47 口伝

 口伝


 それは、親から子に語り継がれるもの


 三島久美子はそのまま古い祭壇の前まで移動をした。

 久美子はそこまでくると、自分の胸元でなにかが暖かい光を発していることに気がついた。

 ……なんだろう?

 そう思って久美子がその暖かい光の正体を確認してみると、それは『三島神社の古いお守りだった』。

 久美子が生まれたときにこの子の命を神様に守ってもらえるように、という願いを込めて生まれたばかりの赤ん坊だった久美子に送られた家族からの愛の溢れた贈り物だった。

 ……お守りが光っている。

 久美子は驚いていた。

 ずっと、幼いころから肌身離さずに持ち歩いていたものだったけど、こんな風にお守りが暖かい光を放って輝いているところなんて、今の今まで久美子は一度も見たことがなかったからだ。

 久美子の目はその暖かな光に釘付けになった。

 ……そして、やがてそのあと少しして、そのお守りの光は久美子の両手のひらの中で、光を失い(まるで夏の終わりの蛍のように)、いつもの普通の、久美子の見慣れた古いお守りの姿に戻って行った。 

 その光が失われるのと同時に、久美子はいつもの、普段の久美子の意識の状態に(まるで夢から今、目覚めたばかりのように)はっと、覚醒して、戻った。


 久美子は目の前にある二本の火のついたろうそくのある(祭壇には石の屋根のような部分があって、ろうそくの火が雨で消えないようになっていた)古い祭壇を見て、それから後ろを振り返って、そこにいる信くんとさゆりちゃんの姿を見た。

 世界には強い雨が降っている。

 その雨に信くんもさゆりちゃんもずぶ濡れになりながら、じっと久美子のことを、(とても信頼しているような、信じているようなそんなまっすぐな瞳で)見つめていた。

 信くんはぎゅっとバットを握りしめていて、さゆりちゃんはうさぎのぬいぐるみのななちゃんをその胸に抱えるようにして、ぎゅっと両手を合わせて、神様に祈りを捧げるような姿勢をとっていた。

 ……信くん。……さゆりちゃん。

 二人と同じように強い雨に打たれながら、久美子は思う。

 ……私たちはさ、ずっと、ずっと友達だよね。大人になっても、もし、離れ離れになってしまうことがあったとしてもずっとずっと、友達の、……親友同士のままだよね? 

 久美子は雨の中で泣きながら、にっこりと二人に笑いかけた。

 すると、そんな久美子の泣き虫の笑顔を見て、信くんとさゆりちゃんは一度、お互いの顔を見てから、久美子を見て、久美子と同じように(雨の中で)にっこりと笑ってくれた。

 そんな二人の笑顔が見れただけで、久美子は、私は本当に幸せ者だと思った。

 森にぽっかりと空いたような、そんな三人のいる世界に『とても強い横風』が吹いたのはちょうど、そんなときだった。

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