第8話 プール
「混んでるな」
「ああ」
「芋洗い状態だ」
「ああ」
「まずは座る場所を確保ですわ!」
こういうときの神名峰が頼もしい。見事木陰のベストポジションをゲットしてくれた。持ってきた敷物を敷いて陣地を主張する。
「少し、狭いな」
「しかたないでしょ。こんなに混雑してるんだから」
それにしてもいい天気だ。日焼けしそうだな。男も日焼け止め塗らないと真っ赤になって大惨事になりそうだ。なのに借りればいいか、と日焼け止めを持ってきていないのは元春も同じらしく。隣に座っていた千丸に貸してくれと頼んでいたが、一言で一蹴されいた。あいつ、千丸から「嫌」って何回言われてるんだろう。
「千景、日焼け止め、借りれるか?」
「はいこれ」
「サンキュー」
腕やら上半身やらに塗れたのは良いんだが、背中は流石に手が届かない。
「千景、背中、頼めないか?」
「うん」
「ちょ、ちょっと!!伊万里舘さん!?それは私の約目ですのよ!?」
そうだったのか。では頼むとしよう。
「そうか。それは失礼したな。それじゃ、頼む」
日焼け止めを手渡し、後ろを向く。
「どうした?早く塗ってくれ」
案の定である。塗れないらしい。
「千景、やっぱり塗ってくれ……」
「居ないな。元春?も居ないな」
「トイレに行くって伊万里舘さんが言うから久保君が付き添っていった」
「そうか。それは悪かったな。それじゃ、もうしわけないんだけど、定峰、コレ、頼めるか?」
「いいわよ。貸して」
??素直だ。絶対に「嫌」って言われると思ったのに。しかも普通に塗ってくれている。女の子の手は柔らかいなぁ……。
「いってぇっ!!!!」
「はい、おしまい」
絶対に背中に手形が付いてる。千丸は叩いた手を隠しているから多分、自分の手も真っ赤になっているんだろう。自業自得じゃ。
「神名峰。ボーナスタイムは終わったけどいいか?」
「構いませんわ。私に勇気がなかった。それだけのことですわ」
「神名峰。また具合でも悪いのか?熱中症とかになってないよな?」
おでこに手をやろうとしたら、全力で断られた。目がめちゃくちゃに泳いでる。多分、あの風邪を引いた日のことを思い出したのだろう。
「ただいま」
元春が疲れ切った顔をしている。千景の手には焼きとうもろこし。大方の予想はつく。スマン、元春……。
「それじゃ、あの芋洗プールに入りに行きますか」
そう言うと元春は千景が焼きとうもろこしを食べ終わるまでここで荷物番してるから行って来いと言ってくれたので、千丸と神名峰の3人で向かうことにした。2人は着ていたパーカーを脱いで水着になたのだが……。
「コレは眩しすぎる。思春期の僕には眩しすぎる!!」
誇張表現ではなく、そう思ったので口に出てしまった。神名峰の大きな胸、ほくろがあるのがまだこれが……。千丸はあのとき僕が選んだ水着を着ている。見ていたら「なによ」と言われたけど、「似合ってる」というと「そう」とだけ返事して先に歩き始めてしまったのでそれに僕と神名峰は続く。
「それにしてもすごいなこの混雑具合。入場制限とかしたほうが良いんじゃないのか」
持ってきた大きめの浮き輪に3人掴まってまさに芋洗い機に流されるように流れるプールをプカプカしている。神名峰のおっぱいも水に浮いてプカプカしているのは横目で眺めるだけにしておこう。
「なによ」
「何も言ってないだろ?」
「見たでしょ。こっち」
確かに見た。見比べてしまった。だから察しが良いのは困るんだ。千丸も千景ほどではないが少し小さめではある。
「そういえば神名峰さん、最近、吉原くんに猛烈アタックしてないけど、何かあったの?」
「そうだな。最近はそういうのがないな。やっぱり具合でも悪いのか?」
「それはですわね。私も大人になろうかと思いまして。想いを伝えるのはなにも実力行動で示すだけではなく、心で示すものと気がついたのですわ。ですから、押し付けがましいのは止めしたほうがよろしいかと思いまして」
「それはつまり。今までのは素ではなく、意識的にそうしていた、ということか?」
まじかー。そうだったのかー。女ってわかんねー。
「あ、いえ。風邪を引いたときは素の私でした。でもそれ以外は、その……」
まじかー。あの風引いたときの騒がしさが素なのに、本当の私は静かなんですと来たかー。
「分かった。そのほうが僕も助かる。少しさみしくもあるがな。千丸はどうなんだ?」
「なにが?」
「元春」
