4 メール

 


「母ちゃん、母ちゃん。父ちゃんがメール見ながらニヤニヤしてるよ」


「エッ! 相手は誰だろ?」


山田野案山子やまだのかかしって人」


「なんだ、母ちゃんからのじゃん」


「ゲッ。母ちゃん、カカシって言うの? 本名」


「バーカ。ニックネームだよ」


「……か。よかったぁ」




「母ちゃん、母ちゃん。父ちゃん、まだニヤニヤしながらメール見てるよ」


「ずいぶん長いね。母ちゃんがメールしたのは、〈夕飯カレー〉なんだけどね。……おかしいなぁ。誰からのか、ちょっとスパイして来な」





「母ちゃん、母ちゃん。やっぱ、山田野案山子から」


「内容は?」


「ゆうべはよかったわ。ウッフン。ハートマーク」


「な、なぬぅー! 母ちゃんの名前にして、カムフラージュかも。ダッシュ!」


 バタバタバタ!(母ちゃんが階段を上がる音)





「母ちゃん、母ちゃん。遅かったね。『水戸校門』終わっちゃったよ。で、どうだった?」


「あ~、あれね? 一年前の母ちゃんからのメールだった。も、ずーっと保護にしてたんだって。勘違いしちゃった。エッヘッヘ」


「母ちゃん、母ちゃん。エプロン、裏返しだよ」


「あらっ、急いで脱いだから」


「母ちゃん、母ちゃん。なんで脱いだの?」


「子どもは知らなくていいの」


「母ちゃん、母ちゃん。スカートが後ろ前だよ」


「ったく。こういうデザインにしとけ」


「母ちゃん、母ちゃん。口紅がはみ出てるよ」


「も、うるさい。ご飯できるまで、どっか行ってな」





「かーちゃん、かーちゃん。にーちゃんがとーちゃんと、だれかにメールしてる」


「あら、誰にしてんだろ? 気になるけど、鍋から目、離せないしな――」



 パッパッパャッパー! パパパパ! パッパッパャッパー! (着うた)


「あら、メールだわ」


 カチッ(ケータイを開く音)


〈あいちてるよ、カカシ〉


「ったく」


 ピポパ(メール作成音)


〈メシ抜き!〉


 カチッ(ケータイを閉じる音)




 パッパッパャッパー! パパパパ! パッパッパャッパー!


 カチッ


〈ごめん。愛してるよハニー。ハートマーク〉

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