第11話 手伝い
「なにこの門。大名屋敷?」
「あ、それは俺も思った。あっちの小扉から入るんだぜ。時代劇みたいだろ」
流石の安西もこれを見て……
「素敵!こんなところでお手伝いできるなんて!」
なにも怖気づいてないし。しかも、もうお手伝い出来る気になってるし。
「それじゃ、とりあえず私の部屋に案内しますね」
例の小扉を通り抜けて裏から大門を見ると裏には神社とかで見る閂が入っていて思わず「おお……」なんて声が漏れてしまった。
「それ、開ける時、いちいち大変なんですよ」
苦笑気味に七海ちゃんが答えるが、慣れている感じだったので、毎回聞かれることのようだ。小扉と抜けた先は京都嵐山のような竹林。それを抜けるとかなり広い日本庭園。泳いでる鯉が高そうだ。絶対にお抱えの庭師とかいそう。
「それじゃ、ちょっと待ってて下さい。少し片付けてきます」
俺たちは玄関前で七海ちゃんが戻ってくるのを大人しく……またない人が約1名。日本庭園の中に入っていた。流石に芝生を飛び回ることはしなかったけど、砂で模様が書かれているなにかに渡されている飛び石の上でしゃがんで辺りを見回していた。なにか感じるものでもあるのだろうか。
「気に入ったのかね。お嬢さん。みなさんもこちらに来なさい」
縁側から和服姿の老人に声を掛けられた。僕たちは玄関横を通り過ぎて、屋敷の縁側に向かった。縁側なんて京都のお寺に行って以来だろうか。
「はじめまして。私、七海の祖父です。先程、七海から連絡がありましてな。お友達が家に来ると。私も楽しみにしておりましたので、お茶菓子を用意してお待ちしておりました」
縁側に座る僕たちの横にお盆に入った和菓子とお茶が配られた。形がとても綺麗だ。時期的なものだろうか柏餅と鶯の形をした……(饅頭?和菓子屋でよく見るけど、何ていうんだろう)ものが乗っていた。
「さ、どうぞ。七海にはみなさんがここにいることを連絡しておきますから」
そう言うとお爺さんはスマホを取り出して七海にメッセージを送っているようだった。意外だ(失礼)。
頂いたお菓子はとても美味しかった。洋菓子とは違って優しい甘みお茶とすごく合う。洋菓子はお茶はお茶でも紅茶が合うのに。不思議だ。ところで柏餅の葉っぱって一緒に食べるんだっけ?
「柏餅の葉っぱは食べても問題ないですが、基本的には食べないことをおすすめしてますよ。それは香り付け、抗菌作用、保湿効果、食べるときの包み紙として使われているものですから。特に香り付け、大事なんですよ。和菓子は香りも大事です」
柏餅を片手にそんなことを考えていたら、お爺さんが丁寧に教えてくれた。ケーキのビニールとは全く違うな。
「ありがとうございます。あと、いきなりこんなに押しかけて申し訳ありません。お休みの日なのに」
「ほほほ。構いませんよ。孫のお友達なら大歓迎ですよ。ゆっくりしていって下さい。今日は天気もいい。私もこの時期の縁側は好きでね」
そう言うとお爺さんは家の中に消えていった。多分七海ちゃんを呼びに行ったのだろう。それにしてもお爺さんが言う通り、この時期の縁側はとても気持ちがいい。春の暖かさが縁側の上に座っていると少し涼しい風もあって最高に気持ちがいい。
「おまたせしました。部屋の片付けが終わったんですけど……。こっちのほうが気持ちよさそうですね」
僕たちの様子を見て七海ちゃんは軽く微笑んで、俺達に一緒に並んだ。
「さっきの件、お母さんに確認したら、別に問題ない、だそうです。ただ、和菓子屋の朝は早いので、それでも良いのなら、ということだそうです」
「いいじゃない。こんなに大きなお屋敷ですもの。どこか泊まれるところとか無いかしら?」
あ、そっちに行くんだ。いきなり押しかけてバイトさせろの次は泊めさせろ、とかどこまで突き進むんだ安西は。
「客間がありますので問題ないかと思いますけど……多分、皆さん同じ部屋になっちゃうかと……」
僕の方を見る。ですよね。俺だけ男だし。
「千佳、構わないわよね?」
ええ……
「何をいっても聞かないんでしょう?桐生くんの常識に委ねるわ。よろしくね桐生くん」
釘を刺すような口調と顔。まあそうだよな。あかねに桐生くんってエッチ?とか聞かれちゃった前科持ちだし。
「それじゃ、お父さんとお母さんに聞いてきますね」
そう行って屋敷の奥に消えてゆく七海ちゃん。七海ちゃんもそれでいいのか。もしかしてもう諦めた?なんという適合性の高さか。
「なんかいきなりで申し訳ありません」
「いいのいいの。七海がお友達を連れてくるのは久しぶりだし、こっちも嬉しいのよ。で、住み込みでバイトしてくれるんですって?とても助かるのだけれど、ご両親の了解は貰っているのかしら?」
まだです、思いっきりまだです。今聞いたし。
「今から確認しますけど、大丈夫です」
