第22話 テーマパーク

「なぁ、安西。これ、逆方面じゃないか?」


「ん?なんで?」


「だってディズニーランドに行くんだろ?方向あっちだって」


「ディズニーシーに行くのに?」


ナンダッテ。聞いてないぞ。ディズニーランドって言っていたじゃん。俺が調べたものは全部無意味!?


「わぁ、すごい人。入場するだけで時間かかりそう」


俺はそれどころじゃなくて。必死にアトラクションの場所とかファストパスについてとか、リアルタイム混雑時間の分かるサイトの確認とか。


「桐生先輩、なにしてるんです?」


「男気を探してる」


「なんですか?それ」


「スムーズなプランニングをだな……」


「大丈夫だと思いますよ?」


「そうなの?」


入場したと同時に一目散に目的のアトラクションに地図も見ないで進む安西。


「安西さん、どうされたんでしょうか?」


まぁ、戸惑うよね。生徒会長の千石さんはおろおろしている。まぁ、付いていくしか無いよね。


「大丈夫?えーっと」


「詩乃です」


「ああ、詩乃ちゃん?でいいかな」


慌ててペットボトルを落としてしまったのを拾ってあげて、詩乃ちゃんに手渡す。


「ごめんね、なんか。あいつ、いつも突っ走るから」


到着したのはディズニーシーの目玉「タワー・オブ・テラー」だった。ファストパスを取りに来たらしい。


「1人1枚必要だから」


大丈夫ってこういうことか。七海ちゃん、聞いていたのかな。チケットを持っていたし、安西、ディズニーマニアだったのかな。なんにしてもいきなりの展開スピードに付いて行けない西京女子学院の皆々。ここは俺がフォローすべきなんだろうな。


「なんか、ホントごめん。あいつ、突っ走るところがあってさ。でもなんかディズニーシーについて知ってるみたいだから任せてみようか」


なんのフォローかわからないけど。話しかけただけ俺を褒めてくれ。


「なんかすごいですね。私達の中にあんなに積極的に動く人いなくて」


返事をしてくれたのは副会長の笹森さん。笹森さんは名前を覚えていた。確か下の名前は「ともえ」だ。一番控えめな行動をしている星野さんは、もう息を切らしている。なんか可哀想なことをしたな。


「お茶、持ってる?」


「あ、いえ。入ってから買おうと思ってて……」


こんなに息を切らしてて飲み物を出さないから聞いてみたら。やっぱり。


「それじゃ、これ。まだ開けてないから」


「え、いいんですか?」


お、いい感じなんじゃないか?男気発揮してないか?俺から受け取ったスポーツドリンクを開けて飲む星野さん。ちょっと気を使ったほうが良さそうだ。


「やるじゃないですか。先輩」


「一応、男だし?部長だし?」


「先月までぼっちだったのに?」


「お前だってそうだろ?」


「中学の時は違いましたし」


くっそ。こいつらはなんで俺をいじりたがるんだ。


「混雑するアトラクションは最初にファストパスを取って、その時間前に次に混雑するアトラクションを選ぶの。ディズニーシーの場合はセンター・オブ・ジ・アースかな」


ガイドか、コイツは。千石会長が若干引いてるぞ。


「千石さんはディズニーシー初めて?」


「はい。ディズニーに来たのも初めてです。でもすごいですね、安西さん。いつもあんな感じなんですか?」


「あんな感じ。ケーキ屋で見せた姿は仮の姿。獲物を待つ蜘蛛のような」


「もしかして桐生さんも捕まったんですか?」


「あ、わかる?」


「わかります」


そう言って千石さんは笑ってくれた。


「ところで、スイーツ研究会って創部されたばかりってことですけど、この4人で作ったんですか?」


「そう。うちの高校、いきなり全校生徒はなにか部活に入りましょう、ってなって。ガチガチの部活は勘弁、っていうメンツが集まって作ったんだ。研究会なんて偉そうな名前ついてるけど、放課後に部室に集まってお茶を飲みながらお菓子を食べているだけなんだけどね」


「楽しそうですね。私達も生徒会、なんて言ってますけど、別段の仕事は無くて。だからあんな奉仕活動なんてやって威厳というか、ここにいるんだぞー、みたいなことをやってて」


なんだ、生徒会ってもっとガリガリしたところかと思ってた。真っ先に選択対象から外したんだけどな。


「でも生徒会って選挙で選ばれるんでしょ?人望が厚いっていうか。なんかすごいっすね」


「涼子ちゃん、そういうの好きだから。お陰で私も付き合わされちゃって」


あ、副会長は会長に捕まった人なのか。お互い大変だなぁ。


「詩乃ちゃんと星野さんは自主的に生徒会に入ったの?」


「あ、はい。私は未来ちゃんに誘われて」


なるほど。そういうことか。聞けば詩乃ちゃんと星野さんが1年生、会長の千石さんと副会長の笹森さんが2年生ということらしい。

なんだかんだ結構話題って続くものだな。この調子でいければいいけど。


「ところで、桐生さんって安西さんとお付き合いしてるんですか?」


おお?


