48 出口の扉が開く

 出口の扉が開く


 ほら、見て。ドアが開くよ。……私たちの、運命を決める扉が。


「結局、闇闇ってなんなのかな?」

 夜、眠れない時間に久美子はそんなことをさゆりちゃんに言った。

「それはもう以前に一度説明した」

 くるりと布団の中でこちらに顔を向けてさゆりちゃんがにっこりと笑ってそういった。

「それはそうなんだけど、もっと、こう、なんていうのかな? 闇闇の正体っていうか? どうしてこの世界に闇闇なんて邪悪なものが誕生したのか、とか、そういうことを知りたいなって思ったんだ。そう。私闇闇のことをもっとよく知りたいの。なんていうのかな? 敵を知り己を知れば百戦危うからずってやつ。私たちは闇闇と戦うんだから闇闇のことについて、もっとよく考えたり調べたりしたほうがいいと思うの」

 目を輝かせて、久美子は言った。

「それはもう私がやった」

 さゆりちゃんは言う。

 それは確かにそうだった。

 さゆりちゃんはずっと闇闇について考えていて、図書室で調べ物をしていた。久美子がこうして闇闇について知りたい、知ろうと思ったときには、もうすでにさゆりちゃんが先回りをして、闇闇のことを考えてくれたり、調べていてくれるのだ。(それはいつもの久美子とさゆりちゃんの関係そのものだった)

「さゆりちゃん。いつも迷惑かけてごめんね」

 久美子は言った。

「別にいい。それに迷惑なんてかけてない。私はそんな風に思ったことは一度もないよ。久美子ちゃん」

 にっこりと笑ってさゆりちゃんは言った。

「本当に?」

「うん。だって私たちは『友達』だから」

 さゆりちゃんはそう言ってまた笑って、久美子も同じように布団の中で「……うん」と言って嬉しそうな顔でにっこりと笑った。


「闇闇は人の悪意の塊のようなものだと俺は思っている」

 さゆりちゃんの隣の布団から、珍しく夜中に起きていた信くんが言った。(それだけではなくて、夜の会話に信くんが参加してくるもの珍しいことだった)

「悪意?」久美子は言う。

「うん。あるいは亡霊。怨霊。それから、……人を恨む心。妬む心。呪いのようなもの。そういうものの集合体って感じかな?」

「あるいは闇闇はもしかしたら『病み病み』かもしれない」(そう言ってからさゆりちゃんは真っ暗な空間に病み病みの文字を書いた)

「闇闇は病み病みで、それは心の病んでいる人の悪意が世界の外側に溢れ出したものかもしれないってこと?」

「うん。もちろん実際にそうだとは言わないけれど、そう言ったいろんな可能性が考えられる。あるいはその全部が正解かもしれないし、全部が間違っているのかもしれない。闇闇は宇宙生命体で、隕石に乗って、地球に飛来した未知の生物かもしれない」

「なんでもいいけど、とにかく危ない存在ってことだよ。闇の力を持った存在。あるいは、闇そのものってところかな?」

「悪魔ってこと?」

 久美子の言葉に、信くんとさゆりちゃんの言葉が止まった。

「……え? あれ、私なにか変なこと言った?」慌てた様子で久美子は言う。

「ううん。言ってない。結構意表をついたいい意見だったから驚いただけ」さゆりちゃんが言う。

「ああ。三島にしては良い意見だった」笑いながら信くんが言った。(久美子はそんな信くんの言葉に頬を膨らませて、ちょっとだけ腹を立てた)

「久美子ちゃん。もう寝よう。明日は大変な日だから」とさゆりちゃんが言った。

「うん。わかった」久美子は言う。

「ねえ、久美子ちゃん」

「なに?」

「今日、一緒の布団の中で寝ても良い? なんだかあんまりよく寝付けなくて」久美子は言う。

 するとさゆりちゃんはにっこりと笑って、「わかった。いいよ」と言って自分の布団をそっと手で開けてくれた。

「ありがとう。さゆりちゃん」

 そう言って久美子はさゆりちゃんの布団の中に潜り込んだ。

「三島はやっぱり、まだまだおこちゃまだな」

 信くんが言った。 

 久美子はそれからさゆりちゃんと一緒の布団の中で、さゆりちゃんの暖かい体温を感じながら眠りについた。(それは本当に、安心できる安らかで、……深い、とても深い眠りだった)

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