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「世界が終わる前に、私たちはこの世界の外側にでないといけない。……ううん。私たちじゃない。『久美子ちゃんが、この世界の外に脱出しないといけないんだと私は思う』」
そんなことをさゆりちゃんは信くんに(私に秘密にして)言っていた。
「久美子ちゃん。最後に私の忠告を聞いて」
闇の中からさゆりちゃんが言った。
「なに! なんでも聞くよ、さゆりちゃん!!」久美子は言う。
「私の最後の忠告、それは闇闇の正体についての話なの。私にはある一つの仮説がある。その話を久美子ちゃん。あなたに聞いてほしい。この世界の創造主であるあなたにきちんと聞いてほしいの」
久美子はさゆりちゃんの言葉に耳を傾けている。
その気配を感じ取ったのか、(あるいは闇の中にいるさゆりちゃんからはろうそくの火の明かりの中にいる久美子たちの姿はきちんと見えているのか)「ありがとう。久美子ちゃん」と久美子に言った。
「久美子ちゃん。おそらく、この世界を襲っている闇闇の正体は久美子ちゃん自身が生み出した怪物なんだと思う。その怪物は久美子ちゃんの中にずっと身を潜めていたものなんだと思うの」
闇闇が、私の生み出した怪物? ……私の中に闇闇がいた?
「久美子ちゃん。闇闇はね、きっともうこんな世界なんて嫌いだ。こんな世界なんてなくなってしまえばいい。……あるいはこんな自分なんていなくなってしまえばいい。この世界の中から消えちゃってもいいんだって、……そう思う、久美子ちゃん自身の歪んだ、暗い感情、そのものなんだと思うの」
闇闇が、私の暗い感情の、……そこから生み出されたもの?
(久美子には、そのさゆりちゃんの話に、納得ができる思い出があった)
「久美子ちゃん。闇闇から今はとりあえず逃げて。闇闇に勝とうとは思わないで。闇闇はそんな甘い感情じゃない。きっと戦えば負けてしまう。だから逃げて。できるだけ遠くまで逃げるの。自分を許せるその日がくるまで。久美子ちゃんが大人になるまで、闇闇から、逃げ切って」
さゆりちゃんはそこで言葉を一旦区切った。
「そして生きて」
「私の分まで、……ううん。私たちの分までしっかりと世界の中を生き抜いて」さゆりちゃんは言う。
「……だって、あなたは生きているのだから」
「今もこうして、ちゃんとこの世界の中に、三島久美子という一人の人間として、存在しているのだから」
久美子はじっとさゆりちゃんの話に耳を傾けている。
「自分を信じて」
「自分を許してあげて」
「自分を幸せにしてあげて」
さゆりちゃんは言う。
それからさゆりちゃんは、最後に久美子に向かって、「ばいばい久美子ちゃん。もし、来世があるのなら、また同じ土地に生まれて、また、私たち、友達になれるといいね」
とにっこりと笑った声でそういった。
その声を最後に、うっすらと感じていた関谷さゆりが確かにその闇の中にいる、と言う感覚が、三島久美子の中から、完全に消えた。
「さゆりちゃん!! いかないで!!!」
久美子は叫んだ。
……でも、返事はもう、どこからも返ってはこなかった。
こうして関谷さゆりは、三島久美子の前から、永遠にその姿を消した。彼女の消えたあとには暗く、深い闇だけが残っていた。
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