「なんで?」


「いや、何となくなんですけど。あ!すいません、いきなり。失礼でしたよね」


「構わないよ別に。まず結論からいうと”今は”付き合ってない」


無駄な見栄を張ってしまった。言った後に後悔したけど、言ってしまったものはしょうがない。


「あ、そうだったんですね。なんか本当にすみません」


そうなるよね。折角だし事の次第を話してしまおうか。話題も尽きてきたし。


「まぁ、付き合っていたと言っても1日だけなんだけどね。お試しというかなんというか」


「お試しですか?」


「そう。お試し。話の成り行きでそんなことになって。まぁ、自分が勘違いしちゃったってのもあるんだけどね。笹森さんはそういうのないの?」


「あ、はい。ないです。女子校ですし。でもそういうの憧れます」


「お試しでも?」


「お試しはちょっとあれですけど、でもそういうのってどんな感じなのか分からないのでお試しもいいかも知れませんね」


意外とお試しの需要は高いのか?


「今日はそのお試しに近いかも知れないけどね。俺だけだけど」


あああああっ!なに言ってるの俺!自分がお試し対象とか、どんだけナルシストなんだよ!


「あははは。そうですね。お試しですね。こうやって男の人と遊びに行くのは初めてなんで。なにを話したいいのかって思っていたんですけど、結構話せるものなんですね。もしかしたら桐生さんだからかも知れませんけど」


女の子ってみんなこんな感じで男を勘違いさせる生き物なのだろうか。向こうの安西も生徒会長の千石さんとなにか話しているようだ。そこそこ盛り上がっているようだけど、なにを話しているんだろうか。


「ええ!?そうなんですか!?てっきり桐生さんとお付き合いしているのかと思ってました」


「あら?そう?確かにこの服装、彼が選んでくれたものだけど、お試しというかなんというか。1日だけ恋人ごっこしたの。結構楽しかったけどね。だから、現在進行形では彼氏彼女の関係じゃないわ。だから桐生くん、今はフリーよ。彼、悪い人じゃないから意外といいかも知れないわよ」


「女子校なんでそういう経験がなくて。よく分からないんですよね。どんなお話すればいいんでしょうか」


「そこにいるんだから、試してみればいいんじゃないかしら。桐生くん、ちょっといい?」


呼ばれた。なんかイヤな予感がする。話題が尽きたら呼ぶとか言っていたし。


「なんだ?会話要員か?」


「まぁ、そんなところ。千石さんが男の子とお話ししたことがないって言ってたから。ほら、桐生くん、一応男の子でしょ?」


「一応って……」


「やっぱり、お二人、息ぴったりじゃないですか。なんか羨ましいです」


これが?羨ましい?こんなサディスティックな会話が?


「さっき笹森さんと話してて、同じように女子校だから男の人とは接点があまりないとかいっていたけど、やっぱりそういうものなの?」


「はい。中には外部の方とお付き合いしている生徒も居ますが、校風的に大っぴらにはし難いというか。ですので、ほとんどの生徒がそういうのには免疫がないんじゃないかと思います」


なんかお嬢様だなぁ。女子校って聞いただけでときめきを感じるけど、本当にそんな感じなんだ。


「でもなんだかんだいってこうやって普通に会話できてるじゃない。特別な事なんてなにもないよ」


「そうですね。なんだか桐生さんはお話ししやすいです」


やはり女の子て生き物は勘違いをさせる習性を持ち合わせているようだ。


「涼子ちゃん、そんなこと言ってると勘違いされちゃうわよ。桐生くん、そんなところあるから」


あ、あのこと話したなコイツ。もしかして今日の服装についても話したのかな。


「いや、そんなことは無いと思うけど……」


「あれ?いいんですかぁ、先輩、そんなこと言って。折角のチャンスじゃないですか」


横から七海ちゃんが首を突っ込んできた。チャンスねぇ。昨日の今日あった女の子と可能性を感じてどうするんだよ。相手にも失礼だぞ。


「え?涼子先輩、そういうの興味あったんですか?なんか意外です」


詩乃ちゃんも参戦してきた。女の子はこういう話、好きだよなぁ。


「詩乃ちゃんはそういうのないの?」


「私ですか?小学校以来、そういうのはないです。兄がいるので、男の人と話すのは特に問題ないんですけど。やっぱり女子校だとそういうのはなかなか難しいというか……。あ!桐生さん、どなたかご紹介頂けませんか?」