「は?なんでここで久保君の話が出てくるの?」
「なんか渡したいものがあるって言ってたぞ。何気なく言ってやってくれ。なんかタイミングが掴めないらしいからさ」
「そういうこと。なんかまた私が久保くんのことを好きとかそういうのを言い始めるんだと思った」
「そっちのほうが良かったか?」
「ない。ありえないから。そんなこと」
「そういえば、定峰さんはどんな男性がお好きでいらっしゃるの?」
「は?神名峰さんからそういうの言われるとは思ってなかった」
「あ、それは僕も気になるな」
「吉原まで……」
「そうね。一言で言えは、吉原くんと久保くんみたいのはごめん、って感じかしら。だから、神名峰さんは安心してて」
「神名峰。僕は千丸に振られたぞ。振られたての男は落としやすいって言うぞ」
「わ、私はそんな卑怯な真似はしませんわ!正々堂々と吉原様の方から私のことを愛してくれるように努力することにしましたの」
「吉原くん、愛されてるじゃない」
なんか丸くなった神名峰はちょっと拍子抜けというかなんというか。女の子らしくなってしまって対応に少し困るところがあるな。
2周くらいしたのでプールから上がってベースに戻ると、二人共寝ていた。あぐらをかいて寝ている元春の肩に体育座りをしている千景の頭がもたれ掛かってまるでカップルのようだ。これはマズイぞ。と思っていたら少し手遅れだった。
「おい、千丸、その写真は絶対に千景には見せるなよ」
「なんで?」
「ちょっと説明しにくいんだが、とにかく、見せるなよ。できれば消しておいてほしい」
「ま、まぁ、わかったけど……」
あとは、千景に気が付かれずに元春だけを起こす方法を考えなければ。いや、逆に気がついてない元春はそのままにして、千景だけを起こす時に引き剥がせばいいんじゃないか?うん、そっちだそっちの作戦で行こう。
「ち、千景?起きろ。朝だ。起きろー」
そんなことを言いながら後ろから千景の肩を持って起こしあげる。うまく離れたぞ。
「んん??朝?もう少し……」
「あ、バッ!!」
バカって言い終わる前に今度は誰も居ない右側にた倒れてゆく。とっさに支えようと差し出した右手は千景の脇をすり抜けて水着の中に……。
「吉原、何やってるんだ?」
「いや、なんでもない。僕は荷物番やってるからみんなはプールに行ってきてくれ」
僕は立てた膝に肘を乗せて頭を抱えていた。
「触っちまった……」
さっき差し込んでしまった水着の中で突起物に手が当たった。あれは明らかに……。
「触っちまった……」
「なにに触ったのかは聞かないけど、不可抗力なんでしょ?仕方ないんじゃないの」
「あれ?千丸か。プールに行ったんじゃないのか?」
「疲れたから戻ってきた」
暫くプールで遊ぶ子供の姿を見てた楽しんでいたのだが、横目で見ると千丸がなにか話したそうにしていたので声を掛けた。
「なにか話があるのか?」
「伊万里舘さん。何があったの」
「ああ。さっきのか」
千丸は小さく頷く。
「今、話さなきゃダメか?もう少し、時間が欲しいんだ。最近あいつ、僕のことを"吉原くん"じゃなくて"吉原"って呼び始めただろ。あれが自然に"吉原くん"に変わるまで待ってくれ」
「なんか色々とあるのね。分かった。これ以上の詮索はしないでおくわ。あと、久保くんって私のことどう思っているの」
「それは本人に聞かないとわからないな。僕が聞いたんじゃ意味がないだろ」
「吉原くんって結構意地悪なのね」
「そうか?」
「意地悪よ。さて……」
「どこに行くんだ?プールに戻るのか?」
「どこでもいいでしょ!聞かないでよもう……」
あ。入口の方に歩いていたたのでトイレか。悪いことを聞いたな。
「そういえばよ?神名峰はなんで吉原なんだ?」
流れるプールで強制的に流されながら久保は神名峰に尋ねる。
「言わなきゃ駄目ですの?」
「あ、いや、強制するつもりはないよ。個人的なことだからな。いわゆる素朴な疑問ってやつだ」
「では、恐縮ですが秘密、でお願い致しますわ。でも一つだけ。吉原様は私にとっての唯一の存在なのですわ。心が、というよりも人間として」
「何だそりゃ。でもまぁ特別なのはわかったよ」
この会話に参加していなかったも一応、千景ちゃん何の話なのか耳は傾けていたようだけど、ホント、千景ちゃんってなにを考えているのかわからないところが多い。
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