15

「ここは偽物の御影町。ある人によって作られた町。つまり『偽物の町』なのです」とお七は言った。

「ここが偽物の御影町の町」久美子は言った。

 不思議と驚きはなかった。

 もちろん、そんなことあるはずもないと思いながらも、もうずっと以前から、(きっと、あの今朝の違和感を感じたときから)もしかしたら私はこの町の正体に気がついていたのかもしれないと久美子は思った。

「あまり驚かないんですね」お七は言った。

「うん。あんまり」久美子は言った。

 久美子は確かに驚いていなかった。(驚きだったkらさっきお七を初めて見たときのほうがずっとずっと驚いていた)

「三島久美子ちゃん」

「はい。なんですか?」久美子は言う。

「ここからが大切な話の本題です。久美子ちゃん。この『偽物の御影町を作り出しているある人とは、いったい誰だと思いますか?」真剣な表情で、四角い鏡の中からお七が言う。(まるで推理をしているときのさゆりちゃんみたいだった)

「……その犯人は」

 そう言って久美子はじっと鏡を見つめる。


「……私?」

 久美子は言う。

 すると、鏡の中から突然、お七が消えた。そしてそこにはいつものように、『じっと自分自身の顔を見つめている三島久美子の見慣れた顔があった』。

 正解。

 誰かがどこかで、そんなことを小さな声でつぶやいたような気がした。


「……え、あ、あれ?」

 久美子ははっとする。

 あれ、私、ここで一人でなにをしていたんだっけ? 久美子はそれを思い出すことができない。さっきまで、なにかとても大切ななにかを誰かとお話していたような気がするのに、それをもう思い出すことができなくなっていた。

 周囲は薄暗い、天井の豆電球の明かりしかない薄暗い女子トイレの流しの台の前。壁の向こう側からは、雨の降る音が聞こえる。(もうだいぶ、弱くなったようだ。朝には雨はやむかもしれない) 

 そんなことを考えているとぶるっと久美子の体が震えた。

「早くみんなのところに帰ろう」

 そう思った久美子は足早にその薄暗い『誰もいない』女子トイレをあとにした。


 ……ばいばい。久美子ちゃん。またいつか、どこかで会いましょうね。


 そんな久美子の後ろ姿に不思議な小さな女の子の声がそう言った。

 電気が消えて、ばたんとトイレのドアが閉まると、世界は本当の真っ暗闇になった。その闇の中で、その声の主は消えた。

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