5 告白
「母ちゃん、母ちゃん。最近、なんか胸が苦しい。病気かな?」
「なんだなんだ? 海行ったから、皮膚がんになったか?」
「胸とヒフは関係ないじゃないかぁ」
「あら、そうかい。じゃ、原因はなんだろ? 狭心症にはチッと早いしな」
「母ちゃん、母ちゃん。いまはなんともないんだけど、その子の前に行くと痛くなるの」
「えー? もしかして、恋か?」
「母ちゃん、母ちゃん。コイって何? 泳ぐコイ?」
「バッカじゃなかろか、ルンバ! 恋ってぇのは、好きな子のことを考えると、ドキドキしたり、胸がキューンとなったりするやつだよ」
「母ちゃん、母ちゃん。それそれ、胸キュン」
「どういうタイプよ?」
「髪が肩ぐらいで、目が大きくて、口が小さくて、スッゴくかわいいの」
「母ちゃんみたいじゃん」
「母ちゃん、母ちゃん。一つも似てないよぉ」
「あら、そうかい。けど、こう見えても、子どもんときは可愛かったんだぞぅ」
「母ちゃん、母ちゃん。母ちゃんの昔話じゃなくて、ボクのいまの話」
「あら、そうかい。だったら、グズグズしてないで、思いきって告白しちゃいな」
「……そんなことできないよ」
「なんで? 男は勇気と我慢だよ」
「じゃ、ガマンする」
「バッカじゃなかろか、ルンバ! 我慢は勇気のあと。勇気の前に我慢したら、なんの進展もないじゃないか」
「……けどぉ」
「けどぉ、じゃないよ。イクジがないなぁ。じゃあ、ラブレター書けば?」
「そんなことしたら、もし、フラれたとき、あとあとまで残るじゃないか。カッコ悪いよぉ」
「ったく。そんな先のことまで考えてたら、恋なんてできないよ。父ちゃんを見てみぃ、裸一貫で母ちゃんのとこに転がって来たんだよ」
「母ちゃん、母ちゃん。それって単なるイソーローじゃないか」
「居候だっていいじゃないか。惚れた女に命をかける。簡単にできるもんじゃないよ。えー? 父ちゃん、カッコいーだろ?」
「母ちゃん、母ちゃん。母ちゃんにはカッコいいかもしれないけど、ボクまだ小学生だから、コイに命はかけられないよ。勉強もあるし」
「ったく。お前は相変わらずロマンがないね。そんな現実だけに生きてるんなら、恋なんかするな」
「母ちゃん、母ちゃん。極端だよ。現実派でもコイはするよ」
「お前は矛盾だらけだ」
「母ちゃん、母ちゃん。……母ちゃんのほうがムジュンしてるよぉ」
「あー、も、アッタマきた。その子に告白しないんなら、ご飯作んないから。フンだ」
「……意味わかんないし」
「かーちゃん、かーちゃん。にーちゃんがコクハクするから、おなかすいたって」
「クッ。空腹に負けて、とうとう告白を決意したか。よしよし、計画どおりだ。晩飯は、“君が好きだぜ”にちなんで、“すき焼き”にでもするか。父ちゃんの給料日だし」
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