13 白い幽霊の女の子

 白い幽霊の女の子


 あ、怖がらないで。大丈夫。私は、怖くないですよ。


 久美子は夜中にトイレに行くたくなった。

 だけどすごく怖いので(なにせ今日は闇闇を見たのだ。この暗い夜の中に、ほかの闇闇が潜んでいても全然おかしくはない)さゆりちゃんにトイレまで付き合ってもらうことにした。

 信くんにトイレのことをいうのは恥ずかしいし、なによりも信くんは口を大きく開けて爆睡をしていて、まったく起きる気配がなかった。

「……さゆりちゃん。さゆりちゃん。起きて」

 久美子は関谷さゆりの体を揺すって小さな声でそう言った。

 するとしばらくして、「……うん?」と言って、まるで森の子うさぎのように丸くなって眠っていたさゆりちゃんは目を覚まして久美子を見た。

「……なに?」

 でも、すぐに不機嫌そうな顔になって(不機嫌そうな声で)さゆりは久美子に言う。

 久美子は「あのね……」と言って、自分の事情を話した。

「トイレまでついてきて」

 と久美子が言うと、さゆりちゃんはあっさりと「やだ。眠い」と言ってまた布団の中に潜り込んで丸くなって眠ってしまった。

 こうなるともうさゆりちゃんには期待できない。(そもそも、さゆりちゃんは寝起きに弱い人だった)

 なので、久美子はしょうがなく一人でトイレまで行くことにした。

 準備室の外に出ると、ざーという雨の音が聞こえた。


 その音は、きっと準備室の中でも聞こえていたのだと思うけど、部屋の中にいるときは二人のことが気になって、雨の音はあまり意識しないですんでいた。

 でも、確かに雨は降り続いていた。

 少しの間も、止んでなんかいなかったのだ。(久美子はなぜかその雨の音がとても気になった。なので久美子は少しの間、廊下に座り込んで丸くなって、じっとその雨の音を聞いていた)

 暗い夜の教室の廊下には、いたるところに闇があり、その闇の中のどこにでも、あの『闇闇』が潜んでいるような気がした。

 それでも目と体を闇に慣れさせるようにして、久美子はその闇の中をトイレに向かって少しずつ進んだ。(臆病な久美子にそんなことができたのは、もちろん、トイレを我慢することができなかったからだ)

 トイレには無事に着いた。

 どうやら、今日の夜の闇の中には幸いなことに闇闇は潜んではいないようだった。

 久美子はホッとして女子トイレの中に入ってようを済ませた。

 そして気分良く、その女子トイレの流しのところで手を洗っているときの出来事だった。

 手をハンカチで拭いた久美子はふと目の前にある四角い鏡の中を覗き込んだ。


 すると、そこにはもちろん三島久美子の顔が写り込んでいなければならないはずだった。

 でも、違った。

 そこに写り込んでいたのは『一人の白い(本当に全身が真っ白な)目だけが赤い、一人の久美子と同じくらいの年頃の女の子の顔』が写り込んでいた。

 久美子はその子の顔を見たとき、思わず悲鳴をあげそうになった。

「あ、大丈夫です。私はそんなに怖くないですよ。まあ幽霊なんですけどね」とにっこりと笑ってその白い女の子は久美子に嬉しそうな顔で微笑んできた。

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