第42話 あり得ない展開
「ちょっと意地悪な質問していいか?」
「なに?」
「もし、俺があかね以外を選んだら、あかねは俺に対して今後、どういう意識を持つんだ?」
「んー。詩乃ちゃんのときにも言ったけど、自分の心が冷めてないなら待ってる、かなぁ」
あー。そうだった、あの時もそんなこと言っていたな。
「でも七海ちゃんと涼子ちゃんは違うと思うなぁ。多分だけど、泣いて自分にけじめをつけて次に歩き出す気がする。なんだかんだで強いもん、あの二人」
そうなのか。一番強いのはあかねだと思っているのだが。
「ねぇねぇ、私からも一つ質問いい?」
「なんだ?」
「顔とかスタイルとかその辺は誰が一番好みなの?要は見た目」
これはむずかしいぞ。あかねはショートボブに大きめの胸。七海ちゃんはサラッサラの黒髪ストレートに伊達眼鏡。涼子ちゃんは短めのポニーテール。スタイルは一番良いかも知れない。でも七海ちゃんの小ささも……
「うーん……」
「あ。いま胸見たでしょ」
「バレた?」
「どうせ私はここだけですよ。でも、もし私と付き合ったら自由に出来るかもよ?」
「顔を赤くしていうな」
容姿で選ぶなら、正直、3人共自分にとっては贅沢すぎる。改めて見るとなんで俺なのかって思うわけで。
「なんであかねは俺なんだ?」
「え?そんなの好きだから、じゃない?」
「いや、だから、なんで好きなのかって話」
「うーん。買い物のときかなぁ。引っ付いたり色々話したりしてすっごいドキドキしたの。一緒にいて楽しかったの。だからかな」
わかるわー。あの時、確かにそんな感じしたわー。あの時になんで俺は猛プッシュしなかったのか。ま、今考えても仕方ないな。でも参考にはなりそう。
「そろそろお風呂にでも入る時間かな。夕食は18:30って言ってたし」
「そうね。それじゃ、七海ちゃんと涼子ちゃんを起こしてあげて」
「俺が?」
「私はこうして二人きりで話ししたんだから、そのくらいはサービスしてあげなさいよ。ほら、いつぞやか、起こしてもらったでしょ」
ああ、あれか。勿体無いことをした、というアレか。しかたない。やってやるか。
「七海、七海。おきろー。お風呂、入るぞ。ほら、一緒に行くぞ」
とんとんした場所がいけなかった。思いっきりお尻だった。目を覚ました七海が飛び起きてしまった。勢いで涼子ちゃんに激突して涼子ちゃんも起きた。
「なななななにするんですか!えっち!」
七海ちゃんは起き上がってお尻を押さえて猛抗議。プールではお尻どころか腰とか触ったのに。ってか、抱きつかれたりしたのに。涼子ちゃんは何が起きたの、という顔をして起き上がったのだが。立膝はやめなさい。ロングスカートからパンツがコンニチワしてますよ。
「や、すまん。そんな気は無かったんだが、叩く場所が悪かった」
女の子は本当に分かりませんね。時と場合による、ってやつですかね。まぁ、所構わず何をされてもいいですよ、見たいのはこっちも困るけれど。
「先輩ホント、わざとなのか天然なのかわからないところがありますよね。でもそういうのは恋人になってからにしてほしいんですけど」
そうか。恋人同士になればいいのか。少し思い浮かべてしまったじゃあないか。
「ま、まぁ、アレだ。その早く風呂に入らないと夕食に間に合わなくなるからな。早く行こうか」
こういう時はきりをつけるに限る。さっさと着替えを用意して風呂に行こう。
「あれ?先輩はこれ、着ないんですか?」
置いたあった浴衣。置いてあったのは知っていたけど、なんとなく?なんか寒そうじゃない?なんて思っていたら七海ちゃんに持っていた着替えの上に乗せられてしまった。
「そうだな。こっちで行こうか」
そう言って部屋に鍵をかけてぞろぞろとお風呂へ。
「ん?家族風呂?こっちは使えないのか?」
一番手前のお風呂には"家族風呂"の札が掛かっていた。が、安西と千石が躊躇なく入ってゆく。七海ちゃんは俺と入っていった二人を見て入っていこうとした。
「先輩は来ないんですか?」
ん?そっちも男湯と女湯で分かれているのか?
