妹 ユーエン目線 

 僕には自慢の妹が三人いる。

 長女リベリーは二十三歳でナイトブルーの髪にスカイブルーの瞳。妖艶ななかにも可愛さを持つ美人で公爵家に嫁いだ。次女ラフラは二十歳でスカイブルーの髪にエメラルドの瞳。美しくも気の強そうな容姿で、侯爵家に嫁いだ。

 二人は社交界の宝石と呼ばれるほどの美人で、結婚した今でも異性からの関心を集めている。

 そして、三女のアルティナはアメジストの髪にラベンダーの瞳。外に出たがらない引きこもりのせいか、日に当たらない肌は陶器のように白く儚げな雰囲気を持つ。

 壊れ物のように見えるが、しっかり自我を持つ女性だ。

 アルティナは本にのめり込み社交界に出るつもりがない。

 やれ、お腹が痛いだの頭が痛いだのと誰でも解るような嘘をつき、社交会場まで行ったとしても人波に酔うと言って馬車から下りず本を読むような彼女に異性との出会いなど、どうやって見つければいいのか?

 そんな時、第二王子の婚約者を探していると国王陛下から話があった。

 上の妹二人のように美しい女性なのだろうと言われ、当然のように頷いてしまったのが運のつきだった。

 とんとん拍子に話を取り付けられてしまい、アルティナには悪いが婚約はもはや決まったようなものだった。

 第二王子がどんな性格かと聞かれたら、脳筋と答える。

 今二十五歳の僕と同い年の第一王子の方が文武両道でアルティナを幸せにしてくれそうなのだが、残念なことに第一王子は生まれた時から決められた婚約者がいる。

 十四歳の第三王子は甘えたいだけのお子様だから論外だ。

 どうにか第二王子から第一王子に婚約相手を変えてもらえないか国王陛下にお伺いを立てようと思っていた。

 結婚とは女性の幸せだ。

 早くいい男と結ばれて、妹達には幸せに暮らしてほしい。

 あの時まで、僕はそう思っていたのだ。



アルティナが何不自由なく暮らすために王族との婚約を実現したかった。

 言い聞かせようと肩を掴めばアルティナは僕を睨み付け、その手を振り払った。

 妹のあんな顔を初めて見た。

 床に頭を打ちつけてしまい、意識を失ったアルティナを見て血の気が引いた。

 幸せにしたかった大事な妹を、僕は何の考えもなしに傷つけてしまったのだ。

 心も、身体も。

 目を覚ましたアルティナは、喋ることができなくなっていた。

 医者が言うには、ストレスが原因のため、それを取り除くのが一番だそうだ。

 それなのに、あろうことか国王陛下は、アルティナが声を出せなくなったことを聞くと第二王子との婚約はなかったことにしてほしいと言ってきた。

 その事実にアルティナは仕方がないと筆談で伝えてきたのだ。

 それからというものアルティナは毎日本を飽きるまで読んだ。

そして、僕が帰ると柔らかな笑顔を向けてくれる。

 妹達の中でも一番美しいアルティナが結婚できないなんて考えもしなかった。

 ……いっそ、僕が一生養えばアルティナは幸せになれるかも知れない。

 誰にもアルティナを任せる必要なんてない。

 僕がアルティナを幸せにすればいいんじゃないか?

 僕のせいで声が出なくなったのだ。

 僕が責任をとるのは当たり前だ。

 そう思った。

 だが、アルティナは美しいのだ。

 王立図書館に興味を持ったアルティナを連れていった日、入口でアルティナを見かけた数人の同僚に、紹介してほしいと詰め寄られた。

 昼食をとるため迎えに行けば、いつもは図書館にいない男達がアルティナを見ようと本棚の隙間からチラチラと様子をうかがっていた。

 食堂に連れていけばアルティナの美しさに大半の人間が言葉を失う。

 これは、どうしたものか。

 午後は出会う男出会う男、皆にアルティナのことを聞かれた。  



「大変そうだねユーエン」

 僕の仕事場である第一王子の執務室に行けば、王子のディランダルはそう切り出してきた。

「妹は美しいですから」

 僕がそれだけを言えば、デイランダル王子は苦笑いを浮かべた。

 本当は彼にもらってほしい。

 文武両道、性格も穏やか。

 白に近い金髪にアクアマリンの瞳を持った美丈夫。

 それに、僕の親友だ。

 だけど残念ながら彼には既に婚約者がいる。

「アルティナが喋れなくなったのは僕のせいだ。だから僕が幸せにする」

 驚いた顔のディランダルはゆっくりと柔らかく笑った。

「そうか。困ったことがあったら何時でも相談しなさい。力になるから、ねっ親友」

「悪いな親友」

僕らはクスクスと笑い合った。

 こんな男だから彼にアルティナを預けたかったのだが、今はそれを言う資格などないと僕は口を閉じるのだった。


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