第38話 採寸

「で。何すればいいの?」


「まずは、各クラス/部活/団体からの出し物計画表を回収、それが開催可能な内容か確認、場所の割り振りと舞台の時間割の作成、最後に前夜祭の準備かしらね」


「前夜祭って学祭実行委員の出し物、みたいなものになるのか?」


「そうね」


それからは放課後に西京女学院の生徒会室に集まって回収してきた出し物計画表の確認を行うところからスタートした。


「へぇ、女子校でもメイド喫茶ってあるのか」


「あるけど、男装するから執事喫茶みたいな感じが多いわよ」


女の子同士が……とか考えるとちょっとエロさを感じたけども、そういうのを見せたらつまみ出される気がする。ちなみに毎年の一番人気は占いらしい。生徒会、涼子ちゃんのクラスが今年は占いの館をやることになったとのことだ。一応、同じ出し物がかぶらないように抽選にしている。


「この身体測定ってなんだ?」


「そのままよ。身体測定するの。その出し物、コスプレ撮影の出し物でしょ?衣装が入るか確認するのに身体測定するのよ。あ、なにか変な想像した?」


しました。すっごく変な想像をしました。すみません。まぁ、その他はうちの学校と殆ど変わらない出し物が多かった。食べ物系、研究/活動報告系/舞台での出し物系……。


「しかし、なんで俺がそのコスプレのところのお手伝いなんだ?焼きそばとかそういうののほうが重たいもの多いんじゃないのか?」


「ああ、その辺は業者さんがやってくれるのよ。コスプレ撮影は撮影道具とか衣装とか自分たちで運ぶから。それが重たいの」


「なるほどね。ちなみにそこは俺だけ?」


「そうね。人数的にそうなるわね」


なるほど、コレは試練だ。クラスまるごと女の子。50人近い女の子の中で自分だけ男。なんという試練か。

諸々の割り振りが完了してからは各出し物ごとに準備に入るわけだけど……。


「縫っているな」


「そうなんです。この出し物、家庭科部と合同の出し物なんです。代々作った衣装もあるのですが、こうやって新作を毎年作るんです。そして今年の、目玉はコレです!」


見せられたのは中世の貴族が着るようなものと、マントを着た和服のようなもの。聞けば明治時代の服装らしい。


「なんか男子向けのような気がするんだけど?」


「そうです!今年はなんと言っても桐生さんがいますので!」


「え?俺も参加するの?」


「はい。そうです。実行委員の方も参加するんですよ?聞いてませんか?」


何も聞いてませんね。されはこれ、涼子ちゃんが仕組んだやつだな?


「というわけで、早速採寸するので、上着、脱いでもらっていいですか?」


おっと?そうなるの?まさか下も脱いで欲しいとかならないよね?ね?自信ないよ?平常サイズでいられる自信がさ。ってか制服でもやばいよ??


「えっと。今日のシャツ、ちょっとボロいのを来てきちゃったから、明日でもいいかな?流石に恥ずかしいというか……。


「そうですか。分かりました。それでは明日、お願いしますね」


なんとか先延ばしにしたけど。どうするかなぁ。マジで自信ないぞ。きゃーっ!変態!!とかならないだろうか。冷静にまじまじ見られるのもアレだし。こういうことは七海ちゃんに相談が良さそうだ。無駄に知識が多い気がする。


桐生『七海ちゃん、チョット相談なんだけどさ。明日衣装の採寸があってさ。その、例のところがね?大きくなるというかなんというかね?』


七海『先輩のえっち』


桐生『いや、相談できる男の友人がね!?』


七海『私が採寸しますか?』


余計にやばい気がする。


桐生『えっと、それはもう少しお近づきになってからが……』


七海『そのクラスの女の子とはお近づきになられたんですか。そうですか』


桐生『いや、そういうわけじゃ……』


七海『冗談です。そんなのキツめのアンダーパンツ履けばいいじゃないですか。水着の下とかに履くやつ。で、パンツもきつめのボクサーパンツ履くとか。先輩の大きさ知りませんからそれでどうにかなるのか分かりませんけど』


おお、なんという為になるアドバイスか!


桐生『七海ちゃん、ありがとう!』


七海『お礼、待ってますね』


とりあえず助かった。その方法ならなんとかなりそうだ。

翌日はできるだけ綺麗なシャツと対策済みの下着を装備してコスプレ撮影の準備をしている教室へ向かった。自分だけちょっと遅くなったので、守衛さんに仮入校証を見せて入る時、他の生徒から奇異の目で見られたのがなんとなくご褒美になったのは秘密だ。


「それじゃ桐生さん、上着、いいですか?あと、下なんですど、制服だと図りにくいので、用意した短パンに履き替えてもらってもいいでしょうか?