「道彦~、こないの?」
中から安西の呼び声がする。なんか嫌な予感がしたけど、逃げる準備を整えて、中に入ってみた。
「あ。やっぱりね。そういうことですか。でも高校生でこういうのはダメだと思うぞ」
理性があるうちにここから出なくては。
「なに?恥ずかしいの?」
いや、お前も顔が真っ赤じゃないのよ。
「これ、安西、いや、あかねが仕組んだんだろ」
「違うわよ。言われて結構迷ったんだから。大丈夫、バスタオル巻くから」
いや、そういう問題じゃ……。と出ようと思ったら鍵を閉められてしまった。七海ちゃんがニコッと笑っている。犯人はお前か。ため息をついてドアに向かったが、内鍵が見当たらない。
「先輩。探しものはコレですか?」
七海ちゃんが鍵をプラプラさせている。なんで内鍵までキータイプなんだ。意味がわからない。
「七海ちゃん、それを早く返してほしいんだが。手遅れになる前に」
「もう遅いと思いますよ?ほら」
指さされたほうを見るとバスタオルを巻いた安西と千石。いや、ダメでしょ。イカンでしょ。
「先輩。私も脱ぎますので向こうを向いていてくださいね」
えっと?向こうを向くと安西と千石が居るんですけど?ニコッじゃねぇよ。嬉しいとかそういう気持ちは……ゼロじゃないけど、流石にこれは度が過ぎているというかなんというか。なんて考えているうちに七海ちゃんに「もう良いですよ」なんて言われてこっち側にやってきた。バスタオルを巻いている。
「それじゃ、私達は先に入っているから道彦も観念して入ってらっしゃいね」
これはもう逃げられないのか。いっそのこと、このスケベイベントを楽しめばいいのか?しかし、コレはどうすれば良いんだ?タオルを巻いてもバレるでしょ。元気すぎるでしょ。
「先輩、なんで後ろ向きに歩いてくるんですか?」
先に湯船に浸かった七海ちゃんからそんなことを言われる。いや絶対に分かってるでしょ。
「諸般の事情がありますので」
このままお湯からあがった状態でいるよりも湯船の中に入ったほうが安全と踏んだ俺は、かかり湯をして、後ろ向きのまま湯船に入った。
「おまえらなぁ。これどういうもりよ。俺が襲ってきたらどうしようとか考えないの」
「道彦は襲いたいの?」
安西が胸元をひっぱって谷間を見せてくる。危険だ。非常に危険だ。
「流石にゼロじゃないぞ。思春期の男を舐めないほうが良いぞ。理性があるうちにそういうことは辞めてもらいたいんだが。もう半分くらい吹っ飛んでるから」
「道彦さん、えっちなんですね」
「こんなことしてる涼子ちゃんに言われたくないわっ」
「でも先輩。正直なところは嬉しんですよね?」
嬉しいに決まってる。多分全人類男子から反感を買っていることだろう。楓が知ったら顔面を蹴り飛ばしてくるだろう。
「はぁ。もう諦めたよ。今はもう、何事も起きずに無事にこの状況が終わるのを待つとするよ」
「そう?それじゃそっちに行ってもいい?」
「いや、まて」
待てって言ってるのに安西と七海ちゃんがこっちにやってくる。
「あの。近すぎやしませんか?」
「そう?こっちだって勇気出してるんだから、諦めなさいよ」
ジリジリ寄ってくる。俺は膝を立てて、左手でタオルを押さえる。ってか、湯船にタオルって持って入っちゃいけないんだぞ。
「涼子先輩はそこで良いんですか?」
「私はその……こっちで!」
なるほど千石さんは半被害者ってところか。
「それにしても露天風呂って気持ちいいですね。先輩」
それは本当だ、気持ちいい。別な意味でも気持ちいいけど、危険な気持ちよさだ。
「そうだ先輩。ちょっと万歳してくださいよ」
「変なことしないな?くすぐったりとか」
「そんなことしないってば。ただの腋フェチです」
「余計に不純だわ」
まぁ、ここまできたら万歳などどうということではない。言うことを聞かずに更にハードなことを要求されるよりはマシだ。
「これでいいのか」
万歳をした。なんだかこの状況に感極まってバンザイしているようではないか。それが狙いか。仕方ないな付き合ってやろう。なんて思っていたら、急に安西と七海ちゃんが近寄ってきた。
「先輩。そのまま腕を横に開いて下ろしてください」
イカンでしょ。このまま腕を下ろしたら二人の肩を抱くことになるよ?どこの石油王だよ。
「早くしてくださいよ。こっちだって結構恥ずかしいんですから。一瞬で良いんですって。してくれないと密着しますよ」
そっちのほうがやってみたいけど、理性を保つ自信がない。
「これでいいのか、これで」
七海ちゃんと安西の自分と反対側の肩をほんの少し触れるような格好で腕をは寸止め状態。
「この意気地なし」
安西に手を引っ張られた。両手を浮かしている都合、思いっきり引っ張られる格好になって、反対側の手は七海ちゃんの頭を反射的に掴まってしまった。そして出来上がったのが安西を押し倒す俺と、それに覆いかぶさる七海ちゃん。湯船に浮かび上がるタオル2枚。タオルの感触ではない柔らかい感触が左半身を覆う。顔の右半分は安西の胸に収納されている。
「ちょっ!先輩!?何するんですか!」
両手で胸を押さえて顎まで湯船に浸かる七海ちゃん。起き上がろうとした俺の左手はとてつもなく柔らかいものを掴んでしまって、今度は安西が大混乱。流れていったタオルを手に取る千石。もうなにがなんだか。つまるところ、真っ裸の俺と七海ちゃん。多分胸丸出しの安西。その一部始終を見ていた千石、って感じだろうか。
「はぁ……こうなるから俺は……」
「先輩、こうなることが分かっていたんですか?ほんとエッチですね」
「いや、もとはと言えば七海ちゃんが!」
事の発端は万歳事件からだ。それにこの家族風呂を用意したのも七海ちゃんに違いない。
「ああもう!のぼせちゃいますから私達は上がって身体を洗います!先輩は向こうに行ってあっち向いててください!絶対に振り向かないでくださいよ!」
「へいへい」
湯船をしゃがんだまま移動して端っこまで行って洗い場と反対方向を向く。それにしてもこれ、どうするんだ。人生最大に元気になっているそれを眺めてどうしたものかと考える。しかし、さっきのことが刺激的すぎて収まりそうにない。
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