第37話 生徒交流
「なんか私は魅力がないのか?とか聞いてましたよ」
「楓ちゃん、いい情報をありがとう。それでどうする?」
「私は楓ちゃんに釘を刺してもらうのがいいと思う」
「どんな感じで?」
「そうですね……。実力行使しましょう」
「それ、楓ちゃん関係なくない?」
「いえ、楓ちゃんが入って気がそっちに向いているうちに、向こうから」
なるほど……一同が頷いている。
「それじゃ、私はこのあと10分後にまた部屋に入リますので」
一同が時計を見る。その後にスマホでタイマーを設定する。時計の意味がない。そんなことを思いながら稲嶺もそれに付き合う。
「おにーちゃん。ちょっといい?」
楓に廊下に呼ばれた。涼子ちゃんに軽く会釈をして、廊下に出る。
「なんだよ」
「一応、可愛い妹からの忠告。このあと、ベランダは絶対に見ないこと。いいわね。あと、このあとはなにがあっても涼子ちゃんの隣りに座ったり触ったりしないこと」
「いや、しないからそんなこと」
「とりあえず忠告はしたからね」
部屋に戻りながら「なんなんだアイツ……」とつぶやきながら席に戻ると、涼子ちゃんが、自分の席の隣に教科書を移動させて座っていた。
楓の忠告に従うなら、反対側に座るべきだが。折角こっちに来てくれたのを反対側に座り直すのは涼子ちゃんに対して……うーん……。
「どうしたの?涼子ちゃん」
「えっと。ちょっとわからないところがあって。向かい合ってだと、やりにくいからこっちで、と思って。迷惑?」
迷惑です、とはとても言えないし、向こうに座って、とも言えない。なんでこう、女の子は男の退路を絶つのがのが上手いのか。楓の忠告はあったが、流れ的にコレは仕方がない。
「ベランダを見るな……か」
「え?なんかいいましたか?」
「え?や、なんでもない」
本当はちゃんと聞こえていた涼子は意識をベランダ側に集中した。
「おにーちゃん、これ。足が痛くなってきた頃でしょ」
楓が今度持ってきたのはクッション。確かに床に座りっぱしで、ちょっと痛くなってきたところだ。楓にしてはなかなか……
「あー……」
思わず声が出てしまった。クッションを持ってベランダを見ると手鏡が仕切り越しに見えた。涼子ちゃんに目配せをすると涼子ちゃんも気がついたようで軽くため息をついている。
「桐生くん、安西さんのお家って2軒となりですよね?」
「そう。でも今隣の家、誰も入ってないんだ。だから多分防火扉開けてこっちに来てるんだと思う。ってか、あっちに集まって何してるんだ」
「なるほど。そういうことなら」
「あ!ちょっ!」
仕方なくクッションを涼子ちゃんに手渡して、俺も隣において座った途端に、涼子ちゃんが俺の肩越しこっちに引っ付いてきた。
「消しゴムがそっちに置いてあって」
いやいや、言ってくれれば取るから。ってか、首筋になんか柔らかいものが!そのあと、座った場所がまた、俺よりの位置で肩が完全に密着している。
「涼子ちゃん?ちょっとひっつきすぎというか、その……ね?」
「いいじゃないですか。二人きりですし。さっき楓ちゃん、来たばかりですし少しは時間あるでしょうし」
「いや、ベランダの鏡……」
てへぺろ、じゃないって!ホント、女の子って手段を選ばないというかなんというか。嬉しいんだけどさ。でも今の状況だとさ。これ以上エスカレートされるとさ。俺も男だし?あー……、向こうは大騒ぎしてるんだろうなぁ。
「笹森さん、千石さんってあんなに積極的な性格だったっけ?」
「私も初めてみました。ちょっとびっくりしてます」
「恋は女を変えるとかそういうのじゃないの?私は未経験だから知らないけど」
一番の傍観者、稲嶺の言うことに一同、納得の顔をしているが、その後すぐに安西と七海ちゃんがそわそわし始めたのは言うまでもない。
「それじゃ、今日はありがとう」
「どういたしまして」
涼子ちゃんが帰った後に楓を呼び出して絞り上げる。
「お前が密偵か」
「だって、こんなにおもしろいイベント、逃がすなんてもったいないじゃない?でも最後はおにーちゃんにも情報提供したじゃない」
「いや、それが致命的だったんだって。わざとだろ」
「べーつにぃー?」
くっそ。コイツの彼氏はさぞ大変なことだろう。
桐生くんの家を出た私は当然のように安西さんに玄関まで拉致されまして。
