14
久美子は目と口を大きく開けたまま、とにかくその場所から逃げ出してみんなのいる準備室まで戻ろうと思った。
でも、足がすくんで動かなかった。(腰も少し抜けていたかもしれない)
そんな様子の久美子を見て、「待って、逃げないでください。あなたに、『三島久美子ちゃんにとても大切な話がある』んです」と慌てた顔をして、その幽霊の女の子は久美子に言った。
「……大切なお話?」久美子は言う。(こんな風に幽霊と会話ができたのは、一度闇川さんという闇闇を見て、『そういうもの』に対して、少しだけ免疫ができていたからかもしれない)
「ええ。そうです。『とても大切なお話』です」久美子を安心させように、わざとらしくその幽霊の女の子はにっこりと久美子に笑った。(その笑顔はどこかさゆりちゃんの笑顔に似ていた。と言うかこの女の子幽霊はどこか全体的に関谷さゆりちゃんに似ていると思った。……いや、そっくりだった?)
「私の顔になにか付いていますか?」にっこりと笑いながら幽霊の女の子が言う。
「え、ううん。なにも」思わず久美子もその幽霊の女の子に向かってにっこりと笑った。
その久美子の笑顔を見て、幽霊の女の子は久美子に話を聞く準備が整ったと判断したようだった。
真っ白な幽霊の女の子は三島久美子に向かって、その『大切なお話』を語り始めた。
「まず、私の自己紹介から。私の名前はお七。と言います。しちは数字の七のお七(おしち)です」と幽霊のお七は久美子に言った。
「えっと私は三島久美子です」薄暗い豆電球の明かりしかない、真っ暗なトイレの中にある四角い鏡の前で頭を下げて久美子は言う。
「もう知ってます」お七は言う。
その言葉を聞いてそういえば確かにさっき、私の名前をお七ちゃんは言っていたと久美子は思った。
「あの、どうして私の名前を知っているんですか?」久美子は言う。
するとお七はちょっとだけ悲しそうな顔をして「……まあ、したかのないことなんですけど、やっぱり『覚えていない』んですね」と久美子に言った。
覚えてない? どういう意味だろう?
久美子は考える。
しかしそんな久美子の思考をお七が「久美子ちゃん。考えるのはあとにしましょう。名前のことはともかくとして、今は大切なお話が先です」とお七は言った。
「え、……うん。わかった」
すごく気になったけど、久美子は思考を切り替えてお七の話に集中した。
「ありがとう。久美子ちゃん。ではお話の続きを話しますね。まずは『この世界の正体について』。『今、久美子ちゃんがいる御影町は御影町のようであって、実は本物の御影町ではありません』」
とお七は人差し指を一本立てて、得意げな顔をして鏡の中から久美子に言った。
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