7 ケータイ小説

 


「母ちゃん、母ちゃん。どうしたの?」


「ん? ……なんでもない」


「……泣いてんの?」


「泣いてないよ」


「けど……」


「たださぁ、母ちゃんがファンになってる人が可哀想でさぁ」


「……ファンて?」


「母ちゃんが愛読してるケータイ小説さ」


「何があったの?」


「いろんな人間ドラマがあんのよ」


「……ドラマって?」


「苦労した人や病気の人、いろいろでぃ」


「……」


「だが、人間てぇのは色があるもんだな」


「どんな?」


「いろいろよ」


「……」


「♪人生いろいろ~、……か。グスン」


「……母ちゃん、母ちゃん。泣いてんの?」


「んだ。……さて、どうすっか。激励の一言メッセージでも書くかぁ」


「……いいかも」


「けど、なんだなぁ。人間てぇのは、つらいときも笑ったりして、泣きたいときにも笑ったりして、どれがホントの笑顔か分かりゃしねぇな」


「母ちゃん、母ちゃん。落語家みたいになってるよ」


「あら、そうかい? 落語の読みすぎかな。けど、ま、落語はいいやなぁ。落伍者がいねぇことを祈るよ」


「母ちゃん、母ちゃん。いまのはオチ?」


「あぁ。少しオチついたからなぁ……気持ちが」


「……」





「かーちゃん、かーちゃん。にーちゃんがケータイみてわらってる」


「なんか、面白いメールでも見てんだろ」


「ううん。ケータイしょうせつっていってた」


「ケータイ小説だと? ……ははーん、ギャグ系を見てんだな」


「ううん、ごじ、りゃつじだって」


「なぬぅ、5時、6時?」


「ううん。ごじ、りゃつじだって」


「なぬぅ、5時、ヒツジ?」


「ううん。ぺんにぇーむ、じゃまりゃのかかしのごじ、りゃつじだって」


「なぬぅ、ペンネーム、邪魔だのかかし?」


「ううん。じゃみゃだじゃなくって、やみゃだ」


「なぬぅ、山田? 山田野案山子やまだのかかしと言や、母ちゃんのペンネームじゃないか。誤字・脱字だと? くうう、誤字・脱字で笑いやがって、腹立つ。内容で笑えってんだい」

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