第11話 氷川神社
「ここみたいだ」
僕はここに来るのが初めてで、ちょっと歴史とかを調べてみた。
『約1500年も昔に創建されたと言われている川越氷川神社には、素盞鳴尊すさのおのみこと、奇稲田姫命くしいなだひめのみこと、脚摩乳命あしなづちのみこと、手摩乳命てなづちのみこと、大己貴命おおなむちのみことの5柱の神様が祀られています。
2組の夫婦を含んだ家族の神様であることから「夫婦円満」「家族円満」「縁結びの神様」として昔から信仰されてきました』
思いっきり縁結びの神様だな。それで行く前から葵があんなにはしゃいでいたのか。納得。
「しかし、1,500年の歴史ってすごいな。何時代だ……。あと、ここって川越神社じゃなくて正確には川越氷川神社なんだな」
葵は感無量と言った感じでこっちの話を聞いていない感じだ。
「ねぇ、圭吾くん!あれ!あれまだあるのかな!?」
「あれ?何のことだ?」
「恋花火ですわ!」
「アウト~」
「もう、そんなのいいじゃありませんか!早く!」
なんかどうでも良くなったらしい。そのほうがいつもの葵っぽくて良いかも知れない。
「売り切れてるな」
「残念です……」
「まぁ、先着100本って無理だろこの人混みで。まぁ、今度普通の線香花火でもやろうや」
そう言うと落胆した葵は「絶対ですよ!」と元気を取り戻してくれたわけで。前から思っていたがわかり易すぎる性格だな……。
「こっちの"恋あかり"ってなんだ?」
「そそそそそれはっ!」
「何だ慌てて」
「良いのですか!?私とそのような祈願祭に参加されても!?それは恋人同士がやるものですわ!?」
「いやほら、ここに"恋人同士だけではなく、夫婦・家族・友人同士でもご参列ください。目に見えない“縁”で結ばれた人と、これからも仲よく過ごせますように"って書いてあるじゃん」
「わ、私が無理なのでございます!恐れ多いのでございます!!」
いざというところで押しが弱くなる性格のようで。いつもの獰猛な押しはどこへ行ったのか。
結局、せっかくだからと僕が手を引いて奉納に参加したわけだけど。終始顔を隠す葵はちょっと可愛くも見えた。
「わわわ私、このようなものを貰ってもよろしいのでしょうか……」
奉納が終わると、ふわりと光るぼんぼりはそのまま貰える様になっていた。なんか縁日で取った水風船みたいだ。
「おお。この川、光ってるぞ」
「そそそうですわね」
まだ調子がおかしいみたいだ。そんなに緊張したのだろうか。あれだけ友達としてだからな、って言ったのに。そしてメインディッシュの"縁むすび風鈴"
「おお。これは綺麗だな。おい、葵、聞いてるか?」
夏の風に吹かれて揺れる風鈴から涼しさを運ぶ音が鳴り響いている。とても優しい音だ。色とりどりの風鈴は形も色も音色も全部バラバラだ。人間と同じくバラバラの中から調和の取れた2人が縁を成すように、この風鈴も互いに心地よく奏でる組み合わせがあるのだろうか。
「綺麗ですわ……」
「来てよかったな」
「はい……」
葵は風鈴に見とれてその場に立ち止まってしまったで、後から来た人たちに迷惑をかけている状態になっていた。僕も待っていたからかなり邪魔だろう、と思った僕は葵の手を引いて先に進む。風鈴に見とれていた葵はあまり気にしていなかったので、僕もあまり気にしていなかったのだが……。
「圭吾様!?お手が!」
「繋いでるな」
「繋いでるな、ではございませんわ!?」
「嫌なのか?」
「滅相もございません!とても嬉しゅうございます!でも!でも……よろしいのでしょうか。これで本当に」
「何がだ?」
「伊万里舘さんです」
「なんでここで千景なんだ?」
「圭吾様、伊万里舘さんのことを想っていらっしゃるんでしょう?」
「そうなのか。それは僕も初耳だ」
「そうなのですか……って、え!?違うのですか!?」
「昔からそう言ってると思うけど。あいつは僕にとっての"普通"の存在だ。それ以上でも以下でもないさ。だから気にするな。」
「信じても、よろしいのですか?」
「ああ。ただ……」
「ただ?」
「若干ヤキモチ焼きだから、今日の埋合せをどこかでしないとへそを曲げるな。多分」
「あの伊万里舘さんがです!?」
「ああ。ひん曲がるぞ。戻すのが大変なんだ。だから、今日も事前に埋め合わせするから、って言ってきてある」
「そう……なのですか」
ちょっと葵には悪いけど、後から分かることだし、ここで言っておいたほうが過度な期待を持たせずに済むと思ってそう伝えた。
「ところで圭吾様?一つお伺いしてもよろしいですか?」
葵からの質問は珍しい。なんだろうか。
「定峰さんのことなのですが」
「なんだ?定峰と元春のことか?」
「いえ、違いまして。定峰さんきっと圭吾様に想いを寄せられているかと思います」
いきなり話がすっ飛んだぞ。なんでだ?どこからその話になるんだ??
「いきなりだな。それも初耳だ」
「私も女の端くれですので、なんとなく、なんですが。定峰さん、あの正確で圭吾様のお願いだけはお聞きになられております。気になって隣のクラスでの定峰さんの様子を伺いましたところ、やはり誰の言うこともに従わない感じで結構怖がられているご様子でした」
「それが理由??」
「はい」
「同じ図書委員だからじゃないのか?組汗曜日もいつも一緒だし」
「その曜日組み合わせを作ってらっしゃるのはどなたですか?定峰委員長さんではございませんか?」
「言われてみれば。でもまぁ、たまたま喋りやすいとかそういうのじゃないのかな。千丸とか呼ぶと怒るし」
「それ、それですわ。彼女に"千丸"って呼べるのは圭吾様だけなのですわ」
なるほど。そう考えると、千丸は僕には若干ではあるが気を許している、ということなのだろうか。でもこういう風に誘っても絶対に来ない気がする。
「それでさ、葵は仮に千景と千丸がライバルになったらどうするんだ?」
「私は……。負けたくありません。この想いは本物なのです。いつも見ていたのです。夢なのです」
「今日はその夢が少しばかり叶ったか?」
「はい!」
「そうか。それは良かった」
僕たちは21時半くらいに川越氷川神社を出て、地元駅に到着するのは22時半くらいの予定だったのだが……。
「人身事故、だそうだ。どうするコレ。回避する経路、上下線とも止まってるから逃げれないぞ」
「バス……」
「は、あの長蛇の列だ。タクシーもな」
「参りましたわ……」
「幸い、座れてるから動くまでこの電車に乗っているほうが良いかも知れないな」
結局、僕たちは電車に乗って運転再開を待ったのだが、動き始めたのは午前0時近かった。地元駅に到着したのは午前0時20分。
「この時間は流石に静かだな」
バスも終バスが終わっているし、駅前のロータリーにはタクシーしか居ない。
「圭吾!!!」
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