第32話 4人の会話

未来『あのあと、どうしましたか?』


楓が出ていった後に未来ちゃんからメッセージが来た。


桐生『きっちり別れてきた。カマをかけたら白状した』


未来『そうですか。なんかごめんなさい』


桐生『なんで未来ちゃんが謝るのさ』


未来『だって私、詩乃がどういう人かって知ってて見て見ぬふりをしていましたし』


桐生『いいんだよそれで。それに、さっき見せてくれたメッセージで覚悟ができたし。お礼をいうのは俺の方だよ』


未来『そうですか。よかったです。で、連絡したのはそれだけじゃなくて。実は桐生先輩と別れたって詩乃が千石先輩に相談したらしいんです』


なんという。詩乃ちゃん、本当にすごいな。私のお古で良ければどうぞ、ってやつか。


桐生『それで?』


未来『千石先輩から連絡があって。どうしたらいいかな?って』


次から次にトラブルが……。もっと普通にモテたいんだけど。一人でいいんだけど。なんて贅沢な悩みか。


桐生『分かった。会うよ。もしよかったらっ未来ちゃんも同席してくれない?』


未来『私もですか!?』


桐生『乗りかかった船だろ』


なんて未来ちゃんも無理やり誘って千石さんと会うことに。場所は和菓子屋。事前に七海ちゃんに連絡したら、ここはお悩み相談室じゃないとか言われたけど、なんだかんだで面白そうとか言っていたし、まぁ、いいだろう。


「ええと。千石先輩が桐生先輩に用事があるということなので、私が取り持ってこの場を設けさせていただきました」


未来ちゃん、ちょっと楽しんでるでしょ。あと、そっち!七海ちゃんは仕事して!


「それで、用事って?」


「あ、その……」


「桐生先輩、詩乃ちゃんとは別れましたよ。それで、ご注文はお決まりでしょうか?」


こいつ……。


「夏のおすすめを3つ!」


「はい。ご注文を繰り返します。夏のおすすめを3つ、以上でよろしいでしょうか」


「いいから早く仕事に戻れよ。にひ、じゃねぇよ」


七海ちゃん、ホントあれは性格なんだろうな。


「さっきの話、本当なんですか?」


「ああ、詩乃ちゃんと別れたって話?本当だよ。ちょっと色々あってさ。合わないかなって」


「そうなんですか」


なんだこの沈黙は。言いたいことは分かっているつもりだから、俺の方から言う?でもなんで?俺が千石さんを好きならまだしも、今は友達でしょ。それこそ、俺が誰でもいいやつになっちゃうでしょ。


「七海ちゃん、七海ちゃん」


「はい?追加のご注文ですか?」


そう言って七海ちゃんがこっちにやってきた。


「千石先輩。この4人で遊びに行きましょうよ。そのほうが相談ってしやすいと思いますよ!七海ちゃん、いいよね?」


七海ちゃんはお盆で口を隠して頷いている。多分ニヤニヤしてるんだろうなコイツ。


「それで、どこに行こうか。千石さん。行きたいところとかある?」


これで買い物とか言われたらどうするか、なんて思っていたら七海ちゃんから「プール」という案が出された。なんという魅惑的な言葉。


「千石さん、未来ちゃん、プールなんて大丈夫?」


「えと……」


「千石先輩、行きましょうよ」


未来ちゃんが引っ張る。ディズニーシーで見せた弱い感じの女の子というより、七海ちゃんに近い感じだ。未来ちゃんも楽しみたい派なのかな。結局、七海ちゃん提案のプールに行くことになったのだが、近くだと、誰かに会いそうということでちょっと離れたところに行くことにした。最寄り駅からバスで35分かかるけど、東京近郊で一番おもしろいと噂のところだ。俺も行ったことがない。


七海『先輩はどんな水着がお好みなんですか?やっぱりビキニですか?』


桐生『何だいきなり』


未来『あー、それ私も気になります。去年までのやつが着れなくなったので』


七海『ほー。発育がよろしいようで羨ましいですわ。ですって先輩』


そういうのはグループトークでやるなよ。


未来『千石先輩はどういう感じので行くんですか?』


千石『秘密です』


七海『ですって先輩。期待していいんじゃないでしょうか』


七海は千石会長までいじるようになったのか。俺は可愛いのが好みだよ、とだけ答えて、当日の待ち合わせ時間とかを決めて終わらせた。


「女の子ってほんっと、ああいうのが好きだよなぁ」


「ああいうのってなによ」


「楓は友達とプールに行く時、どんな水着にするとかって友達同士で盛り上がるのか?」


「あー。うん。結構盛り上がる。去年のが使えないとか言い始めると裏切り者!みたいな。あ!今見たでしょ!」


「なにをだ」


「この!」


理不尽に蹴られた。どうやら去年のやつが使えるようだ。


当日は学校の最寄り駅ではなく、目的地に一番近い駅、七王子に集合した。わざわざ何号車に乗るとか事前に話してバラバラに。待ち合わせ時間がみんな一緒なんだから、乗る電車も一緒になるし。考えたやつ誰だよ。


