第33話 プールの会話
「千石先輩。どうです?桐生先輩」
「え?」
「だって、千石先輩、桐生先輩が気になるんですよね?」
「わかる?」
「分かりますよ」
「そっか。わかりやすいのかな私。それじゃ、桐生くんにもバレちゃってるのかな」
「どうでしょうかねー。先輩、ちょっと鈍いですから」
「アイス買ってきたぞ」
俺は未来ちゃんとウォータースライダーを楽しんだ後にアイスを買って戻ってきた。未来ちゃんからは千石さんのことをどう思っているのか、とか、仮に付き合って欲しいって言われたらどうするのか、とか推し計るような感じの質問をたくさんされた。ウォータースライダーを滑る直前までそんなことを言っていたので、語尾が悲鳴に変わったのは少し笑ってしまった。
そうだなぁ。俺はどうするのかなぁ。
「で?俺はなんでお前にこんなところに連れて来られたんだ?」
岩の塔みたいなところに連れてこられている。
「これ、2名一組じゃないと乗れないんですよ」
「で、なんで俺なの」
「先輩のぉ。悲鳴が聞きたいから!」
「お。自信あるじゃん。逆に悲鳴を上げても知らんぞ」
真っ逆さま落ちるのと、ぐるぐる回るほうがあったが、2名乗車は真っ逆さまの方らしい。順番がやってきたのでどちらが前に乗るのかって思っていたら、当然のように俺が前にされた。
「おお~。これは病みつきなるな!もう一回やるか!?」
「先輩!先輩ってば!!」
「ん?なんだ?怖かったのか?」
「そうじゃなくて。聞こえなかったんですか?」
「聞こえたぞ。先輩大好き~ってやつだろ」
「聞こえてたんじゃないですか!」
「アレだろ。この前も言っていた"先輩として好き"ってやつだろ?」
「う~~~っ!そんなんなら"大"なんてつけませんよ!この鈍感先輩!」
おっと。冗談で聞き流そうと思っていたんだが、これは本気のようだ。ちゃんと対応しないといけないやつだな。
「七海」
「はい?」
「ん?」
「呼び捨てにされた」
「ああスマン。七海ちゃん」
「七海のほうがいいです」
「じゃあ、七海」
「はい」
「さっきのやつな、ちゃんと聞こえていたし、そういう内容だってのも分かってた」
「うん」
俺は頭を掻く。七海は嫌いじゃない。むしろ今までの付き合いで一番長い時間を過ごしているような気もするし、性格も嫌いじゃない。でも最近まで。とういうより数日前まで詩乃と付き合っていたというのに、すぐに乗り換えるのはどうなのかって思うんだ。
「あのさ。俺、つい先日まで詩乃と付き合っていただろ?それですぐに他の女の子と付き合うっていうのは、なんかさ」
「分かってますよ。でも私、千石先輩に先輩を取られたくないんです。千石先輩、今日はそのつもりで来ていると思うんです。洋服とか全部買い揃えたり。だから、先制攻撃です。なにも今すぐに彼女にしてください、ってわけじゃないですよ。単純に宣言しただけです」
そういうことか。意思表示、宣言ね。しかしそれならなんであの"先輩として好きです"なんてはぐらかしたのか。
「なんであのかき氷の時に言わなかったんだ?」
「先輩。私も女の子ですから。恥ずかしいんですよ。さっきは勢いで言ったんですよ!でも、先輩が気がついてないのかなって思ったら不安で……」
「すまんな。不安にさせたのか。そんなことはないぞ。伝わった。でも、そういうわけだからちょっと考えさせてくれ」
「分かりました。それじゃ!次はアレ、やりましょう!」
結局、巨大なプールは一日では遊びきれなかった。体力的に。特に未来ちゃんが限界だったので、早めに撤収。混雑するし。
七王子の駅に戻ってきてチョット早めの夕食。プールの後は腹が減る。大盛りご飯に大きめのステーキを頼んだ。俺は肉が食いたかったのだ。一応ファミレスなので、女の子が食べられるようなメニューもたくさんある。と言ってもステーキモストなんて店だから肉だらけだけど。
「今日のところはすごかったな。また来たいものだ」
正直な感想。食べ終わったあと、デザートまで頼んでしまったが、その時に示しを併せたように七海と未来ちゃんがお手洗いに行った。チャンスはここだぞ、とで言いたいのか。
「千石さん、今日はなにか言いたいことでもあった?ずっとそんな感じだったから」
「え?っと……その……。あの!詩乃とは別れたんですよ、ね?」
