第5話 お友達止まり

理解が追いつかない。今、好きって言われた。告白なの?これが告白ってやつなの?


「あ、そうじゃなくて」


違うのか。


「友達として好きとかそういう……でも少し違って……その……いい友達になれるかなって!」


ですよねー。いい友達。これが"いい人止まり"ってやつの序章なのか。いい人なのに一生ボッチという存在。相談は受けるけどもソレは彼氏彼女の相談。決して自分に対しての好意の相談ではないやつ。


「ありがとう。なんか生理的に受け付けないとか嫌いとか思ってたのと違う、とか言われたらどうしようかと思った」


「あははは!なにそれ」


「いつも妹に言われてる言葉かな」


「妹さん、厳しいねぇ。私にもお兄ちゃんが居たらそんな風に言っちゃうのかなぁ」


いや、きっと安西さんはそんなことが無い気がする。なんとなくだけど。


「でも。こうやって桐生くんとお話するのは好きかな。気兼ねなくというか。なんかほとんど初対面なのにゴメンね」


あ、そういう認識、ちゃんとあったんだ。


「いや、構わないよ。俺も久しぶりにこんなに会話したし。楽しかったよ」


あ。"楽しかった"って自分で会話を終わらせてしまった。でもまぁ、好きとか嫌いとはは今の俺にはハードルが高い。いつか引っ掛けて大転倒するに決まってるから潮時だ。


「あ、そうだ」


あ、まだ続くんだ。


「部活!どうする?」


うん。ソレを最初に話すべきだったね。


「部活なぁ。なんか既存の部活って開始時間が決まってるとか規則があったりとか、自分には会わない気がするんだよね。もっとこう……フリーダムな感じっていうのかな?集まりたい時に集まって、その場でやりたいことを決めて、みたいな」


それはなんていう部活動なのだろうか。放課後に仲間連中が集まって遊ぶのと何が違うのか。でも俺にはそういうイメージしか思いつかなかった。


「それってなんか友達みたいだね」


ですよねー。部活、じゃないですよねー。でもボッチにはこれが限界。なにか目標に向かってとか無理無理の無理だし。汗を流すなんて登下校のウォーキングで十分だし。


「友達部?俺みたいなボッチは友達作るのが苦手だから、それを克服するのが目標の部活、みたいな」


お。なんかうまくまとめられた気がする。


「友達部かぁ。なんか面白そうだね。大学のサークルみたい。テニスサークルとか言いながら飲み会ばかりやってるところみたいな」


まるで行ったことがあるような言い草。なんか色々想像してしまうじゃあないか。


「行ったことあるの?」


「ないない(笑)。クラスの友達がそんなこと言ってて。その子のお姉ちゃんの大学に一緒に行ったとかなんとかでって。女子高生ブランドは強かったらしいよぉ。私もモテモテになるのかな?」


またそっち方面の話に戻るんだ。女の子は恋バナが好きって聞いたけど、これがそういうことなのか。よし。分かった。付き合おうじゃないか。


「モテモテになるんじゃないかな。ほら……」


「やっぱり桐生くん、エッチだ」


Nooooo!!やっぱりそうなるんだ。まだ何も言ってないよ?


「だから、そういうのには行かないほうが……」


「独占欲だ」


正直、なくはないけど


「それ。安西は渡さない、みたいな」


誰に?ねぇ誰に渡さないの?誰が渡さないの?俺、何いってんの?


「まだ、桐生くんのものになったわけじゃないんだけどなー。なんて、ちょっと意地悪だったかな」


くっそ。やっぱりあざといのか。俺には攻撃力が高すぎて防御しきれない。皮の盾でエクスカリバーは防げない。


「おっと。もうこんな時間か。流石に母さんも帰ってるだろうから、そろそろ失礼するよ。今日はありがとうございました」


「なにそんなにかしこまって(笑)」


「お礼はしっかりするものだって幼稚園からの厳しい教えです」


「お坊ちゃんなんだ。あ、そういえばさっきの友達部?だっけ。あれ、私もやってみたいな。明日先生に聞いてみようか」


いや、流石に無理だと思うぞ。でも安西のことだから本当に聞きに行きかねないな。そうしたら僕も発起人として参加することになるわけで。ああ、そうなったらどうせ逃げられないんだから、今日のうちに覚悟を決めておこう。


「それじゃ、今日は本当にありがとう。助かったよ」


安西邸を後にして自宅に戻る。ここで安西邸から出てくるのを楓に見られてなくて良かった。何を言われるか分かったものではない。


「ただいまー」


「あら。遅かったじゃない」


「鍵を忘れたから、外で時間つぶしてた」


「おにーちゃん、友達居たんだ。あ、あれでしょ。一人で公園のブランコで黄昏れてたんでしょ」


流石にそれはないぞ。せめて象のすべり台下のトンネル辺りにしてくれ。


「いちいち他人の詮索をするな」


「いて!」


ソファーに座る楓の頭を左手で軽く叩き、自分の部屋に着替えに戻る。


「はぁー。疲れた」


一年分の精神力を使い果たしたような気分だ。それにしても、同じ部屋だってのになんだこの違いは。ベッドに転がっているのは可愛い下着ではなく読みかけの週刊漫画。可愛い机なんて置いてない汚れたラグマット。いつのものか分からないプリントが散乱する学習机。人間の出来の違いを痛感する。


「おにーちゃん、ごはん!って、なんで着替えてるのよ!」


「そりゃ制服だったんだから着替えるだろ。ってか、ノックしろって言ってるだろ?」


「なんで私がおにーちゃんの汚い下着姿見なきゃいけないのよ!」


「ノックもしないで開けるからだろ?」


「早く着てよ!変態!」


いや、ドアを閉めろよ。


「へいへい」


今日は緑色のジャージだ。これは中学校の頃の体育で使っていたものだから、手足がちょっと短い。でもまだ使えるし。


「お。今日は唐揚げか。楓、エビフライに唐揚げ、太るんじゃないか?」


「おにーちゃんと違って運動してるから大丈夫ですぅー」


楓は陸上部だ。走っても負担にならないフォルムはさぞかし有利なことでしょう。


「なぁ、楓、良いお友達ってそのまま良いお友達止まり、ってよくあることだよな?」


「なに?いきなり」


「いや。なんとなくさ」


「良いお友達ねぇ。色々なんじゃない?そこから更に仲良くなって付き合っちゃうこともあるだろうし、そうじゃない場合もあるだろうし」


答えになってねぇな。俺がほしいのはYesかNoなのに。

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