「なんか、私達の駅よりも都会だね……」


「ああ。駅前に家電量販店まであるし。バス停はどこだ?たくさんあって分からんぞ」


バスターミナルで迷っていたら、それっぽい道具を持った一団を見つけたので、後に続いたら、目的のバス停にたどり着いた。


「結構行く人、多いんだな」


「そうですね。調べたら人気のプールみたいですね」


七海ちゃんと未来ちゃんは楽しそうにしている。千石さんはちょっと緊張気味。事情を知っている俺はどうしたものか、となっている。あの二人と一緒にはしゃいだら千石さんは一人になっちゃうし、一緒にってのはテンションが違いすぎる。


「千石さん、こういう大きなプールって初めて?」


「え?はい。初めてです。学校のプールとか、市民プールみたいなところだけで」


「そっか。俺もデカイところって、はしまえんとかしかないなぁ。でも、あそこ、混雑しすぎてて芋洗い状態になるんだよね」


「芋洗ですか?」


「ほら」


Webでプールの写真を見せると「すごいですね」となんとか会話を続けることが出来た。他には……。あ、そうだ。以前、楓に洋服についてとか言われたな。


「千石さん、その服ってよく着るの?」


何を聞いているのか。「うん」「なんで」「似合わない?」帰ってくる可能性のある返事への対策がなにも出てこない!


「そんなこと無いんだけど……、というより、昨日買ってきたから」


これは想定外!しかし、語尾には「似合わない?」という言葉が隠れているに違いない!それを汲み取った返事をするのだ!


「似合ってるよ。俺には選べないセンスだ」


だぁー!何だこの返事は。まるで変なセンスって聞こえたかも知れない!


「あ、いや、とても似合っているなって」


フォローフォロー。


「ありがとう。ちょっと大人っぽいかなって思ったんだけど、買ってみて良かった」


七部丈のパンツにサンダル、同じく七分丈のシャツで袖先が折り返されたデザイン、デコルテが丸見えの胸元が眩しい。持っている麦を編んだカバンも新しそうなので、併せて買ったに違いない。


「わー、先輩、その服似合ってますぅ~。おとなっぽーい」


七海ちゃんが会話に混ざってきた。七海ちゃんはショーパンツにアウトドアブランドのスニーカーにTシャツ。長い髪の毛はまとめてベースボールキャップを被っている。例の伊達眼鏡もつけている。未来ちゃんもちょっと大人っぽい。白いロングスカートに黒のタンクトップに薄手のカーディガンを着ている。意外と胸があって容姿とギャップが大きい。

楓の言う通り、ファッションの話は女の子は好むらしくて、話の種にはもってこいだった。ジーンズにTシャツというなんの特徴もない俺はどうしたらいいのか。ここで、このジーンズは安西に買って貰ったもので、って話始めるのは場の空気を読まない人なんだろうな。


「それじゃ、着替えたら、ここで待ち合わせってことで」


待ち合わせ場所を決めて更衣室へ。当然男が一番早くて、待ち合わせ場所には一番乗り。続いて七海ちゃんがやってきた。


「早いな」


「下に着てきたんですよ。だから脱いでおしまい。豪快に脱いだら未来ちゃんがびっくりしてました」


「わざとやっただろ」


「分かります?」


もう七海ちゃんの性格はわかったつもりだ。


「それで、今日は先輩、千石先輩のこと、どうするんですか?」


「うーん。まずはどういう人なのか知りたいかな。友達として。ディズニーシー以来、ちゃんと話していないし」


「そうですね。それがいいと思います。向こうもこんな人とは思いませんでした!ってならないためにも」


いたずら笑顔満点でそんなことを言ってくるけど、その通りだと思ったので、「そうだな」と真面目に返事をしたら退屈そうな顔を返された。


「お待たせしました」


千石さんと未来ちゃんは二人同時に出てきた。千石さんはオフショルダービキニ、未来ちゃんはハイネックビキニ。七海ちゃんはよく見る感じのビキニ。パレオとかつけないのかコイツは。


「先輩。何か一言あってもいいんじゃないですか」


「お約束のやつだな?」


「そうです。似合ってるに決まってるんですから、似合ってるぅ、は無しです」


なんだって。うーん……、あそうだな。素直な感想を言えばいいのか。


「これは、アレだな。みんな好き。最高。ビキニ万歳」


「ええ……」


なんで本心を言ったらドン引きするんだよ。ほら、千石さんも困らない!


「あ、いや、でも似合ってるよみんな。なんというか、なるほどな、って感じ」


性格をそのまま水着にしたような。そんな感じだ。

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