6 失恋

 


「母ちゃん、母ちゃん。ただいまぁ……」


「あらっ、おかえり~! どした? 元気ないね。で、どうだった、告白した?」


「エッ? そんな告白どころじゃないよ。……勉強しないと」


「……?」





「かーちゃん、かーちゃん。にーちゃんがないてる」


「えー? ……やっぱりフラれたか。私似が裏目に出たな。父ちゃんに似てたら、ゲットしてただろうにな。くぅぅ。♪不憫ふびんなやつじゃ~、さあさあ、いい子だネンネしな~」


「かーちゃん、かーちゃん。おやつ」


「あら、いたの? おやつね。はいよ、大福だ。おいし~いよ。お前は父ちゃん似で幸せだ。なー、父ちゃんに感謝しなよ」


「うん! かーちゃん、かーちゃん。このダイフク、なんか、しろいとこにあおいのがある」


「えっ? どれ。……なーんだ、ただのカビじゃん。この青いブツブツを手で取って食べるの」


「うん」


「あーあー、青いのを食べんじゃなくて白いとこを食べんの。うむ……。けど、万が一ってことがあるか。念のために焼いたほうが安全だな。焼いとくからにーちゃん呼んできな」


「はーい」


(……当分は立ち直れないだろうな。失恋したショックは大きいもんだ。私も何度フォーリンラブしたか。そのたんびに〈失恋の女王〉なんて、ニックネームで呼ばれてさ。喜んでいいんだか、悲しんでいいんだか。ま、女王って呼ばれる分には悪い気はしないけどね。クッ)





「かーちゃん、かーちゃん。にーちゃん、しょくよくないって」


(そうとう落ち込んでるな。さて、どうするか……)


「ほらよっ、焼き大福だ。うまいよ~。フーフーして食べな」


「ん! アッチッチ」


「♪アッチッチ、アッチ! カビ取れてるんだろうか~?」


「うん! とれてる」


「ん? ……あら、そうかい。これ、コンガリ焼いた大福、にーちゃんに持っていきな」


「うん」


「持ってったら、にーちゃんに伝えておくれ」


「なんて?」


「海行ったときのにーちゃんみたいに、コンガリ焼けてるだろって」


「……うん」


「そして、“焼き餅を焼くほど大福、福きたる”って、付け加えときな。ほんのダジャレだ。メモるか?」


「ううん、だいじょうぶ」


「おまえは頭いいもんなぁ」


「もってくね」


「ああ、頼んだよ」





「かーちゃん、かーちゃん。にーちゃん、わらってた」


「あら、そうかい。……よかった、笑ってくれて」

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