「千石さん、さっきのアレはどういうことなのか説明、してもらえますよね?」
七海が詰め寄る。
「だって、みなさんもしておられるんでしょ?これで公平です」
「あんたたちねぇ。桐生くんが色仕掛けで落ちると思ってるの?」
傍観者の稲嶺が呆れ顔で3人のチャレンジャーを見回しながら首を横にふる。
「何もしないよりは、ねぇ」
安西が七海に同意を求める」
「ですよねぇ」
「もう面倒くさいから日替わりで彼女にしてもらいなさいよ、あなた達……」
千石の味方のはずの笹森までそんなことをいい始めた。
「それはだめ」
「それはいや」
「絶対にない」
三者三様。嫌らしい。これはもう、頑張って、としか言いようがないかな。桐生くんも大変ね……。
所変わって桐生たちは職員室に呼ばれていた。
「例の学園祭実行委員についてなんだがな。あれ、西京女学院のほうだからよろしくな」
「は?」
「あ、桐生だけ男なのは力仕事全般の手伝いだ。向こうの文化祭、えーっと木槿祭むくげさいは9月末だな。まぁ、1ヶ月あるから大丈夫だろ」
意味がわからない。西京女学院の手伝い?いや、確かに近いけど。理由を聞くと、生徒交流の一環で、まずは少人数から、ということらしい。それで生徒会長の推薦で女子比率が高く少人数だからという理由でスイーツ研究会がやり玉に挙がったということらしい。涼子ちゃん、用意周到すぎるでしょ。
「というわけで。1ヶ月という短い期間ですが、よろしくお願いいたします」
その日の放課後に西京女学院に出向いて、向こうの学祭実行委員と挨拶。
「わー。女の子ばっかりだー。うれしーなー」
「先輩、なんでそんな魂が抜けているんですか?ハーレムですよ。本物の。数百人の女子に囲まれているんですよ?」
それはそうなんだが、いつものメンバーが勢揃いで、しかも場所は完全アウェーの西京女学院。この前のことといい、涼子ちゃんが何をしてくるのかと考えると若干気が重い。それに対抗して安西と七海ちゃんもなにかしてくるだろうし。贅沢な悩みなのは分かっているけど、もうちょっと平和に考えさて欲しい。
一通りの挨拶が終わった後にやっぱり、自分だけが男なので、珍獣でも見たかのような視線を感じる。そんなに珍しいのだろうか。通学路ではうちの生徒とも会うだろうに。
「あの!桐生さんですよね!?」
「はい」
「ちょっと小耳に挟んだんですけど、生徒会と今日来られた皆さん、全員から愛の告白を受けてるって本当ですか?」
何だこれは。どこ情報だ。ちょっと語弊があるけども概ね合ってる。こういうことをするのは七海ちゃんの可能性大。早速確認する。
桐生『怒らないから正直に答えなさい』
七海『なんですか?』
桐生『西京女学院に今の状況を話したのは七海ちゃん?』
七海『いえ、流石に違いますけど。何かあったんですか?』
桐生『俺の今の状況が西京女学院で噂になってる』
七海『モテモテ情報がですか?』
桐生『まぁ、ソレだ』
七海『モテモテ、認めるんですね。さっさと私を選べば噂は消えますよ?』
桐生『そーだな。頑張れよ』
どうやら違うらしい。未来ちゃんは知ってるかな。
桐生『未来ちゃん、ちょっといい?』
未来『噂についてですか?あれ、詩乃ですよ』
あっさりと犯人が判明した。恐らくは楽しんでいるのだろう。心底悪魔のような女だ。引っかからなくて良かったよ……。
未来『で、今私が噂を修正してます。全員じゃなくて、会長と安西さんと七海ちゃんだけだって』
桐生『え?』
未来『だって、私を含めた生徒会は会長以外はそんなことないですし。稲嶺さんも迷惑でしょうし』
未来ちゃん、意外とドライなのね。まぁ、否定してもどうせバレるというかなんというかだし。それにしてもそんな状況の人間を交換交流の生徒にしてもいいのか。
「それで?生徒会長、学園祭実行委員長も生徒会長が兼任って聞いたんだけど、それでいいの?珍しいと思うけど。うちの学校は別だし」
「まぁ、生徒会ってそんなに仕事がないから。そういう事になってるみたいね。初めての共同作業ですし、がんばりましょう」
なんか言い方がアレだが、まぁ、その通りだし頑張りましょう。
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