーム、レアルマドリー、ナポリ、ユーベでは点を取った。味方が次々とチャンスを創出するからだ。しかし、昨シーズンのミラン、チェルシーはそんなチーム状態ではない。ミランでは良いパスが来ないと不貞腐れ、チームメイトを批判。プレミアは下位のチームも分配金がたくさんもらえて強い。点を取ることに特化した選手は足を引っ張りかねない。
イングランドに根付いているリトリートと、サッリの志向するハイラインハイプレスでは文化の乖離が余りにも大きすぎた。ファンからも愛されなかった。
しかし時間が解決する問題だったかもしれない。さっき挙げた3人はいずれも特色ある戦術を用いる。当然、浸透するまで時間がかかることを配慮すべきだ。
むやみに監督を続投させることがいいと言ってるわけではない。やり方を劇的に変えた場合、フィットするのに時間がかかる。その点について配慮はあって然るべきだ。
昔のイングリッシュプレミアリーグは4-4-2一辺倒だった。それが今はどうだ。確かにフィジカルコンタクトに寛容で、大柄な選手が必要になるプレミアでは深く引いてからのカウンターと相性がいいだろう。でも、給料がいいプレミアにまた新しい監督が来て、どんどん異文化のサッカーが持ち込まれるとまだまだ変容する可能性がある。
プレミアは一足早く8月8日に移籍市場を閉じた。これにポチェッティーノが苦言を呈している。
他国の市場が閉じるまで気が休まる日はなかっただろう。エリクセンは出たがっていた。エリクセンが移籍して金が入っても、代わりの選手を獲れない。
市場を見据えながらのシーズンインは確かに疲弊する。選手もやきもきし、トレード要員になり得る選手は負傷を恐れて試合に出しにくい。
だからといってプレミアだけが移籍市場を閉じるのはどうなのか。デメリットが大き過ぎる。
アトレチコマドリーがグリエズマンの代わりに獲ったのはジョアン・フェリックス。将来に期待大。
ケイラー・ナバスはPSGに。本当にクルトワの方がいいGK? クルトワは足下へのシュート反応がもたつく。敏捷性に乏しい。難しいところだ。ともかくPSGは素晴らしいGKを獲得した。そして、イカルディもPSGに……。
ルカクがインテルに移籍したのは喜ばしい。是非、力を発揮して欲しい。器用なタイプではない。リトリートされると無力化してしまう。パルマで活躍したアドリアーノのように速攻で点を取って欲しい。
そして、賢かったアーセナル。ニコラ・ペペ。ダニ・セバジョス。フリーでダヴィド・ルイス。費用対効果の大きい補強だ。
移籍市場の幕は降りた。
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