「そうだね。なんかお互い合わなくて」
千石さんは真実を知らないほうがいいだろう。
「それなら、その。今はフリー、なんですよね?」
「そうなるな」
俺の方から「俺のことが好きなの?」とか聞くのは恥ずかしいし、何だコイツ、ってなるし。
「あの。もしよかったら二人でどこかに出かける約束、もらえませんか」
「いいよ」
出かける約束を断るような悪い感じはしない。告白されたら、ちょっとまってくれ、だったと思うけど。詩乃の件でその辺は身にしみている。って、あいつら、あんなところから覗いてやがる。軽く睨むと何食わぬ顔で戻ってきた。
未来『今日は有難うございました』
桐生『いや。こちらこそ、楽しかったし、目の保養になったよ』
七海『これだから男って』
千石『桐生くんもそういうの好きなんですね』
桐生『そりゃ男ですから』
家に帰った後もグループトークで盛り上がった。個別で七海に『千石先輩からお誘い、あったんですか?』って聞かれたので『二人で出掛けたいって言われた』と返信しておいた。私も!とか言われるかと思ったんだが、『そうですか』で終わった。
まぁ、そんなわけでプールの帰りに千石さんと2人で遊びに行く約束をしたわけだけど。どこに行けばいいのかさっぱりだ。買い物とか正直自分が行き飽きたし。千石さんの趣味とか聞いておけばよかったな。こんな時はまずは……。
「なぁ、楓」
「こんどはなんなのよ。私はお兄ちゃんの恋の相談室じゃないのよ。いい加減うんざりしてきたわ」
「まぁ、そう言わずにさ。話したことがある程度で、物静かな性格の相手と出かけるとしたらどこがいいかな」
「図書館でも行けば?学生らしく勉強でもしていればいいんじゃないの。いつも夏休みの宿題を最後までやってなくて大騒ぎするんでしょ?いい機会じゃない」
「おお……。なんという実用的な回答だ。今度お菓子買ってくるよ。さんきゅ」
「どういたしまして。それにしても、なんなの?その人、この前の人とは別の人でしょ?なにやってるの?ほんとうに。そのうち刺されるわよ?」
「そういうことはしてないから大丈夫だよ。多分」
「なんでもいいけど、私を巻き込まないでよ」
今回の妹相談室はなかなかいい感じの回答を得ることが出来た。一緒に勉強ってもの二人で出かける、だよな。なんか味気ないけども。とりあえず本人にそういうのはどうか?って聞いてみよう。
桐生『夏休みの宿題ってどのへんまで終わってるの?』
千石『まだ半分も終わってない』
桐生『そうか。それなら、この前の二人で出かけるってやつ、一緒に宿題をするってのはどうだ?』
千石『今週の土曜日、ならいいですよ』
桐生『OK。待ち合わせ場所はどこにする?』
千石『柳森図書館に10:00でいかがでしょう』
桐生『OK』
今日は木曜日。中一日空いてって感じか。宿題は千石さんと一緒にやればいいから、待望のゴロゴロタイムを楽しもうかな。なんだかんだ言って今年の夏休みはかつて無いほどにアクティビティに溢れたものになったからな。
「おにーちゃん、おにーちゃんってば!いい加減に起きてよ!遊びに行くから!鍵、よろしくね!」
楓のけたたましい声で起こされた。遊びに行くなら勝手に行けばいいのに。なんで俺を起こす必要があるんだ。時計を見るとまだ7:00、もうちょっと寝かせてくれよ。それにこんな時間から遊びに行くってどこに行くんだよ。まぁ、起こされたし起きて朝飯食って部屋でゴロゴロするか……
大あくびをしてリビングに行くと、嫌に豪華な朝ごはんが置いてあった。
「なんだ?」
机の上には「冷蔵庫にも入ってるからレンジて温めて食べなさい」とか書いてあるし。
「19:00。ほう」
キッチンカウンターの上に置いてあるデジタル時計にはそう出ている。そうか。そういうことか。夜の7時まで寝ていた、ということか。疲れていたからな。ってことはこれは晩ごはん、なるほど。ま、ゴロゴロする計画は達成しているし、いっか。
「っと、スマホスマホ」
部屋にスマホを取りに帰るとランプが点滅している。画面を見るとメッセージと着信が山のような件数。差出人は笹森さん。
「なんだ?」
稲嶺『桐生くん!早く佐々木総合病院に来て!お願い』
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