キターーーーッ!!対策しておいて良かった。陸上で着るようなやつだ。無対策だったら終わってやつだ。トイレで着替えて教室に戻ると女の子がキャッキャしている。これは刺激の強すぎるご褒美だな……

そして採寸が始まったのだが……。最大の試練、股下。自分の股間の前に……!こらえろ!こらえろ俺!そうだ、別のことを考えるんだ!えーっと。あの悪魔のような詩乃ちゃんの……あっあっあっ!あのムリヤリされたキスを思い出してしまった!あああぅ!!!


「ふあっ!?」


そんなことを考えて股間に集中していたら、後ろからバストを計られて思わず変な声が出てしまった。


「ふふ、感じちゃいました?駄目ですよ?」


後ろから小声で言われて更にやばい!ああああーーーッッ!!


「ハァハァハァハァ……これで終わり、でいいんだよね?」


「はい。お疲れ様です」


去り際に股下を図ってくれた女の子に「ちょっと大きくなられてましたよ?仕方ないと思いますけど」なんて言われて更にヤバイことになったのは、墓まで持っていきたいと思った。

今日の作業が終わって生徒会室に戻ると涼子ちゃんがニヤニヤしていて「やっぱりお前の仕業かぁ!」なんて思ったけども、内心はウフフだったので攻める気は無かったけど。


「でもいいんですか?こんなことしてライバルが増えたらどうするんですか?」


いつものケーキ屋で稲嶺さんはシュークリームを食べながら涼子ちゃんに言っていたが「生徒会長のお気に入りに手を出す人はいませんよ」とか笹森さんが自信たっぷりに答えていたので気になったわけで。


「なんで涼子ちゃんのお気に入りはそんなことになるの?」


「だって、執念深いで有名ですもの」


「あー……」


心当たりがありすぎる。最初の恥じらいみたいなのはどこに行ったとばかりの最近の言動。安西といい、七海ちゃんといい、涼子ちゃんといい、アタックが激しい。一度この3人と一緒に出掛けたら、という興味すら湧くくらいだ。


「ねぇ、桐生くん、じゃなくて道彦」


「桐生くんでいいぞ」


「やだ」


「でんなんだ?」


「詩乃ちゃんのこと、そんなに引きずってるの?」


「まぁ。あ、でも安西とかがそういうのじゃないってのは分かってるぞ」


「あかね」


名前の呼び方のこだわるなぁ。女の子ってそういうものなのか?


「あかねたちがそういうのじゃないってのは分かってるぞ」


「当然でしょ。一緒にしないでよね。それはそうと、いっぺんに3人から好きになられるのってどんな感じ?」


「そうだなぁ。率直な感想は"なんで俺が"かな。こんなこと初めてだし、正直、どうしていいの分からない」


ってか、芸能人でもあるまいし、こんなことを経験している人って一般人でいるのか?いるなら相談してみたいものだ。


「まさか、誰も傷つけずに、とか考えたりしてないよね?」


「ちょっとは考えたけど、楓にも同じこと言われた」


「ならいいんだけど。その考えは絶対に良くないと思うから。選んだ人に失礼よ」


「そうだな」


「で。道彦は今の所、誰が一番気になっているの?」


「核心をついてくるな」


「だって気になるじゃない」


誰が一番気になるか、なぁ。あかねは最初の件があるし、七海は今まで一番近いような気がしてたし、涼子ちゃんも例の一件以降、すごいし。誰が一番気になってるのかなぁ。


「よく分からんから、全員と遊びに行ってみるか」


「全員同時にデートってこと?」


「あ」


「あってなに?」


つい心の声が漏れてしまった。そんなことをしたら、「それで誰なの?」とか聞かれるに決まっている。


「あ、いや。そうすればなにかわかるのかなぁって」


「そうね……私は良いけど。七海ちゃんと涼子ちゃんに聞いてみないとね」


「それじゃ、安西に頼んでもいいか?」


「あかね」


「ああ、すまん」


「ダメ。道彦からにして。じゃないと私、一人で行くわよ」


なるほど、そうくるか。仕方ないな。もうどうにでもなれ、だな。一応、楓にも相談してみるか。怒られると思うけど。

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