おい。なんで俺と稲嶺まで大丈夫になっているんだ。チョット待て。俺と稲嶺は仕方なく両親に連絡を入れた。俺の母親は伊藤の名前を出しただけでOKを出してきた。まぁ、これだけの屋敷だし、有名なのかも知れない。稲嶺の方もなんか説明している感じだったが最終的にはOKとなったようだ。
「大丈夫でした」
「そう。それは良かった。それじゃ、準備を始めますから、いつからでもいいですよ」
今日からって……
「今日からでも問題ないのでしょうか?」
なるんだよね、当然。分かってましたよ。最初から心の準備はしてましたよ。
一旦荷物を取りに戻ってから七海ちゃんの自宅に戻る。縁側のある大広間に集まった後に奥の客間に通された。こういうの時代劇でしか見たことがない。隙間風とかあって少し涼しいのかまだ暖房が出してあった。おもいっきり火鉢だったけど。本当に時代劇のセットのようだ。囲炉裏とかあったら完璧だぞ。
「七海ちゃん。興味あって聞くんだけど、もしかして囲炉裏のある部屋とかあったりする?」
「ありますよ。ぽたぽた焼きとか鮎を焼くと美味しいです」
やっぱりあるんだ。さながら純和風の旅館みたいだ。それにしても客間に寝泊まりしなくても女の子は七海ちゃんの部屋で寝れば良いんじゃないか?って思ったんだけど、行ってみるとかなり狭くて無理だった。なんでこんな大きな屋敷でこんなに小さな部屋なのか。七海ちゃんの趣味?隠れ家的な?こういうのは黙ってても安西が聞いてくれるはず。
「七海ちゃん、こういうこじんまりした部屋が好きなの」
ほら。
「そうなんです。なんかこの家、すごく広い部屋ばかりで落ち着かなくて。ここは本来納戸なんですけど、ちょっと改装してもらって部屋にしてまして」
あ、やっぱり趣味というか希望だったんだ。確かに収まり具合の良い部屋だ。ワンルームマンションの居間くらいのサイズだろうか。
「そういうわけですので説明は大広間で行います」
大広間ってさっきの縁側の会った部屋かな。
「なにこれ、謁見の間かなにかですか。一段高いところあるし。苦しゅうない、近う寄れ、表をあげよみたいな時代劇ごっこが出来そう」
「そうなんですよ。この家、元は大名屋敷だったみたいで。私達の家系がそういうわけでは無いのですが、なんか本宅では無かったみたいで私達が住むことになったと聞いております」
ってことは、これ、別邸なの。大名すごい。
「それでは、一日の流れを簡単に説明します。大体、3:30から4:00くらいから作業を始めるので、その時間までに起きて準備です。最初にやる作業はボイラーの火入れですね」
サラリといちばんハードルの高いことを言われた気がする。ゴロゴロな生活とは正反対だ。
「そして、赤飯とか餡を作り始めて6時くらいにはお店を開けるんです」
「なんでそんなに早く開けるの?」
「ご年配の方がお墓参りや神社に参拝されたりするので、それに合わせることもあるのですが、生菓子は足が早いので、早く開けて商品を売り切る、という理由もあります」
へぇ。年がら年中、家の中でゴロゴロしている俺とは正反対の規則正しい生活をしている人たちってたくさんいるんだなぁ。
「今日から手伝えることって無いのかしら?」
安西、なんでそんなにやる気なんだ。ってか、これはバイトになるのか?給与は出るのか?押しかけて給与下さい、ってどんだけ厚かましいのか。これはお手伝いって割り切ったほうが良さそうだ……。
「七海ちゃん、ちなみにお手伝いってどのくらいの日程になるんだい?」
「ええと。4月中と5月1日まで、2~5日はお休みです。なので、今日が4月29日ですので、今日を入れて3日、でしょうか」
ああ、そうなんだ。3日なんだ。てっきり1泊程度かと思ってその着替えしか持ってきていない。稲嶺も同じような反応なのできっとそうなのだろう。安西は……やたらとデカイバッグだからゴールデンウィーク期間中ずっとでもOK!みたいな感じなんだろうな。巻き込むなよ俺たちを。
「それじゃ、早速なんですけど、今からということであれば、作業着に着替えていただいて、片付け、でしょうか」
僕たちは作業着に着替えて調理場に行ったのだが。何から手をつければ良いのかさっぱりだ。それに作業着、なんだか和服っぽいのを想像してたけど、普通の白い給食室のおばちゃんみたいなものだった。
「まずはその蒸し箱をこっちに重ねて貰って、使った調理器具の洗浄、あとは調理場そのものの掃除洗浄、でしょうか。蒸し器はとても重たいので……」
僕の方を見ている。はいはい。そうでしょうね。そうなりますよね。がんばります。帰宅部なめんなよ。
5個位一気にとか思ったけど。無理。2~3個が限界。なんでも蒸気が逃げないように中の詰まった木材を使っているとのことだった。
周りの連中も掃除を……。
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