第13話 お試し

「ねぇ、桐生くん。私は桐生くんのことが好きなのかしら?」


は?この人はなにを言い始めてるの?


「えっと?どういうこと?」


「好きって分からなくて。桐生くん的には私、どんな感じなのかしら?好きを向けられていると思う?」


ストレートすぎて答えに困る。稲嶺も七海ちゃんも頑張って、という顔をいている。きっとお風呂の中で話題が出たのだろう。ってか、この質問の仕方、「安西は桐生くんのことが好きなの?」って聞いたやつがいるな?どっちだ。七海ちゃんは違うだろうから稲嶺。お前か。ため息を付きながら睨むと手を合わせて謝ってきた。やっぱり。


「思いっきり好きを向けられているんじゃないか」


嫌いなやつに今までの態度はないだろう。そんなつもりで答えたのだが。


「そっかぁ。私、桐生くんのことが好きなのかぁ。これが"好き"なのかぁ」


あの。安西さん?それは友達としてですか?恋人としてですか?自分で聞くのも何なので、稲嶺に聞け、とサインを送る。


「あかね。お風呂でも聞いたけど、それってどっちなの?」


「そうねぇ。なんか会いたくなる、って方かな」


ぶっふぉっ!思いっきりLoveじゃねぇか。


「ふふ。告白されちゃいましたね、桐生先輩」


いきなりの展開に思考が追いつかない。告白?あれが?適当すぎないか。自分の気持を考えただけの告白、ってか会いたいってご近所様だからじゃないの?


「安西先輩。桐生先輩と手を繋ぎたいとかそういうのって無いんですか?」


「そうねぇ。付いてこなければ引っ張るかも知れないわね」


奴隷ですか。なんか首に輪っかをつけられて引っ張られる姿を想像した。


「あの、安西さん?それは"手を繋いで"ですか?首輪ですか」


「桐生くん、首輪って……」


稲嶺に軽蔑の目線を向けられた。そうじゃないのに。安西ならやりかねないだろ。いままでの意思の疎通力はどうした。分かってくれ。

なんにしても、今のところ、恋心なんて安西に感じることはない。ってか、恋心ってなに。ちょっと俺と安西が付き合ってみた場合を想像してみる。ちょっと考えただけで振り回されまくって3日で疲れそうだ。そういえば、一週間ほど前に安西の部屋に行ったとき「好きになったら言ってね」とか言ってたのに。好きが分からないってどういう事なんだ。安西は本当に不思議ちゃんだな。それに付き合ってる俺たちも変わり者なのかも知れないけど。


「首輪ってのは奴隷的な?私について来いみたいな?」


「ああ、そういう」


稲嶺、理解してくれて嬉しいよ。


「それじゃ、安西先輩、私が桐生先輩の事が好きなんで、って言ったらどうするんです??」


本気でなくてもちょっと期待してしまう。だって七海ちゃん、可愛いもん。別に安西が可愛くないということはないんだけども。一番大きいし。


「うーん……それはなんかいや、かな」


「お~。ヤキモチきましたね。安西先輩、それってLoveのほうですよ」


これは。


「そうなの?そういうものなの?それじゃ、安西くん、試してみましょう」


なにを?なにを試すの?恋人ごっこでもするの?


「試すってなにを?まさか恋人ごっこでもするの?」


「なに言ってるの」


デスヨネー。良かったと残念が入り交じって微妙な感じ。


「本気の恋人のようになるのよ」

あ、そっち、そういうことなんだ。


「そうか。そういうことか。それじゃ、今からってことでいいな?」


「あかね、積極的ね~。それ以上に桐生くん、度胸あるわね。尊敬するわ」


なんだその生暖かい目線は。


「桐生先輩、男らしいです」


いや、どうせ逃げられないんだろ?だったら本気でやってやろうじゃないか。


「というわけでこれからよろしく頼む」


安西に握手を求める。なんかまごついている安。言い始めた側がそれでどうする。こっちも恥ずかしくなるじゃないか。


「よろしく……」


「よ・ろ・し・く!」


ブンブンしてやった。で。恋人ってなにすんの。


「なんか布団、一組少なくない?」


ご飯を食べて休憩して。夜の庭園って綺麗だなぁなんてありきたりの感想を吐き出して。客間に行くと布団が一組なりない。2組しかない。まさかと思って安西に尋ねる。


「これってまさか?」


えっ!?って顔してる。やっぱりか。


「安西。それは気が早いし、むしろこれは恋人じゃなくて夫婦だ。稲嶺、ちゃんと教育してきたのか?」


「出来ると思う?」


無理だと思う。無理ですよね。でも好きな人がどうのこうのって話したこと無いの?女の子同士で。

僕はそう言って押入の中から布団を取り出して敷く。そして今、思ったことをそのまま聞く。


「稲嶺はさ、安西といわゆる恋バナとかしないの?」


「うーん……したことはあるけど、あかね、そのときに仲の良い雰囲気のヒトの名前しか出さないのよね。だから、さっきのもそんな感じなんだと思う。桐生くんには悪いけど。もしかしチョット期待してた?」


これまでの学生生活で彼女なんていたことが無いから、期待していなかったといえば嘘になるけど、その最初の相手が安西ってのはハードルが高いというか。性格的に。嫌いではないけれど。そうだ。七海ちゃんにも聞いてみるか。さっきもし私が云々言ってたし。


「七海ちゃん、ちょっといい?」


「なんでしょうか?」


「さっき、安西に私が好きって言ったら云々言ったじゃない?」


「あれ、たとえばの話ですよ?って、いきなり浮気はよくないと思いますよ?」


そうではなくて。聞きたいのは安西が言っていた内容、どこまで本気のなのか聞きたいのだけれど。


「ああ、七海ちゃんも嫌いじゃないけど、そういう話じゃなくて。安西のやつがあんな事言ってたけど、女の子的にはどんな感じなのかなって」


「どう思うのかって事ですか?それなら私の意見を言わせてもらうと、結構本気なんじゃなじゃないかなって思ってます」


さっきの稲嶺とは真逆の意見。


「その心は?」


「んーっと……、はっきりとは言えないんですけど、安西先輩、ああいうの初めてなんだと思います。それなのに仮に、みたいな感じとはいえ、恋人になりましょう、って言うのは結構勇気が要りますし」


まるで七海ちゃんはやっぱり彼氏がいたことがあるかのような説得力だ。居たのかどうか気になるけど、そこまで踏み込むのはマズいかな。


「そうか。ありがとう」


「そんなことより、桐生先輩はどうなんですか?安西先輩、嫌いじゃない、みたいな感じだと思うんですけど」


「うーん、確かに嫌いじゃないけど。というより性格以外は結構好みだけど」


「一番ダメじゃないですか……」


「まぁ、これからさ」


なんて言ってみたけど、一番分からないのは自分だったりする。

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