第16話 お試しの結果
「ただいま」
「ない!なんでなの!?おにーちゃん!なにあれ!!ホント許せない!」
「何だ急に」
「なのあの美人!あり得ないんだけど」
知らんがな。優越感に浸っている俺に敵はない。「楓も頑張れよ」と言って部屋に引っ込んだ。正直なところ
自分でも驚いている。一人があんなに良いと思っていたのに。それなのにこれは何だ。それを吹き飛ばす感情に溢れている。
毎日ではないが、そんな感じで俺のゴールデンウィークは過ぎ去った。もちろんゴロゴロするのも堪能した。
「うぃーっす」
挨拶。学校ではとても久しぶりな気がする。下駄箱にいた安西に声を掛けた。
「あ、おはよー。千佳ちゃんもおはよー」
七海ちゃんは……まだ来てないみたいだな。上履きが置いてある。教室に行くと、どこから聞きつけたのか何人かの人たちに「安西と付き合い始めたって本当か?」なんて聞かれたもんだから「そうなった」とか答えちゃって。なんだかんだでクラスで人気があった安西を、万年ボッチが射止めたとかナントカでちょっとした話題になっていた。
「あかね、こんなことになってるけど、大丈夫なのか?」
「何?安西くん。あかねなんて」
「え?」
「桐生くん、もしかしてゴールデンウィーク、あかねにベッタベタにされた?」
「え、まぁ」
「あかね。だから言ったじゃない。普通の人はこうなるものなのよ」
「そうなの?中途半端だと分からないじゃない」
なにがなんだか。
「えっと?」
「安西くん、だから言ったでしょ?期待しないほうがいいって」
え?え?どゆこと??本人に聞いてみるか?
「あかね、これはいったい?」
「ああ、お試し期間が終了したのよ。やるなら本気で、が私のモットーだから。勘違いさせることが出来たのなら本気で出来た証拠かな」
Oh……
「そういうことなのか。期待したってか、さっきクラスのやつに付き合ってるって言っちゃったよ」
「別に、周りがどう思うのかなんて私、気にしないから大丈夫よ?」
いや、俺が気にするっていうか。付き合ってると思っていたのは俺だけの思い込みでした、って最高に格好悪いじゃないか。それに楓に知られたら最悪の展開が目に見える。
「あかね、だから言ったでしょ?こうなっちゃのよ。で?解ったの?友達の好きと、恋人の好き、その違い」
「うーん……なんとなく?今回はちょっとドキドキした」
今回。なるほど。初めてじゃないんですね。
「あー。ちょっといいですか。最初からお試しって言われていたのを思い出したので別にって感じなんだけど、安西は後味の悪さとか感じないの?」
「少し。服とか買ってもらっちゃのがちょっと」
あ、そこなんだ。
「でも、あれは本当に嬉しかったから、思い出として頂いておくわ」
あ、そうなんだ。まぁ、返されても困るから別にいいけど。俺も楽しかったし。
「しかしまぁ。なんだ。俺も恋人とはなんぞやが分かったよ。万年ボッチがいいなって思っていたけども、特定の相手と仲良くなるのも悪くない」
「特定の相手には私も入るのかしら?」
稲峰がいたずらっぽく聞いてくる。
「稲嶺……お前はそうだな。お前もいるから今の俺はボッチじゃなくなったのかな。悪くない」
「なにその苦しゅうない、近う寄れ、みたいなの。まぁ、私も桐生くん嫌いじゃないけどね。あ、友達としてね」
うんうん、そうでしょうね。
「しかし。これを七海ちゃんが知ったらどうなるのかなぁ」
彼女は安西は本気で言っていると思ってたから。実は言葉通りにお試しでした、って分かったら。反応がちょっと楽しみな気はしないではない。
「まぁ、とにかくこれはこれとして、放課後に例のスイーツ研究会だっけ?あれが許可されるのか聞きに行きかますか」
正直不安だった。「何言ってるのクソボッチ。あんなのも演技に決まってるでしょ?何本気にしてるの気持ち悪い」とか言われるんじゃないかって。流石に暫くは凹みそうだ。
「そうね。それが許可されないとなにも始まらないわ」
