第44話 ぱんつ
「道彦、道彦!!あーさ!!」
「きゃっ!?」
思いっきり布団を剥がされた。剥がした安西本人が声を上げている。なにかと思ったら、浴衣がはだけてパンツ丸見えだったようだ。寝ぼけていてそのまま「おはよう」って言った途端に布団を投げつけられた理不尽である。どうやら最後に起きたのは俺だったようで、他の面々の布団はたたまれていた。昨晩、あんなことがあったのでなかなか寝付けなくて寝れたのは明け方だったしなぁ。
「一緒に風呂に入ったんだから、パンツくらいで騒ぐなよ」
「それとこれとは別!ちゃんと浴衣着てよね!!」
「へいへい」
朝食も純和食。家では絶対にこんなしっかりした朝ごはんは食べないし、食べきれないと思ったけど、美味しいご飯は食べれるものだ。食事中に七海ちゃんと千石さんをチラッと見てみたが、特に変わった様子もなく普段どおりだ。七海ちゃんだけが顔を見たらニコッと笑顔を向けてきたけども。
「さて。今日は何をしようか」
安西が切り出したので、まずは手荷物だけ残して、荷物は家に送ってしまおうと提案して身軽になってから行動を開始した。真っ黒いゆで卵に遊覧船に神社にお参りに……箱根の定番と呼ばれるコースを一周りしたらそれなりの時間。
「そろそろ行かないと電車に遅れそうだな」
「えー。美術館とかまだ行ってない」
「いや、時間的に無理でしょ。もう一泊しないと」
「したいの?道彦やーらしー」
それをお前がいうか。
帰りの電車でも色々と話が出るのかと思っていたが、俺も含めて全員が新宿まで熟睡してしまった。思いの外に疲れていたらしい。
「道彦さ。昨日の夜、七海ちゃんと涼子ちゃんとなにを話していたの?」
「昨日の夜って?」
まさか、こいつ起きていたのか?
「あの二人、道彦の布団に入っていったでしょ」
やっぱり知っていたのか。
「なんだ知ってたのか」
「流石にね。なに?私にも入ってきてほしかった?」
「そうだな。勿体無いことをしたな」
ちょっと背中に当たる胸を想像してしまった。
「で?なにを話していたの?」
「ま、色々だな」
「ふぅん。愛の告白でもされていたのかと思ったけど」
確かに千石さんにはされたけど。それと七海ちゃんには……。
「なぁ、あかね。全員と同時に付き合う、って言ったらどうする?」
安西が目を丸くして俺を見ている。
「なに?今更。今の状態がまさにソレじゃない。付き合ってもいないのに男一人に女三人で旅行なんて行かないでしょ。普通。それともなに?道彦にとってこれはただのお友達の範疇だった?」
「いや、友達よりは近いというかなんというか……」
「そりゃまぁ、私だけを見てくれるのが一番だけど、誰も選べない、って離れられちゃうほうが悲しいから……」
そう言われて返す言葉が見つからずに家に向かって無言で歩く。こんなことをしているうちに全員が俺を離れる可能性だってあるのにな。そんなことも考えながら。
「それじゃ、旅行、楽しかったわ。お疲れ様」
安西はそう言って自分の家に入っていった。この旅行、みんなはどんな気持ちで行っていたのだろう。考えてもわからないので頭を掻きながら玄関ドアの鍵を開けて中に入る。
「お・か・え・り!!」
「なんだ楓。そんなに怒って」
「荷物!ちょっと前に帰ってきたからって母さんが洗濯物を出したの!んで!これは何!!」
楓が持っているのは女性モノの下着。ってか、今朝出したものが今日到着するのか。日本の宅配便は優秀だな。
「なんだそれ?楓のか?俺、間違えて持っていったのか?」
「違うわよ!誰のって聞いてるの!!」
うーん。言っていることがよくわからないな。
「誰のって。名前でも書いていないのか?」
「書いてるわけ無いでしょ!!この変態!!パンツ盗んでくるなんて!!」
うーん。どうやら誰かのパンツが俺の旅行バッグに入ってしまったようだ。しかし、どうしたものか。「これ誰の?」なんて聞き様がないし。
「なぁ、楓、それ、間違いで入っていたとしたら、持ち主、どうやって確認すればいいと思う?」
「盗んだ相手に申し開きすれば良いんじゃないの」
「いや、パンツなんて盗んでどうするんだ。中身のないパンツはただの布だ」
「余計に変態味が増して気持ち悪いわ……。まぁ、でも故意に盗んだのではないのなら確認は難しいんじゃないの。それとなく聞くしか無いでしょ。多分、答えてくれないだろうけど」
だよなぁ。「パンツ、なくしてない?」なんて聞いて「無くした!返して!」なんて展開は考え難い。ところでこれ、洗っておいたほうが良いのだろうか。それにしても、なんで女の子のパンツはこのんなに布面積が小さいのか。男が履いていたらブーメランパンツなんて言われて少数派になってしまうのに。ボクサーパンツみたいのじゃない意味ってあるのだろうか。
「なぁ、楓、なんで女の子のパンツはこんなに布面積が小さいんだ?」
「そんなの聞くなバカ!!」
答えにくい事なのか。なるほど。でもそれしか分からん。っと、メッセージが届いたようだ。
七海『先輩。なにか言うことがあるんじゃないんですか?』
七海か。ちょうど今、聞きたいことが出来たところだ。
桐生『なぁ、七海。女の子のパンツはなんであんなに小さいんだ?』
七海『あ!やっぱり!変態先輩、それ、返してくれなくてもいいですからね』
桐生『変態とはなんだね七海ちゃん。このパンツ、七海ちゃんのだったの?荷物に入っていたんだけど』
七海『そうですよ!黄色のやつでしょ!私のですぅ!この変態。欲しいなら欲しいって言ってくださいよ』
桐生『言えばくれるのか?』
七海『あげませんよ!あと!最初の質問何なんですか?小さい理由ですか?そんなの聞きたいんですか?』
桐生『知ってるの?』
七海『はぁ。こんなの他の人には聞かないでくださいよ?敷くものを固定するためですよ。CMで羽がどうのこうのって聞いたことないですか?』
あ!あるある。そういうことか。ボクサーパンツじゃ固定できないな。
桐生『なるほど過ぎて目からウロコが落ちた』
七海『男の人ってそういうの、知らないんですね。と、それはそれとして。間違えてそっちに入ったやつは捨てておいて下さいね!願いですよ!』
ふむ。捨てる。一応、楓にも報告しておいたほうがいいかな?いきなりゴミ箱に入ってたら何事かってなりそうだし。そのあと、一応報告したら深い溜め息と軽蔑の目で見られたわけで。
「しっかし、明日からどうしようかなぁ。なんか全員と付き合うとかなんとかって話になってしまったけども。ってか、その認識あるっぽのは七海ちゃんと安西だけで、千石さんはどう思っているのか分からないんだよな」
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