ご紹介。こういうのって意外と凹むんだよな。俺は絶対にない、って言われているみたいで。


「桐生くんはそういうの、難しいんじゃないかなぁ。この部活が出来るまで帰宅部ぼっち代表だったし」


稲嶺まで参戦してきた。次々に俺のことが暴露されてゆく。


「そうなんですか?こんなにお話し易いのに」


「そんなこというと惚れても知らないわよ」


確信した。女の子は男を勘違いさせる生き物なのだ。そう言えば、未来ちゃんは大丈夫なんだろうか。話の輪に入ってこないけども。端っこに居た未来ちゃんを見ると、案の定、疲れている感じだ。


「大丈夫?」


「あ、はい。大丈夫です。人が多い環境に当てられちゃって」


人酔いってやつか。自分にも経験があるな。楓と渋谷に行った時、人酔いした経験がある。あれ、結構気持ち悪いんだよな。気を紛らわすために楓に話しかけまくっていたら「うっざ」とか言われてしまったのを思い出して苦笑してしまった。


「そういう時は人と話すのがいいよ。俺も同じような経験があるから」


そう言って、自ら火中の栗になりに戻ったわけだけど。そんな感じでいじられ続けているうちに、順番が回ってきてアトラクションに乗り込んだわけだけど。


「なんで私の隣が桐生くんなのよ」


「知らねぇよ。成り行きだ成り行き」


七海ちゃんは稲嶺と、千石さんは笹森さんと、詩乃ちゃんは未来ちゃんと。まぁ、順当な組合せで残った俺たちが一緒になったわけだけど。まぁ、仕方がないか。


「きゃああああぁぁぁっ!!」


安西が叫びまくっている。少々うるさいくらいだ。苦手なのか楽しんでいるのか。そろそろ最大の下りなんだが。コイツ、大丈夫なのかな。


「あー……」


バッチリ写ってる。あの下りで自動的に撮影される写真。思いっきり俺の腕に安西がしがみついている。


「やっぱり、お二人はお付き合いされているんじゃないですか?」


千石さんにやっぱり言われた。七海ちゃんは面白がって写真買ってるし。あれで今後もイジられるんだろうなぁ。


ディズニーシーってのは結構楽しいところだった。火山とか噴火しちゃうし。夜の花火もきれいだった。


「楽しかったですね」


なんだかんだで一番楽しんでいたのは千石さんだった気がする。電車に乗ってからもテンションが高い。未来ちゃんも大丈夫そうだし、安西が企画した突発イベントはなんとか成功したようだ。


「で?誰が一番好みだった?」


「なんだ急に」


マンションまでの帰り道で安西にいきなり聞かれた。今日のメンツでってことなんだろうけど。まぁ、1日だけだから雰囲気だけで言ったら詩乃ちゃんだけど。いじられまくったし、ここは仕返しかな。


「なにいってるんだ。俺は安西一筋なんだぞ」


おい。黙るなよ。「なにいってんの(笑)」とか予想していたんだが。


「ねぇ、それって本気なの?」


おおっと。結構マジ顔だ。どうすっかな。「なに勘違いしてるんだ」って言えば仕返しになるけど、どうも言葉にならない。


「いや、一度はそういう仲になったし?」


「そう……なんだ」


ちょっとちょっと。これって結構本気モードなのか?もしかしてここで押せばなんとかなっちゃう展開なのか?


「なんなら、もう一回やってみる?お試し」


下を向いてしまった。失敗したかな?


「ぷぷぷ……」


ぷぷぷ?


「やっぱり!本気にしたんだ!桐生くん、やっぱり面白い!!」


なんてこった。からかわれたのは俺の方だったのか。今日、女の子は勘違いさせる生き物だって学んだのに。全然教訓になっていない自分が情けない。コイツに引っ掛けられたのは2回目だ。


「最初からそれ狙っていたのか……くっそ……」


「ま、私も嫌いな人にはこんなことしないわよ。それじゃ、おやすみ」


ほんと、女の子は勘違いさせる生き物だな。

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