一安心。でもこれもお試しの可能性がある。気を抜いてはならない。いつの間にか大嫌いだった"空気を読む"ことをしている自分に苦笑した。
放課後に七海ちゃんも加わって4人で職員室に行く。内容とゴールデンウィークの活動記録を見せる。
「なるほど。こういう内容か。調べる対象は決めていくのか?」
「そこはその日気分です。食べたいもので比べないとやっつけ仕事になりそうなので」
予定に縛られるのだけはゴメンだからな。
「そうか。まぁ、部活として形にはなってると思うから、俺は許可出来ると思う。だが、最終決定は職員会議で行うから、絶対ではない。そこんところは分かってくれ。ちなみに職員会議は15日だ」
締切の日に職員会議って。まぁ、少しでも結果が早く分かるのは良いかも知れないな。駄目なら次のを考えなくちゃいけないから。
ー放課後ー
で、どうする?なんか不安になったので、安西の家に集まって今後の方針を確認することにした。集まってくれたってことは瓦解しているわけではなさそうだ。
「その前に、安西先輩と桐生先輩って本当にお付き合いしたんじゃなくてお試しだったんですか?私はてっきり。あんな自撮り写真まで送っていらしたので……」
そうよね。そうだよね。普通はそう思うよね。
「私はお試しって言ったわよ。ちゃんと。でもその気にさせたのならごめんなさい。でもその気にさせたのなら恋人ってどういうものなのかわかった気がするわ。あんな感じの気持ちとか行動になれば恋人なのね」
「安西、それはちょっと違うぞ。ああいう行動は確かに恋人のそれだが、演技ではなく、自然に出てこないと。確かにこうしたいって思うのはあるだろうけど、なんというかその……恥じらい?まぁ、そんな感じの感情があって初めて恋人なんだと思うぞ」
安西は奥が深い、というような表情をしている。顎に手をやるな。本気でそう考えてるだろ。ちょっと凹んでるんだぞ。
「で、先生的にはOKみたいだから、ある程度の今後の方針を決めておいた方がいいんじゃないかと思ってな」
「そうね。恋人ごっこはスイーツと関係ないものね」
恋人ごっこ、ですか。えぐってくるなぁ。
「桐生くん、気持ちはすっごーく分かるけど。だから忠告したのよ。あかねは魔性の女なの。これからも気をつけて。ちなみに私はそんなこと無いから。告白してくれてその気がなければこてんぱんに断ってあげる。演技無しで」
俺には自分に告白してくれるなオーラがすごい。流石の俺にも分かるくらいだから相当なんだろう。ちょっと試してみるか。
「そんななか、悪いんだけど、傷心の俺を慰めてくれないか」
「嫌」
Oh……。
「なるほど。こういうことか」
「そ」
そんなやり取りを見て七海ちゃんは笑っている。同じ質問を七海ちゃんにしたらなんて答えるのだろうか。気になってしまうのは俺が節操が無いということなのだろうか。
「七海ちゃん、七海ちゃん、七海ちゃんも今の安西くんに、同じ様に慰めてくれって言われたらどうする?」
だからえぐってくるなって。これで断られたら俺は死ぬぞ。
「んー……そうですね。友達として慰める程度はすると思います。可哀相ですし。流石に」
後輩に可哀相と言われてしまった。これはこれで攻撃力あるな。でも折角だから慰めて貰おう。
「それじゃ七海ちゃん、俺を慰めてくれ」
あ、いま、ちょっと面倒臭いって顔した。
「えと。元気をだしてください。あの安西さんですよ?何が起きても驚いてたら保ちませんって。ちょっと今回のやつは酷いと思いますけど。私が同じようなことをされたら暫くは会えなくなるかなぁって。でも桐生先輩はこうして会えてるんだからすごいんだと思います」
七海ちゃん、上手です。ちょっと気持ちが楽になりました。
「こんな感じでしょうか」
その言葉さえなければ。
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